表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空記  作者: 緒俐
278/301

第二百七十八話:炎上がる戦場

 屋敷から出た沙南達の前にまた新たな軍勢が現れる。その軍勢相手に、当然の如く紫月は風の力で吹き飛ばしていくが、どうやらただの人間をこちらに差し向けてきてはくれないようだ。


 彼女の鎌鼬の前に沈んでくれるだけありがたいが、渾身の一撃でも打ち込まないあたり再び起き上がって来る。


 それに舌打ちして、紫月は一旦一行が盾にしている防弾製の壁に降り立った。


「困りました、強化人間みたいですね」

「紫月、力は大丈夫か?」

「はい、ですがこのあと控えてる敵がいるなら私一人では少々きついですね。桜姫さんか姉さんが早く合流してくれればもちますけど」


 自分の力はこのままではそう長くは持たない。特に強化人間ぐらいで終わらせてくれるほど敵も優しくはないだろう。ただ、まだ奥の手はいくつかあるわけだが。


 そんな紫月の答えを聞いて、傍で強化人間の目を撃ってショートさせていた森にシュバルツは手を差し出した。


「森、レーザー砲を寄越せ」

「もう使うのか?」

「ああ、今は紫月を休ませた方がいい。レーザーで倒せない奴らが現れないとは限らん」

「分かった」


 シュバルツは森からレーザー砲を受け取ると、さすが啓吾に銃の扱い方を教えただけあって数体を一気にショートさせていく。


 そうやって自分を休ませてくれることに感謝して、紫月は臨戦状態を保ちながらも一度腰を下ろした。きっと、まだ死神以上の敵が現れるに違いないのだから……


 そして、紫月が休んでいるところに夢華がトタトタと走ってきて、両手でギュッと握りこぶしを作って紫月に力強く告げた。


「お姉ちゃん、夢華が戦うよ! だから少し休んでて」

「夢華、それはダメです! 夢華は沙南さん達を守って」

「お姉ちゃんも守るの! 私だって強いんだから!」


 いつも前線に出て、皆を守ろうとする紫月の負担を減らしたいという思いが伝わって来る。だが、だからこそ夢華に託したいことがある。


「だったら尚更です。夢華は私の力が無くなったときに戦ってください。姉さんが今覚醒している状態で、最悪力が暴走したときにそれを治められる力を私は持っていません。それが出来るのは夢華だけなんですから」


 火の力を消すのは水の力だけ。紫月の持つ風の力では、とてもじゃないが柳を抑えることは出来ないのだ。


 紫月は柔らかな笑みを浮かべて、夢華の頭を優しく撫でながら礼を述べる。


「ありがとう、夢華。ですが、私はまだ戦えますからしっかり沙南さん達を守ってくださいね」

「うん!」


 パアッと明るい笑みを浮かべると、夢華はまた沙南達の元へ走っていく。きっと夢華なら沙南達を守りきってくれるだろうと信頼して、紫月は森の傍に置いてあった手榴弾を拝借した。


「博士、すみませんがレーザー砲の攻撃を一旦止めてください」

「もう出るのか?」

「大丈夫なのか、踊り子」

「はい、折角手榴弾の使い方を教わったんですからここで使います」


 啓吾が知ればさぞ顔を青くするだろう、物騒な発言が紫月から飛び出すが彼女の闘気はいつもの倍だ。夢華に格好悪いところは見せられないのだから。


「では!!」


 一気に上空に舞い上がると紫月を狙って強化人間達も飛び上がって攻撃を仕掛けて来るが、空中戦で紫月を捕らえられるものはいない。


 スルスルと伸ばして来る腕をかわして紫月はさらに高く舞い上がると、地上に手榴弾を風の力もプラスして叩き付けた!


「全員伏せろ!!」


 土屋が叫び、瞬時に全員が伏せたのは正解だった。対化け物用に開発された手榴弾は物陰に隠れていてもかなりの爆風が襲ってきて、夢華は宮岡に押さえられてなければ吹き飛ぶところだ。


 しかし、紫月の攻撃はこの次がメインだった。手榴弾で破裂した熱の爆風を足に纏い、それを地上に叩き付ける!


