第二百七十九話:神宮攻防戦
現代で死神が倒された頃、広大な神宮を崖の上から見下ろしていた龍達だが、その光景を目にしたシスコンと腹黒は揃って当時では絶対罰当たりだったであろう言葉を吐いた。
「何かここ、無茶苦茶苛立つな」
「同感です。兄さん、破壊しても構わないですよね?」
二百代前も聞いたような発言をまた聞いたような気がして、龍は渋い顔をしてその場に腰を下ろした。
「龍兄貴?」
「なんか俺はこの世界に入り込んで胃潰瘍でも起こす気がしてきた……」
「医者の不養生……」
「その前に人間だったってことだ」
胃薬でも持ってきたら良かったかなぁ、と純は思っていると、龍を胃潰瘍にする原因その一に重要なことを問う。
「啓吾、力はどうだ?」
「今のところは問題ないな。充分使える」
「えっ? 使えるんですか?」
使えなければいいのに、といかにもそう物語っている表情に啓吾は上等だと食ってかかる。
「次男坊、やっぱり今ここでくたばるか?」
「それは啓吾さんでしょう?」
その直後に重力と火がぶつかり、その巻き添えとなった神宮は一気に吹き飛んでいく! そんな二人の騒動に神宮を守る兵や幻想獣、おまけに異形の化け物までが集まってきた。
さすがにあの軍勢はまずいかと思うが、翔と純が飛び出そうとしたのを龍が二人の腕を掴んで止めた。
「龍兄貴?」
「行かんでよろしい。あれだけいれば少しはストレス発散になるだろ。それにわざわざ巻き込まれに行く必要もない」
そう告げた瞬間、神宮は有り得ないほどの大爆発を起こし、龍は体重の軽い純をグッと自分の腕の中に抱え込んだ。やったのはもちろん腹黒である。
「僕はいま機嫌が悪いんです。突っ込んで来るなら神宮もろとも吹き飛ばしますよ」
「うわぁ〜〜!!」
そう告げた瞬間に吹き飛ばしているあたり容赦ない。しかし、その隙を狙って、彼の背後から巨大な二体の鬼が数トンはあるだろう金棒を振り下ろして来た!
「死ね!! 南天空太子!!」
「くたばれ!!」
振り下ろした金棒が風を生み傍にいた神兵のバランスを崩すが、秀はやはり苛立っているのだろう、足に炎を纏って後ろ回し蹴りを放ち金棒を破壊した!
「なっ……!」
破壊された金棒に二体の鬼が唖然としているのも束の間、秀は軸足を変えて蹴りを放った反動を使い、今度は足から火炎放射を放った!
「うおおお〜〜!!」
「まずい! 離れろ!!」
鬼達に火炎放射が直撃し、その巨体の下敷きになる前に神兵達は逃げ出す。そして、倒れた鬼達は口から黒い煙を吹くのだった。
だが、それでも当てが外れたのか秀は舌打ちした。あくまでも彼の今一番倒したい相手は啓吾である。
「よけられましたか。今ので黒焦げになってれば良かったものを!」
「うわあああ!!!」
秀は傍に落ちていた金棒の残骸を啓吾にむけて思いっきり蹴り飛ばすが、啓吾はサッと体勢を低くして避け、それは神宮を破壊して神兵達が瓦礫の下敷きになった。
それに啓吾はさらにキレたのだろう、辺りの瓦礫がふわふわと浮かぶだけではなく、神兵や化け物まで重力を奪われた。
「下ろせ!!」
「啓星!! 貴様〜!!」
「外野がうるせぇんだよ!! くたばってろ!!」
「うわあああ〜〜〜!!!!」
重力の嵐が起こり、神宮はこの時点で三分の一の戦力が壊滅状態へと陥ったのだった……
龍の判断は正しかったんだ……、と青くなりながらも翔は辛うじて兄の名を呼んだ。
「おい、龍兄貴……」
「ああ、神宮は間違いなく消し飛ぶかもな」
「だけど、啓吾さんの力は何で使えるんだろう?」
純の疑問はもっともだ。二百代前の神宮とは違う、それだけは確かなのかもしれないが、それが理由だとはとても思えない。
何よりここの主は主上には違いないはず。かつて神宮を訪れた時、天空王の力さえ封じられたはずだ。一体何故なんだと龍は破壊されていく神宮を見ていると、段々その理由が分かってきた。いや、そうとしか考えられない!
