表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空記  作者: 緒俐
45/301

第四十五話:反撃の狼煙を上げろ

 朝の光が東の窓から差し込んで来る。それがレモンイエローのカーテンを通って、夢華の柔らかい髪に優しく当たった。


「ん〜?」


 規則正しい夢華はよっぽど前日疲れてない限り休日といってもそう昼間まで寝ていることはない。

 秀あたりがいれば翔に少しは見習えと言っているだろう。


「純君、朝……」

「ん…朝……」


 本日はふわふわと宙に浮かずに純は夢華の隣の布団でぐっすりと眠っていた。彼の夢遊病は毎日というわけではない。

 そして寝方に多少の問題はあろうとも、寝起きはそこまで悪くない純は数十秒ほどぼんやりして夢華と顔を見合わせた瞬間、二人は一気に覚醒した!


「沙南ちゃんっ!」

「沙南お姉ちゃんは!?」


 ドタバタと二人は和室から飛び出してキッチンへ向かう。そしてそこにはいつもの光景があって、二人の姿を見た沙南は太陽みたいな笑顔で朝の挨拶を告げてくれた。


「あら、おはよう純君、夢華ちゃん!」


 沙南が戻ってきたと実感した。そしてキッチンで桃色のエプロンを付けていつものように朝食を作る彼女に嬉しくなって、二人は彼女に飛び付いた。


「沙南ちゃん!」

「沙南お姉ちゃん!」


 おっとっと、と沙南はバランスを崩しそうになるが二人の天使のうるうるとした表情を見て笑みをこぼす。


「良かった〜お姉ちゃんが無事で」

「心配したんだよ?」

「ありがとう」


 心配かけてゴメンね、と言いながら小さな二人の頭を優しく撫でてやる。それをくすぐったく感じながら二人は笑みを浮かべた。


「さっ、二人とも顔洗って着替えてらっしゃい。ご飯食べてよう」

「うん!!」


 二人は元気よくリビングから出ていった。それと入れ違いに柳と紫月も二階から降りて来た。


「おはよう、沙南ちゃん」

「おはようございます」

「おはよう」


 手伝います、と紫月は薄紫のエプロンを借り、柳は末っ子組が寝ていた布団を片付けにいこうとしたが、目に付くのは綺麗な寝顔ではあるのだがどこか残念な啓吾の姿。


「結局兄さん、ソファーで寝たのね」

「秀さんの部屋で寝るはずもないでしょうから」

「当たり前だ、あいつの部屋なんかに泊まり込んだ日の目覚めは最悪だ」


 目を瞑っている状態で啓吾は答えた。どうやら末っ子組の騒ぎに気付いて起きていたらしい。


「起きてたんですか?」

「もう少し寝る」

「起きなさい、ご飯先に片付けてからにして」


 布団を片付けるついでといわんばかりに、柳は啓吾の掛け布団を引っぺがした。

 まだ床が名残惜しいといえば朝食の邪魔ですと紫月に言われ、啓吾は大欠伸してとりあえず頭が回転するまでソファーにもたれ掛かる。


「…沙南お嬢さんもう動いていいのか?」


 こういうところだけは医者である。体調面は龍の処置を信頼してるが、精神面は少々心配だった。


「平気ですよ。スーパードクターから愛情たっぷりの看病を受けましたから」

「それは羨ましいな。今度それで龍をからかってやろうか」


 どうやら心配なさそうだと思い啓吾は笑った。


 それからテキパキと朝食が作られていき、テーブルの上にその力作の数々が並べられたあと、シスコンに爆弾が投げられた。


「では、私は翔君を叩き起こしてきますから姉さんは秀さんをお願いします」

「ちょっと待った!! なんでお前達が起こしに行くんだ!?」


 妹中心に世界は回っている、と豪語する男は間髪入れずにつっこむと紫月からは冷静な答えが返ってくる。


「翔君を叩き起こすのは非常に面白いので。兄さんもストレス発散にいかがです?」

「紫月…お前性格次男坊に影響されてきてないか……」

「秀さんにはお世話になってますから」


 否定しないあたりこのままで良いのかと思ってしまうが、とりあえず紫月に関してはそう心配ないようだ。

 だが、篠塚家長女の場合はそうはいかない。


「んで、柳はなぜ次男坊を起こすんだ?」

「えっと……、起こしてくれると一日が穏やかに過ごせるからということらしいんだけど……」


 少し赤くなる柳を見てどこからか沸々と怒りが込み上げてくる。あの悪趣味が考えそうなことが見えてきた!


