第二百七十五話:ゲームは終わった
突然鳴り響いた警報に紗枝は目を覚ますと、いきなり乱暴に部屋の扉は蹴り開けられて数人の兵が彼女の寝室に入り込んできた。
そして、彼女の姿を見るなり兵達は卑猥な言葉を並べてくる。なんせシーツで肌を隠しているような状況だったのだから。
「へへっ……! 大人しくしてろよ」
「最高にいい女を犯せるとはラッキーだな」
確かにこの恰好はまずいな、と床に散らばってる服を見て思う。しかし、全く焦らないのはいかにも彼女らしい。手を伸ばせばスタンガンはあるのでそれをどう使うかだけだ。
「さて、その布団の中を見せてもらおうか!」
その時だ! 割れた窓ガラスから彼女を守るために鳥が兵達に襲い掛かる! チャンスだと紗枝はシーツを身に纏い、スタンガンを兵士達に当てた!
「フゴッ!?」
「グハッ!?」
白目を向いて兵士達が倒れると、鳥達は彼等から離れて天井を旋回する。紗枝はやれやれといった表情を浮かべて、持っていたスタンガンの電源を切った。
「……全く、人の寝込みを襲うなんて啓吾並に性質悪いわよ」
それでも並と言うあたりどうなんだ、と本人がいたらおそらく抗議して来るに違いない。ただ、寝込みを襲うことに否定はしないだろうけど。
そして、旋回している鳥達に紗枝はニッコリ笑って礼を述べた。
「ありがとう、助かったわ。でも悪いんだけどもう少しだけここにいてくれる? 服ぐらい着たいのよね」
それを了解したと鳥達は鳴き、紗枝はすぐに衣服を身につけて銃を装備する。それから鳥達に戻るように告げるが、まだ自然界の女神様から離れるつもりはないようだ。
「分かったわ。だけど、皆と合流したらもう大丈夫だからちゃんと安全な場所に戻るのよ」
そう告げて紗枝は一行がいるであろう、食堂に向かうのだった。
一方、森とシュバルツを先に食堂に行かせた土屋と宮岡は、一人でいるだろう柳の元へと走った。彼女も火の力を操るためやられてはいないだろうが、心配なことには変わりない。というより、彼女に怪我させたらシスコンと腹黒が世界を滅ぼす。
そして、柳の部屋に到達する直前、部屋に侵入していた兵士達の叫び声と銃声が鳴り響く!
「柳君! 無事かい!」
「土屋さん! 宮岡さん!」
柳は涙目になっていたが、部屋の惨状を見る限り彼女には全くといっていいほど危害はないらしい。いや、むしろあるはずがない……
「そうか……秀君が何の対策もせず行くはずがないよな……」
「ああ、というよりこの部屋はからくり屋敷か?」
二人の言葉通り、部屋の中に広がっていたのはからくり部屋の餌食となった兵達。感電して気絶だけならまだしも、壁に貼付けられていたり、天井にぶら下がっていたり、吹き飛ばされたのだろう、テラスの木製テーブルに頭から突き刺さっていたりと悲惨だ……
本当にどうやってこんな仕組み作ったのかと首を傾げるところだが、おそらく企業秘密としか言わないだろう。
しかし、いつまでも呆然としているわけにはいかないので、今のは見なかったことにしようと宮岡は促した。
「さっ、柳ちゃん行こうか」
「はい、それより皆は無事なんですか?」
「大丈夫だよ。紗枝ちゃんのところには鳥が飛んでいってたし、闇の女帝には側近がいる。何よりすでに桜姫君と紫月君が反撃開始してるみたいだ」
土屋はニッと笑みを浮かべた。
その頃、土屋の言葉通り反撃を開始していた桜姫と紫月は……
「うわあ〜〜!!」
全身に風を纏って相手を吹き飛ばしている紫月はご機嫌ななめである。というより、怒り任せに次から次へと相手を悶絶させている。
「せっかく人が作ったものを……!」
「ぐはっ!!」
「うわあっ!!」
強烈な蹴りが兵士達の顔面にめり込むんじゃないのかというほど入り、鼻血を吹いて彼等は倒れる。
紫月が不機嫌な理由は彼女が作った料理を無残なことにされたからである。ただし、もしこの場に翔がいたら間違いなくいまこの場は爆風で全てが片付いていたに違いない。
「舞い散りなさい」
「うわあ〜〜!!」
桜姫は桜姫で花びらを撒き散らしている。ただし、幻術を使って悪夢を見せているらしく兵士達には怪我はない。もちろん、精神の方は保障出来ないが……
そして、彼等の武器を集めて脳天気な会話を繰り広げているのが森とシュバルツである。
「……あの二人、とんでもなく強いよな」
「うむ、さすがは私の娘達だ!」
「娘達? 桜姫も入ってるのか?」
「ああ、紗枝さんといい桜姫さんといい、いい娘になるのは間違いないからな。それと沙南は私の弟子になるからお師匠様と呼びなさい」