「消し飛びなさい!!」


 有り得ないほどの爆発が起こり、強化人間達は人形としての形を留めていられないほど破壊された。


 そして、砂煙が少しずつ晴れてきて森は体を起こして傍に伏せていたシュバルツに尋ねる。


「……博士、生きてるか?」

「ああ、だが……」


 シュバルツも立ち上がり、視界に飛び込んできた殺風景としか表現しか出来ない庭に転がる強化人間達の残骸に、ただ呆然として告げた。


「手榴弾一つで強化人間壊滅とは……」

「さすが踊り子だな……しかも疲れてなさそうだ……」


 その理由はいたって簡単。紫月は自分の力で風を作り出したのではなく、手榴弾の爆風を利用して強化人間達を破壊したため、大して疲れはないのである。


 それからストンと上空から下りてきた紫月に、夢華がピョコンと紫月に抱き着いた。


「お姉ちゃんかっこいい! またやってね!」

「はい、この程度ならいくらでも」


 それはまずいんじゃないか……、と言うにも言えず、ただ仲睦まじい姉妹を眺めていることしか出来なかった……



 一方、屋敷内では桜姫と柳泉が死神に呪術を発動させまいと休むことなく攻撃を続けていた。


「燃え尽きよ……!」

「甘い!!」

「甘いのはそちらです!!」


 柳泉が繰り出した無数の火球を死の大鎌で跳ね返し、その隙をついて死神の背後を桜姫がとって花びらの波が死神を飲み込もうとする!


「くっ……!」


 避け切れず再び空間を移動し、今度は床から現れて桜姫の喉元を死の鎌が狙うが、いち早く柳泉がそれに反応して火炎放射を放ち、集中力が途切れた一瞬の間に桜姫は花びらとなって死神の前から姿を消す。


「柳泉!!」


 死の鎌で火炎を切り裂いて床を蹴ると、猛スピードで柳泉を切り裂こうと突っ込んで来る!!


「その首をよこせ!!」

「させません!!」


 再度無数の火球を放って柳泉は死神の動きを止めようとしたが、彼は火球が放たれた瞬間、仮面の下でにやりと笑った。


「かかったな……!!」

「えっ?」


 死の鎌は柳泉が放った火球を全て吸い取ると、死の鎌の柄をドン!と床に叩き付けた!


「死の術式を発動する」


 その瞬間、床に描かれた魔法陣が眩いばかりの青白い光りを放ち、古代文字とでも言おうか、それが柳泉と桜姫に襲い掛かり体中に刻まれていく!


「ああああっ!!」

「きゃあああ!!」


 二人の叫びが部屋中に響き、死神は付けていた仮面を投げ捨て火傷を負わされた顔が露わとなる。しかし、それは歓喜に満ちた表情を浮かべ、声高らかに叫んだ!


「さぁ、死の世界へ!」

「誘われはいたしません」

「なっ……!!」


 その瞬間、死神の目の前にいた二人は花びらとなって舞い散り、その花びらは死神を完全に捕らえる!


 何事かと思ったのも束の間、部屋にあふれていた青白い光が消え、さらには自分が持っていた死の鎌までが花びらへと変わる。


「なにっ……!!」

「忘れたとは言わせません。私は幻術が専門です」


 桜姫が告げた言葉に死神は驚きを隠せないでいた。


「まさか……!! そんなはずが……!!」


 そんな暇がいつあったのかと思うが、実際にいま自分はこうして桜姫の幻術に囚われている。それも自分を動けなくするまでにだ。


 そして、柳泉は自分の手に火の力を溜めながら事を説明しはじめた。


「私達はあなたに呪術を発動させるわけにはいかなかった。あなたが二百代前に闇の女神殿にかけたあの術式は力を封じるだけではなく、存在を消すものでしたから。

 だからこそ、あなたに魔法陣が完成したと錯覚を起こさせる必要があったのです」


 柳泉の手に溜まった力はそれは綺麗な火球へと変わる。ただし、その威力は先程の比ではない。


「そして、あなたは桜姫の幻術に掛かり、魔法陣が完成したと思い込まされた。それがあなたの敗因です」

「くっ……!!」

「あなたが滅びれば闇の女神殿の力は復活する。二百代前より闇の女神殿を苦しめた罪、この現代で償いなさい!!」


 柳泉の瞳がさらに紅く輝く!


「二百代前の亡霊よ、瞑府へと去れ!!」


 火球が直撃し、死神は魂ごと燃え尽きるのだった……




はい、死神も無事に倒しました!

うん、柳泉と桜姫相手では死神もどうにもならないかと。

だけど、火球と花びらが舞う戦場、綺麗なのかちょっと怖いのか意見は別れそうですが……


そして、手榴弾を有効活用してる紫月ちゃん。

前々から考えてた技だったみたいですが、啓吾兄さんがうるさいのでいままで披露しませんでした(笑)


ただ、紫月ちゃんの力はかなり節約出来る技みたいなので、今後も使うことがあれば使わせてあげたいなと(笑)


次回は龍達の視点にもなりますが、またこの話はおかしくなります。

いよいよ天空記も連載開始一年ですので、次のお話は二十七日までお待ち下さい。

ちょっとした予告も出来るかも?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