「次男坊〜〜!!!」


 シスコンはマッハで秀の部屋に殴り込んだことは言うまでもない。



 それから約二十分後、一行が朝食の席に揃ったのは良いが不機嫌なシスコンと腹黒に龍は尋ねる。


「どうしたんだ? やけに秀と啓吾の機嫌が悪そうなんだが……」

「目覚めが最悪だったもんで!」

「全て次男坊が悪い!」


 龍の問いに二人は同時に答えた。

 その割には向かいの席に座ってるじゃないか、とつっこんでやりたいところだが……


「とりあえず龍、昨日高原老と話した内容を全て教えろ。全員気になってたんだからよ」

「ああ、それもそうだな……」


 啓吾に促され龍は一つずつ丁寧に話始めた。


 天空記が世界最古の天界の歴史書だということ、自分達の前世がそれに関わっている可能性、そして天宮家の先祖に対しての悪行を働いてきたと説明し、高原は天空王として覚醒した自分を狙っているのだと……


 南天空太子という言葉が出てきた時、柳はハッとしたがそれはまだ伏せておくことにした。


「つまりだ、その天空記っていうお伽話を信じてる高原老が俺達にちょっかい出して来てるということか」


 沙南特製ツナ入り卵焼きにうまいと評しながら、啓吾は龍の話を簡潔にまとめた。


「みたいだな。確かに俺達と酷似してる部分もあるし、篠塚家にとっては本当に前世かもしれないがな」

「啓吾さんに従者なんて職はまず務まりませんよ。想像が出来ません」

「確かに合わないわね。でも龍ちゃんに仕えてたなら多少のサボりが許されてたのかも」

「ああ、間違っても南天空太子様の従者だけではなかったろうよ」


 秀と紗枝の意見に啓吾は刺々しく返した。間違いなく話がそれるだろうと龍は咳ばらいを一つして家長の威厳でそれを止め、話の方向性を正す。


「とにかくこのままじゃ埒があかない」

「そうだな」

「だったら兄貴、殴り込んでやろうぜ!」

「僕も賛成! 沙南ちゃんをひどい目に遭わせた奴なんかやっつけてやるんだ!」

「夢華もやっつける!」


 こういうときはすぐに年少組の方が純粋な結論を出してくれる。女性陣はくすくす笑い、秀もそれに賛成の意を述べた。


「そうですね、決着は早い方がいいですし、何百年も僕達の先祖にひどい仕打ちをして来たんですからたっぷりとお返ししてやりましょうよ」

「そうだな。秀、高原老の現在地を割り出せ」

「はい、すぐに」


 秀は立ち上がり携帯をいじり始めた。


「啓吾、君達家族は」

「当然付いていきます!!!」

「とのことだ」


 三人の妹の意見に啓吾は苦笑した。基本、篠塚家は好戦的である。


「しかしだな……」

「心配するな。妹達は足手まといにはなりはしないから」


 茶を飲み実に落ち着き払って啓吾は言った。夢華は純とがんばろうねーと張り切っている始末だ。


「だけど紗枝、お前は沙南お嬢さんとここで留守番」

「はいはい、夜に酒宴が出来るように準備してますよ」


 超人でも魔法使いでもなければ、確かに今回は厳しそうだと紗枝は判断するのだった。沙南もそれには同意見らしく了承する。


 そしてそうこう話しているうちに秀は早くも高原の居所を掴んだ。


「兄さん、高原老の現在地を割り出せましたよ」

「何処だ?」

「東富士の自衛隊演習場です」


 場所を聞いて啓吾の眉間にシワが寄る。今日偶然そこにいるというわけではないだろう。寧ろ待ち構えていると言ってもいい。


「…俺達の行動を先読みしてるのか」

「構わないさ、先読みしても結果は同じだ」


 家長の言葉に全員の顔がパッと輝く。龍は勝ち気な顔で告げた。


「高原老を潰しに行くぞ」

「オウッ!!!」


 反撃の狼煙は上がったのだ。




いよいよ殴り込みです!

自衛隊の演習場で暴れていただきます。(ここは創竜伝と一緒ですね)


ただし、全ての展開を全く同じにする気は毛頭ないので(竜に変身したりしないので)天空記らしいアクションとトラブルとラブを楽しんでいただこうかなぁと思います。


にしても秀…柳ちゃんに起こしてもらって何を企んでたのでしょうか……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