「……まさか」
「どうしたんだ、兄貴」
龍は眩暈を覚えたが、やはり律儀なのかきちんと理由を説明することにした。
「翔、お前は神社に入った途端にそれを破壊するか?」
「はっ?」
いきなり何を言い出すんだと翔は目を丸くするが、龍は肯定されるわけにはいかないとごく一般的な考えを口にした。
「まずしないだろう? だが、あいつらはそれをやってのけてるんだ。二百代前、どんな武人でも神宮で暴れようなんて馬鹿はいなかったはずだ。その意志と神宮内の封印式が俺達の力を封じ込めていたなら話は分かる」
「つまり、秀兄貴達はその馬鹿なことをやってのけてると……」
「ああ、というよりこの感覚、二百代前のあいつらも力を貸してる気がしてならないがな」
というより、絶対貸しているだろうと思う。あの二人はよく神宮を訪れる際に力が封じられる事を嫌って破壊の衝動に刈られていたのだ。仮の天界といえども、壊せるものは喜んで壊すに違いない。
「まぁ、それでもやっぱり仮の神宮だからか、封印の力は弱まってはいるのだろうな。最初から力が強すぎる」
「いや、あれは秀兄貴達が本気だから封印も何も効かないんじゃ……」
翔の意見にコクリと純も頷く。少なくとも秀達が神宮を破壊して行く前、翔も純もいつもより力が出ない感じはあったのだから……
「だけど兄貴、そろそろ止めた方がいいんじゃないか? ボスクラスに当たる前に、あの二人ガス欠起こして使い物にならなくなるぞ」
「それで一度くらい痛い目に遭って反省した方がいいと思うが?」
「反省、するかな?」
純は首を傾げる。反省などあの二人にもっとも無縁な言葉に思えてならない。
「翔、止められるか?」
「あんな戦場にいけるか!!」
「はあ〜、出来るだけ力は使いたくないんだがな」
結局、いつもあの二人を黙らせなければならないのが悪の総大将の役目である。龍は立ち上がり、未だに激しい爆発が起こる戦場へ赴こうとした時、何かが聞こえた気がして彼は立ち止まる。
「翔兄さん……」
「ああ、聞こえたような気が……」
そして、その声は激しい攻防戦を繰り広げていた二人を止めた。
「隙あり!!」
「うるさい!!」
「引っ込んでなさい!!」
二人に襲い掛かろうとした者達は一撃で静められ辺りはようやく静寂に包まれる。確かに聞こえたのだ、ここにいるはずのない人物の声が。
「……幻聴か?」
たった少しの間離れているだけで、可愛らしい妹の声が聞こえるほど自分はシスコンだったか、と啓吾は思うが、それは幻聴なんかではなかった! 声は空から降って来たのだ!
「お兄ちゃ〜ん! 止めて〜〜!!」
「……はっ!?」
なんと! 空から夢華達が降って来たのである!!
ついに天空記も連載一周年!!
今まで多くの方に読んでいただけて本当に感謝です☆
これからも応援よろしくお願い致します!
さて、神宮では力が封じられるはずだったのにそれすらも跳ね退けて喧嘩する秀と啓吾兄さん(笑)
龍のいうとおり神宮で喧嘩するような馬鹿はいないので、その意思も立派な封印の力にもなっていた模様。
だけど、そんな馬鹿なことを二人はやっちゃったのね……
そして、またまた事態は妙なことになりそうです。
なんと、現代にいたはずの夢華ちゃん達が空から降って来るなんて妙なことに!?
一体どうなっちゃってるの!?
あと、活動報告にちょっとしたアンケートを書きました。
次回作のためにちょっとした案をいただけたら嬉しいです。
そちらもよろしくお願いしますm(__)m