第二百八十三話:紡がれ始めた歴史
龍と神がぶつかった途端、まばゆい光と爆風が一行を叩き付け、夢華や純はふわりと体を持っていかれる。
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
「おっと!」
森は純の後ろにいたためそのままキャッチし、夢華は重力で縛られたところで土屋が抱き寄せて伏せる。
このままここにいては確かにまずいと、爆風が通り抜けたあと啓吾は指示を出した。
「ここから離れるぞ! 全員部屋の外へ出ろ!」
入ってきた入口の外へ一行は走り出す。しかし、光の中で戦う龍を見つめたまま、沙南は一歩も動こうとはしない。そんな沙南の手を取り、秀は彼女の名を叫ぶ。
「沙南ちゃん!」
叫んだ瞬間にまた爆風が叩き付け、秀は飛ばされぬよう沙南を抱き寄せた。そして、また風が収まって彼女の顔を見れば、スッと頬に涙が伝っている。
不安、悲しみ、また会えなくなるのではないかという予感……。その全てが押し寄せてきて体も心もこの場から離れようとしてはくれない。
「秀さん、私……!」
「大丈夫、兄さんは負けやしませんよ」
「だけど……!」
「沙南ちゃん、いつから信頼度百パーセントじゃなくなったんですか?」
「あっ……!」
そう告げられて沙南はハッとした。いつだって龍は自分を裏切るような真似も結末も残しはしない。それを信じていれば良いのだ。それが天宮龍なのだと、自分が一番知っているのだから……
すると、また新たな爆風が自分達に襲い掛かってきて、今度は秀ですらよろけるものになってきた。部屋の外から啓吾が叫ぶ。
「次男坊! さっさと来い!」
「分かってますよ。さっ、行きますよ」
「うん!」
爆風がやんだその一瞬、秀は沙南を抱えて部屋の外に出ると、啓吾が重力で石の扉を閉めて一行はまた次の目的地へと駆け出す。
ただ、最後尾を走る啓吾は一瞬チラリと後ろを振り返る。必ず追いついて来い、まだ敵は残ってるのだから、と思いながら……
そして、真っ白な空間の中でぶつかり合う力は、互いにいくつもの傷をつけていきながらも致命傷に至るものにはならなかった。
天の力と滅びの力はまさに互角であり、斬撃の一つ一つがただ澄んだ音だけを響かせて相手を崩す隙すらも作りはしない。
神はキリがないと一度三尖で龍の斬撃をさぱいて後ろに飛び、一定の距離をとった。
「やるもんだね、天空王。だけど、天宮龍の意識を完全に持ったまま覚醒できるところまで来ているとは思わなかったな」
目の色は確かに黄金に変わっており、甲冑を身につけた青い衣も天空王だった頃と全く違わない。ただ、意識は二百代前に戻っておらず、天宮龍として神と向き合っている。しかも力の暴走すらなくだ。
しかし、それには理由があった。もちろん、龍が意識を引きずられないようになってきたこともあるのだが……
「そうせざるを得なかったんだ。二百代前の俺では、天の力をコントロールできなかったからな」
寧ろ天の力をコントロールするまでには二百代の時が必要であり、それが丁度現代と重なったといった方が正確である。
「でも、納得出来ないな。君は二百代前に比べて天の力をコントロールすることは可能になったけど、力そのものはまだ天空王というには遠い。それでも天の力を操れるのか不思議だね」
神のいうことはもっともだ。力そのものが二百代前の自分を超えたというわけではなく、ただ天の力を一部コントロール出来ている状態だ。それでも天の力を扱えるのは通常あることではない。
「ああ、それは恐らく沙南姫が覚醒したからだ」
「沙南姫が?」
「そうだ。例えるなら空が青く見えるのは太陽光のおかげだろう? 俺と沙南姫の関係もまさにそれと同じ原理だ。彼女がいるから俺は天の力を扱える。お前達が沙南姫を狙った理由もそれが原因だからだろう?」
