第二百九十九話:終結
桜姫の張る結界の中、啓吾と紗枝は翔達の治療に当たっていた。辺りは龍と神の戦いの性だろう、幾度も光り雷が落ちる。
ただ、運良くこの場所に雨が落ちず治療に集中出来た。水を操る純や夢華の影響なのかもしれない。
しかし、龍が力を解放するだけ解放している性か、従者である啓吾と桜姫は意識がある分だけ影響を受けていた。
「うっ……!」
「くっ……!!」
「啓吾! 桜姫!」
意識を飛ばしかけた二人に紗枝が強く呼び掛ければ、二人は何とか持ちこたえる。今は意識を飛ばしてる場合じゃないと、啓吾は翔の肺に突き刺さっていた剣先を摘出した。
「剣先摘出完了……! 紗枝、縫合の糸は作れるか」
「ええ。だけど針は」
「この剣先で作る」
啓吾は剣先を変形させて一本の針を作り上げた。全てが急場しのぎの医療だが、まずは命をつなぎ止めることが先決だ。
「ううっ……!!」
「桜姫」
「はい」
桜姫は意識を取り戻しかけた翔に催眠を掛けると、彼はまた大人しくなった。人より催眠の掛かりやすい体質で本当に助かったと、啓吾は縫合しながらしみじみ感じるのだった。
「啓吾様……」
「どうした」
「主は……いえ、何でもございません」
桜姫は言葉を飲み込んだが、啓吾はきっぱりと答えた。
「あいつは戻って来る。天の力に完全に飲み込まれたりなんかしねぇよ。あいつは天空王である前に天宮龍なんだ。おまけに悪の総大将だからな」
ナイフで糸を切って縫合を終えると、啓吾はにやりと笑った。どれだけ天の力が乱れ狂っていようと、龍だから帰ってくると啓吾は信じていた。それに桜姫もふんわりと笑って答える。
「はい、そうですね」
必ず戻るとそう龍が言ったのだからきっと戻って来る。桜姫は自分の主が必ず戻って来るようにと、心から願った。
天の力の流れが変わる。一度龍から奪った力は逆流を始め、神は力が龍に吸い取られていることを悟った。
しかし、そうはさせまいと神は力を引き戻し、龍の首をさらに絞めた!
「天空王……!!」
「ぐっ……!!」
首の骨が折られるのではないかと、その前に呼吸がもたなくなるのではないかと思うほどの力で絞めつけられるが、それでも龍は一歩も引かなかった。
そして、神は足掻き続けるどころか、未だに自分を射抜いて来る龍の目に苛立ちを覚え始める。
「その目……! 私に敗北を与えたあの時と同じままか……!」
桜姫が操られている、沙南姫が捕らえられた、たったそれだけの理由で龍の力は爆発し、自分など眼中にもないと一瞬で敗北を与えられた。
誰かを助けるため、愛するものを守るため、それを言葉に出して全てを実現とする力を持つ者が目の前にいる。だからこそ、奪いたいのだ。
「天空王っ! お前の存在を私は認めない! 天を統べる王がお前であっていいはずがない! そこは私の居場所だ!」
「ぐっ……!」
体中に裂傷が走り、龍の意識はさらに朦朧として来る。しかし、その切り付けられた力の中から勝機が生まれた!
沙南の力がそこにあったのだ!!
「沙、南……!」
「なっ……!!」
その瞬間! 神の体は弾き飛ばされ、彼の得ていた天の力は完全に龍のものとなる!
一体何が起こったのかと神は空中で踏み止まると、そこには太陽の力を得た龍がいた。その姿こそ全ての天を手に入れた王と呼ぶに相応しい、まさに神がずっと追い求めていた力を得た天空王だった。
「何故その力を……!」
「沙南の力を奪っていたのは失敗だったな!!」
そう告げられて神はハッとした! 龍の天の力を強固にするのが沙南の太陽の力だ。それを神から奪い、龍の力となればそれは当然大きな力となる!
