第二百八十六話:光
二百代前の姿へと覚醒していた翔と紫月が飛ばされた場所は戦場の最前線であり、もっとも力と力がぶつかり、双方に多くの犠牲を出していた場所だった。
翔がこちらに来たときは敵として現れた天空軍も、今度は味方として敵と戦う姿を見れば全員助けに行きたくなるが、活路を開くことが犠牲をへらすことだと紫月に諭され彼は快進撃を繰り広げる。
「どっけどけ〜〜!!」
「道を開けなさい!!」
容赦ない二人の風が敵を次々と吹き飛ばし、切り裂いて気絶させる。後方の自軍は既に二人の姿すら捕らえられていないが、後ろからの攻撃が少ないということはきちんと後詰めが出来てるということ。
それに感謝しながらも二人はさらに突き進むと、目の前に全長三メートルはあるだろう、大斧を持った虎の化け物がギラギラと肉食獣の瞳を光らせて叫んだ!
「西天空太子! 尋常に勝負せよ!」
「どけと言っている!」
「ならば勝負せよ!」
「翔様」
「ああ、すぐに追いつけ」
「はい!」
翔はさらに風を味方につけると、虎男のはるか上空を飛び彼をやり過ごしたが、紫月は虎男の視線が翔に向いた隙をついて鎌鼬で虎男を切り刻む!
「くっ……! 従者風情が……!」
「黙れ! 西天空太子様と戦おうなどと恐れ多いことを口にするな!」
「生意気なぁ!!」
身体を切り刻まれながらも、虎男は紫月に大斧を振り下ろしたが、彼女の目が白銀に輝くと先程よりも鋭い風が虎男に深手を負わせる!
「ぐあっ……!」
「沈め!!」
「ぐあああっ!!」
爆風を纏った蹴りを紫月が後頭部に叩き付け、虎男は石の大地に頭から突っ込んで意識を失った。
そして、虎男が完全に意識を失ったことを確認し、紫月は翔に追いつくためにスピードを上げるのだった。
その頃、また二百代前と違った歴史を辿るものがいた。
本来、南天空太子から闇の女神の元へ出向くはずだったのだが、闇の女神が南天空太子と柳泉の元へ姿を表したのである。それに彼は目を丸くして闇の女神に尋ねた。
「闇の女神殿、死神には会わなかったのですか?」
「ああ、どうやら奴が現れなくなったことも変わっているな。そちらはどうだ?」
「敵の数自体は増えてますけどね。ですがやはり勢いが弱まってきてはいますよ。桜姫と紗枝殿、それにあなたの力が今回はこちら側に入ってる性でしょうけど」
二百代前、闇の女神は死神と戦いその力を封じられたのだが、現代で死神を滅ぼした性なのだろうか、彼は現れなかったのである。
しかし、変わっていることはけっして良いことばかりではなかった。彼等は最後に自分達が滅びた場所へと足を進めながら会話する。
「だが南天空太子、明らかに二百代前と違うことがあるだろう」
「はい、兄上と神の戦いが長引いてることと、啓星と桜姫が主上と戦ってることですね」
「ああ、どうも嫌な予感がするな……」
言葉には出来ない何かを彼女は感じているのだった。
一方、主上と戦闘を繰り広げていた啓吾と桜姫は息つく暇もないほど、怒涛の攻撃を繰り出していた。
「舞い散れ……!」
青い目を輝かせて桜姫は無数の花びらで主上を切り裂こうと取り囲むが、それはあっさり神通力で桜姫に返される。
しかし、その花びらが桜姫の前で止まったかと思うと、それは重力を帯びて剛速球で主上に襲い掛かった!
「愚かな」
「逃しはしねぇよ」
啓吾の目もまた青く光り輝くと、主上の身体に重力の枷が掛かりその動きは止められ、重力を帯びた花びらは直撃したが、それはさらさらと塵となって掻き消された。
「その程度か……」
「どの程度が御望みですか?」
ふわりと甘い花の香りが主上の花を掠めたと同時に花びらが数枚、彼の足元から舞い上がってきた!