「はい、お師匠様」
「うむ、やっぱり弟子はレディーに限る!」
シュバルツは非常にご満悦な表情を浮かべ、森は肩を竦めた。その時、夢華が闇の女帝に持たされていたそれはゴスロリチックな携帯が鳴り響く。どうやらメールらしく、夢華はシュバルツを見上げて告げた。
「ねぇ、ダディ」
「どうした夢華」
「彩帆お姉ちゃんが食堂に入ってだって。秀お兄ちゃんが開発した特殊弾をこのお家の大砲から放つからって」
「紫月! 桜姫さん! すぐに中へ入れ!」
森は夢華を抱えて走り出し、沙南もそのあとに続く。一体何事かと二人はシュバルツの方に意識を傾けると、彼は冷静な二人の顔色を変えた。
「秀の特殊弾が放たれるぞ!!」
そう叫ぶやいなや、二人は力を全開にして兵士達を吹き飛ばし、シュバルツよりも早く屋敷の中に入り込む。こんなところでやられるのは御免だと言わんばかりにだ。
そして、最上階で指揮をとっていた闇の女帝は全員が中に入ったのを確認した後、口角を吊り上げた。屋敷からは不協和音が響き渡り、最後にガチャンと何かが止まったような音がした。
「女帝! 全砲門開きました!」
「そうか。敵は引き付けられるか?」
「はっ! すでにこちらに向かって来ております!」
「うむ、よかろう。妾の屋敷を破壊した報いをくれてやる。放てっ!!!」
そう闇の女帝が命じ、数十発の砲弾が発砲されてそれは地に落下したが全弾が破裂しない。突っ込んできた兵士達も身構えていたが、何も起こらなかったために呆けてしまう。それは中にいた者達もだ。
「なんだ? 何も起きてないじゃないか」
闇の女帝の側近達も一体どういうことかと思うが、彼女は一つ溜息をついて傍の王座に腰掛けるとカウントダウンを開始した。
「……3、2、1」
その直後、強烈な光が辺りを包んだかと思うと、何かが破裂したような音が響き、煙が砲弾から吹き出し、最後に敵の兵器が弾け飛ぶ音がした。
「……おい」
「はっ……」
「敵の被害状況を報告せよ」
闇の女帝も若干動揺しているらしいが、さすが肝が据わっているのか態度には表れない。ただ、結果は聞かずとも分かるといった表情ではあるが……
「……壊滅です」
「そうか……」
とりあえず、第一波で雑魚の戦意を挫くことは出来ただろうと思う。寧ろ、このあとに雑魚を送り込んで来るほど相手を馬鹿だとも思いたくない。
すると、部屋の中に一行が流れ込むように入って来た。
「彩帆お姉ちゃん!」
「ああ、夢華! 無事だったか!」
「うん! 彩帆お姉ちゃんも怪我はない?」
「もちろんじゃ! 妾は夢華と純さえ無事ならば構わない!」
夢華をぎゅっと抱きしめ頬ずりする姿に、側近達の胸はキュンとなるが、事態はそれどころではない。側近の一人が闇の女帝に落ち着くように言えば、彼女は冷静になった。
「闇の女帝、第一陣は今ので壊滅したかと思いますが、まだこちらに向かう者達の情報はございますか?」
桜姫の問いに闇の女帝はコクリと頷く。
「ああ、いくらか空爆を狙った者達が動き始めたとの情報がある。妾の部下達が動いてはいるが、全て食い止められるかは……」
その時、宮岡のパソコンから警報が鳴る。また、差出人不明の相手からメールが送られて来たらしい。宮岡は急いでメールを開くと、その内容に固まった。
「おい、どうしたんだ?」
「……ゲームは終わった。二百代の時を越え、この現代にて雌雄を決する」
「お前何言って」
「御静かに、森将軍」
桜姫に注意され森は口を閉じる。そして、宮岡は冷汗を流しながら続けた。
「我、主上の刃となりて悪たる者を滅ぼす。我が名を……」
「死神という……」
「えっ……!」
ゆっくりと沙南が後ろを振り返った瞬間、空間を裂いて現れた死神は大鎌を沙南の首目掛けて振り下ろした……!
少しの間放置していてすみません!
皆様の地域は地震は大丈夫でしたか?
緒俐の地域は何事もなく無事でございます。
そんなこんなで、本日は秀の兵器炸裂といったところでしょうか……
いつの間に作ったのかは謎ですが、きっと龍に怒られない程度のものにはしてるかと……
うん、それで柳ちゃんが無事なら良かったんだよ、きっと……
そして、紗枝さんの自然界の女神様としての力が結構表面化してるみたいで。
紗枝さんも操れることは操れるみたいなんですが、啓吾兄さんにあまり使わないようにと言われてる模様。
多分、自分の意志が関わって来ると疲れちゃうのかな。生死も操る女神様だったわけだし……
だけどまた沙南ちゃんピンチ!
死神が……!!