龍は黄金の目を輝かせ、剣にその力を込めていく。
「これで全て終わらせる。無へと帰れ!!」
「……!!」
天が全てを切り裂いた……!!
永い夢を見ていた。ただ、やけにその夢が優しくて、悲しくて、でも伸ばされた手を二度と離したくはないと思って意識は現実へと引き戻された。
「あっ……」
「沙南姫様!」
意識を取り戻した沙南姫に柳泉は駆け寄った。沙南姫は沢山の涙を目に溜めていたが、彼女はそれに構うことなく柳泉に尋ねる。
「柳泉……、ここは……」
「天空軍の本陣でございます」
そう告げられて沙南姫は少しずつ意識を現実に戻していく。そうだ、自分は意識を失ったのだと認識した。しかし、そこで彼女はハッとする!
「柳泉! 戦は! 龍様は!」
「沙南姫様、落ち着いてください! まだ御身体が!」
柳泉は自分の腕を必死に掴んで来る沙南姫に落ち着くように宥めるが、彼女は早く教えろと必死だ。
どうしたものかと思っているところに、この騒ぎを聞いた宮岡が苦笑しながら沙南姫達の元へやって来た。頭やら腕に包帯は巻かれているが、彼は無事にこの戦を生き抜いたのだ。
「沙南姫様、戦は天空軍の勝利に終わりました。天空王様も天の力をおさめ次第戻られ」
そこまでしか聞かずに沙南姫は飛び出した。いきなり飛び出してきた沙南姫に、兵達はかなり慌てているが、おそらく彼女を止めることなど不可能だろう。
やれやれ、と宮岡が苦笑したところに、かなり上機嫌な秀も二人の元へやって来た。
「秀様」
「柳泉、良将軍、沙南姫様を御止めするようにと御殿医殿には命じられていたのではないですか?」
「おや、そんな事をおっしゃってましたか?」
「申し訳ございません、秀様。でも、秀様も見逃されたのでしょう?」
いたずらっぽく笑う柳泉に秀もクスリと笑って答えた。理由は簡単なことだ。
「だって、止められないでしょう?」
天空軍の本陣を飛び出して沙南は天を翔ける。今すぐ会いたい、無事な姿を見て安心したい。ただ、それだけのために沙南は急ぐ。
そして、天の中で一点だけ優しい力に包まれている王の姿をついに彼女はとらえた。
「あっ……!」
涙が零れてきた。ずっと求めていた。何度も会いたいと願った。もう一度触れたいと、抱きしめて欲しいと、そして……!
「龍様!!」
龍はその声がした方を向いた瞬間、沙南姫は龍の中に飛び込んできた! それに驚いてバランスを崩しかけるが、涙を零して自分を見上げてくる沙南姫に龍は穏やかな笑みを浮かべた。
この大切な、愛しきものを守りたい。それはこれからも……
「よく、ご無事で……!!」
「ああ……、やっと戦いは終わった。これで、君との約束は果たせる……」
「あっ……」
唇は重なる。それに沙南姫は一瞬目を見開いたが、やがてそれはゆっくりと閉じられて互いの思いを共有する。
そして、それがはなれると、龍は彼女に約束の言葉を伝えた。
「沙南、俺と結婚してください」
二百代前、そして現代……
思いは繋がった……
「はい……!」
こうして、二百代前の戦いは終止符を打った。
そして、話は二週間後となる……
はい、という感じで二百代前の戦いが終了!
お話も予定ではあと二話かな。
次回は二週間後の現代からスタートです。
さて、何だかんだで長い話となった天空記ですが、本当この話ってツッコミどころ満載だなぁと改めて思います。
すでに、龍がここでプロポーズしてる時点でつっこまれること間違いなしという……
はい、きっと御気付きの方は御気付きでしょう。
でも、これはこれでいいのかなと……
うん、その解答もちゃんと書きますので。
では、その後のメンバーのお話もお楽しみ下さいませ☆