神は口角を吊り上げるとまたおどけた調子で龍に称賛の拍手を送った。
「さすがは天空王。だが、沙南姫は天の力をそこまで強固なものにする力の持ち主だったのか。すると、天空王がそこまで力を操れるのも彼女と交わったからというわけだ」
それからまた神は三尖を構え直し、それに力を送り始めると尖端にどす黒い血のような色をした、光り輝く球体が作り出され龍は身構える。
「だったら早く天の力を手に入れて沙南姫も手に入れるとしようかな。君が完全に天の力を操れるようになると面倒だからね」
「最後に一つだけ問う。お前は天の力を手に入れて何をするつもりだ。お前を滅びの神へと堕としたものへの復讐か、それともお前がなれるはずだった主上になるためか!」
そう告げられて神はピクリと反応した。天空記にすら記されていない内容を龍は問ってきたのである。
神は一旦力を鎮め、ただ身に纏う覇気だけを緩めることはなく龍に問う。
「何故その内容を知った?」
「神宮の壁に記されていたからだ。かつて神子が滅びの神となったと」
「……なるほど、全く主上もいたずらが過ぎるな。人の過去をつらつらと書いてくれるなんてね!」
その瞬間、神は龍に力を叩き付け龍の頬に真っすぐな切り傷が付き、すっと血が流れ出す。ついに神が力を解放したのだ!
「だったら分かるだろう? 私は天の力を奪われ滅びの神となった。だけど君は神でもなく天を従える力を持っているんだ。だとしたら手に入れたくなるのは当然のことだろう?」
「その為だけに二百代前、あんな戦いを起こしたのか! それだけの為にどれだけの犠牲が……!」
「全てを滅ぼしたのはお前だ! 天空王!」
また、光は弾ける……!
そして物語は二百代前、あの最後の戦いがまるで繰り返されるような事態へと動き出していた。
「あっ……!」
突然声を発して沙南は立ち止まる。
「沙南ちゃん、どうしたんだ?」
「沙南ちゃん?」
土屋と柳が問い掛けるが、彼女の目の色が段々黄金へと変わり、さらに意識そのものが引きずられ始める。
その変化に発とした柳は、先行して活路を開いていた秀と啓吾の名を叫んだ!
「秀さん! 兄さん! 沙南ちゃんが!!」
「……まずい!! 二人とも離れろ!!」
その瞬間!! まばゆい光が沙南を包み彼女の意識は完全に二百代前へと引きずられる。そして、赤い空の中に一つの光源が浮かび上がり、その光の中に桃色の衣と天女の羽衣を纏った姫が現れる。
「天界は一度滅び、二百代の時を経て再び雌雄を決する戦いは始まる」
「えっ……!」
「なっ……!」
一行は次々に膝を折り、体から溢れて来る力を抑えることが出来なくなる。ただ、それでも啓吾と桜姫はまだ意識を現代に縛り付けていられたが。
「テメェ……!」
「主上……!」
二人はこの力を暴走させようとしている人物を睨みつけた。啓吾にとっては、かつて自分が殺したはずのGODの創主の顔とまた対峙する形となったが、今はそれに感情を乱している場合ではない。
「今度の戦、二百代前と違う点は二つ。桜姫が我等の駒ではないこと、自然界の女神が力を失ってないこと、そして……」
主上は上空へ上がると沙南姫と対峙した。
「太陽の姫君、お前が力を覚醒させることだ」
歴史は紡がれはじめた……
非常に遅くなりまして申し訳ございません!
理由はちょっとやりたいゲームをクリアしてたことと、番外編も書いてるからですね。
そんなわけで、番外編ももうすぐアップするのでお待ちを☆
さて、今回は神の目的も明らかになり、さらに沙南ちゃんも覚醒したりと大変なことになって来ています。
多分、他の一行も意識を飛ばしながら二百代前の自分に戻ることでしょう。
だけど、まだまだバトルは激しくなる前。
ちゃっちゃと激しいの書け!と苦情がきそうな……
うん、次回は大乱戦になりそうなのでお待ちください。