第二百七十四話:戦いは始まった
柔らかな陽射しが部屋の中に差し込んで沙南はゆっくりと目を覚ます。そっと体を起こせば真っ白なシーツは体から滑り落ちた。ただ、昨夜思いが通じた相手は隣にいないようだ。
「……龍、さん?」
静寂に包まれた部屋には沙南以外に誰も存在しない。彼女は龍が既にGOD本部へ戦いにいったことを理解すると同時に寂しさを覚えた。
「二百代前と同じなんだ……」
沙南姫もきっとこんな思いを抱いたのだと思う。せっかく思いが通じたというのに、もう龍を求めている。自分はこんなに貪欲だったのかと情けなくなるが、昨夜、龍は約束してくれたこともある。
それを思い出して沙南は頭が回転しはじめたのか、一気に顔を真っ赤に染め上げていった。その時、タイミングよく部屋の扉がノックされた。
「沙南様、よろしいですか?」
扉の外から聞こえてきた桜姫の声に沙南は慌てる。よく考えればここは龍の部屋であり、自分は衣服を身につけずに眠っていたわけで……!
「ちょ、ちょっと待ってて!!」
沙南は急いで衣服を身につけ、乱れてたベッドもさすがは天宮家の家事を一気に引き受けてる所為か即効で直した。
そんな沙南の慌てぶりに部屋の外で桜姫は微笑を浮かべていたが……
そして数分後、若干息を切らして沙南は扉を開けた。
「どうぞ!」
「失礼いたします」
桜姫は礼をした後、それは綺麗な笑みを浮かべて入ってきた。どうやら彼女は全て訳知りらしいな、と沙南は思う。というより、彼女相手に隠し事などまず出来ないだろうが。
「沙南様、おはようございます」
「おはよう、桜姫さん。あの……、龍さんは?」
「夜が明ける前にGODの本部へ向かわれました」
「そっか……」
やっぱりそうなのか、と沙南は俯く。龍のことだ、心配をかけまいと内緒で向かったのだろう。それに龍達がGOD本部に乗り込むことによって、出来るだけ沙南達から意識を遠ざけようという思惑もあるのだろうが。
そんな沙南を見て、少しでも気が休まればと桜姫は龍の言葉を伝える。
「沙南様、主は必ず戻るとおっしゃっていらっしゃいました。ですからほんの少しの時間、お待ちいただけますか?」
「大丈夫よ。二百代前は起きたら誰もいなくてすぐに飛び出して行っちゃったけど、今日は桜姫さんがいるんだもの。龍さん達を追い掛けられないわ」
ニッコリ笑って答えてくれる沙南に、桜姫は思ってたより落ち込んでいないと安心する。
「あっ、だけどお願いしたいことが……」
「はい、何でございましょうか?」
沙南が何か頼み事をするなんて珍しい。すると沙南は赤くなって俯き、小さな声で告げた。
「えっと……、私がここで寝ていたことは内緒にして欲しいなと……」
その願いに桜姫は目を丸くした。沙南の気持ちは充分過ぎるほど伝わって来るが、今回ばかりは知られたくないと思っても阻止のしようがない。桜姫は申し訳ないと頭を下げた。
「沙南様、申し訳ございませんがその……既に皆様ご存知かと……」
「嘘っ!?」
「はい、ここには良将軍を始め、情報通が多いですから」
その通りである。ここにいるメンバーは世界の裏の情報すら収集できる猛者達だ。沙南が龍の部屋にいることなど筒抜けに決まっている。
それに沙南は真っ青になって桜姫の腕を強く掴んだ。
「ど、どうしよ〜!!」
「大丈夫ですよ、沙南様。おそらくとばっちりは全て主に掛かるように出来てますから」
「だけど紗枝さんからは逃げられないわよ〜!!」
紗枝から沙南をかばうこともまず不可能だな、と桜姫は泣きついて来る沙南にただ気休めの言葉をかけることしか出来なかった……
一方、朝食の支度をしていた紫月の元へ、夢華が涙目になりながら必死に駆けてきた。
「紫月お姉ちゃ〜ん!」
「おはようございます。どうしたんですか?」
いきなり抱き着いてきた妹、というより、本日は戦闘になるかもしれないからと某アニメを意識したようなフリルたっぷりの戦闘服とブーツ姿のヒロインは、早速爆弾を落としてくれた。