「舞い上がりなさい」
そう桜姫が囁いた途端、まるで火山が噴火したような勢いで花びらは主上を飲み込んだ!
ただし、重力を操る啓吾はすぐに主上に掛けた重力の枷がはずれたことに気付き、くるりと後ろを振り返って自分に叩き付けられようとした神通力を弾き飛ばした。
「甘ぇんだよ! 十年前と同じ手に引っ掛かるわけがねぇだろうが」
「そうか。これでお前の力が暴走するならそれでも面白かったんだがな」
「それでまたボロボロになりたかったのか?」
「なったところで私は殺せん」
ピクリと啓吾の眉が吊り上がる。十年前に殺したはずのGODの創主でもある主上の身体は、啓吾が付けたはずの傷も何もかもが綺麗に消え去っていた。
何より、身体はボロボロになっても魂が移り変わるという、どこかの古代文明の思想を思わせる所業をやってのけてるのだ。殺されないと豪語出来る理由も分かる。
「だったら今度は魂そのものを無に帰してやる」
「そんな所業をお前がどうやるのだ?」
「俺には出来ないが天の力を持つ奴なら出来るだろう?」
「やめておけ。桜姫の力程度で私の天の力は」
言葉を遮る力が発動し、それが主上に襲い掛かる!
「くっ……!」
急激に身体に掛かる負荷が増したが、それは啓吾の重力だけではない! 桜姫の片方の目が金色に輝いてるのを主上は確認すると、見えない力が腹部に直撃して彼は吐血した。
「これは……!」
「私が持つ天の力は主が暴走したあの儀式で与えられた負の部分。もちろん主の力の一部ではありますが、全てを滅ぼす力の一部には違いありません。だからまずはあなたの肉体を完全に滅ぼします!」
「ぐっ……!」
さらなる負荷が身体にかかり主上は自分の持つ天の力でそれを弾き飛ばそうとしたが、力を全解放した啓吾が完全に全てを押さえ込む!
「逃さねぇよ……!」
「啓星……!」
主上は唇を強く噛んだ。しかし、二人はここでさらに力を上げて完全に畳み込む! チャンスは今しかない!
「滅びよ……!」
そう桜姫が告げた瞬間、空が青い光を放ち、空間の全てがそれに包まれる! それに啓吾と桜姫の力が僅かに緩み、その一瞬の隙をついて主上は桜姫を神通力で弾き飛ばした!
「くっ……!」
桜姫は直撃を受けながらも空中で踏み止まる。しかし、彼等の意識は主上どころではなくなった。二人はこの光の元凶であろう人物の力を感じ取る。
「この力、龍か……!」
「主!!」
そう叫んだ声は届かず、また世界はさらに強烈な光に包まれた……!
そして神宮では、額から血を流し、左肩に龍の振るっていた剣が突き刺さった神が、目の前で天の力が暴走する龍を前にしていた。
「天空王……! くっ……!」
神は重力に叩き付けられて膝を折る。絶対的な存在、まさにそう呼ぶに相応しい天を従える王の意識は、既にそこにはなかった……
またまた話は大変なことになって来ています。
どうやら龍の身に何かがあったみたいですけど、相変わらず引っ張るのがこの小説の悪いところです(笑)
だけど彼の弟達、珍しくそこまで暴れていません。
折角覚醒したんだからいろいろやらかして欲しかったんですが、まぁ、たまにはね(笑)
そして、今回は予告通り啓吾と桜姫の戦いが書けて良かったです。
二人ともかなり力を全開って感じで使って追い詰めたところに龍が……
う〜ん、惜しかったなぁ。
次回は森達の視点も書きつつ、お話が盛り上がればいいなと!
そんな感じでお楽しみに☆