「朝起きたら純君がいないの〜!!」
「……えっと、それは」
「純君のお部屋にも行ったんだけどいなかったの〜!」
紫月は頭を抱えた。やっぱり一緒に寝ることが末っ子組には定着しているらしい。末っ子組なので特に問題はないといえばないが、来年は中学生になるのでこのままというわけにはいかないだろう。何よりシスコンがうるさい。
だが、純がいないと聞いて、紫月の頭にあの腕白小僧の姿が過ぎった。
「……ということは翔君もですか?」
「うん!!」
「困りましたね、てっきりいるものだと思って朝食作ってたんですけど」
作りすぎてしまったかなと思うが、帰って来ればきっと消費するかと紫月は翔の分を確保しておくことにした。
「お姉ちゃ〜ん!」
「大丈夫ですよ。すぐに帰ってくるでしょう。それより先にご飯食べましょうか。きっと今日は皆遅いでしょうし」
「どうして?」
「……情報収集で大人達は朝方に眠ってるでしょうから」
嘘はついてない、ただ姉達のことに触れていないだけだ。しかし、純粋な妹はそれだけで納得してくれるので非常にありがたい。それから二人はテーブルに自分達の分だけ料理を並べ、先に朝食を摂ることにしたのだった。
そして、紫月のいうとおり、情報収集で朝方眠った宮岡は、突如鳴り響いた目覚ましのベルに飛び起きた! 自分のプライベートアドレスにメールが来たときだけに鳴るよう、セットしておいたのである。
「……何だよ、もう朝かよ」
周りで寝ていた森、土屋、シュバルツも目を覚ます。ただし、仕事を手伝っていたのではなく酒盛りをしていたのだが……
「……おい、すぐに武装しろ」
「はっ?」
「来るぞ!!」
その時、屋敷中の防弾ガラスが全て割れ、中に敵が一斉に侵入してきた!! そして彼等はすぐに取り囲まれて銃口を向けられる!
「おいおい……何てメールに書いてあったんだ?」
森の問いに宮岡は深い溜息をついて答える。それはもう面倒だと言わんばかりに……
「The fight started.」
「戦いは始まった、か。いや、始まっていたの方が正確か?」
「どっちでも構わん。それより森、秀君が作った薬持ってるか?」
宮岡の問いに森達はそれは微妙な顔になった。確かに使うしかない状況下にはいるが、出来れば使いたくないというのが人の心というもので……
そんな会話を繰り広げていると、侵入してきた兵の一人が森の足元に発砲した!
「何を騒いでいる! 大人しくしろ!」
「そりゃ無理だ」
森は小さなパチンコ玉を地面に転がし、それが壁に当たった途端、そのパチンコ玉から青い煙が噴き出した!
「なっ!?」
一息吸い込んだだけで兵達はバタバタと倒れていく。どうやら今回はまだマシなものだったらしい、秀にしては優しい睡眠弾というところか。
防護マスクでそれを防いでいた森達は部屋の外に出ると、助かったことより秀に渡された怪しい物体の被害に遭わなかったことに安堵した。
「はあ〜、助かった」
「全くだ。精々自滅させないでくれよ?」
「だったら淳、お前が持て」
「断る! それより皆大丈夫なのか?」
至るところで戦闘になっているのだろう、爆発音だけは堪えることはなかった……
さあ、沙南ちゃん達のところにも敵はやって来たみたいです。
一体彼女達がどれだけ暴れてくれるのか、そして秀が開発した怪しげな物体の威力とは……!
何でこんなに嫌な予感がするんだろう……
だけど沙南ちゃん、朝起きて龍が傍にいないことに寂しいとは思いつつも落ち込んではいない模様。
桜姫が二百代前と違っていてくれることも有り難いみたいですね。
ただ、からかわれるのは確実でしょうが……
でも夢華ちゃん、小六で男女の境がないとシスコンがうるさいぞ(笑)
まあ、純君と一緒に眠っていたって男女がどうこう感じないのが末っ子組の凄いところですね。
次回は紗枝さんや柳ちゃんの視点も書きますよ。
ん? 下手したら二人とも寝込みを襲われちゃったりするのか!?
本当に大丈夫!?