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天空記  作者: 緒俐
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第二百七十三話:不完全な世界

 二百代前は自分の指揮下にいた兵達は、主の御乱心かと思われるほどの勢いで悉く気絶させられていく。ただし、翔はまだ加減しているらしく骨が砕けたり歯が飛んだりはしていない。


 一応、敵の術中といえども、かつての仲間という意識が翔の潜在意識に残っていた性かもしれない。


「ラストっ!!」

「ぐはっ!!」


 最後の一人を蹴り飛ばし、彼は壁に叩きつけられて気絶した。翔は一息ついて、今まで倒してきた兵達が廊下に伸びているのを確認する。どうやら調子に乗って龍達がいる位置から少し離れてしまったらしい。


「さて、戻るか」


 さすがに兵達を踏み付けて戻るわけにはいかないな、と翔は風を纏って飛んでいくことにした。


 そして、兄達がいる部屋に戻る直前、軽い重力を肌に感じたかと思えば、それはすぐに収まる。


「なんだ? 戦って……」

「遅いですよ、翔君」


 翔は目の前に飛び込んできた光景に呆然とした。自分が戦っていた軍勢の倍はいるだろう、兵達は泡を吹いて倒れていたのである。


 啓吾が全く疲れずに立っているということは、間違いなくやったのは悪の総大将だ。相変わらず平然としているが……


「さて、とりあえず天宮内の兵達は片付いただろう。さっさと神宮に乗り込むぞ」

「神宮ってやっぱりあるのか?」


 翔の疑問はごもっともだ。ただし、龍にはあるという確信があった。いや、直感と言ってもいいのかもしれないが。


「おそらくな。だが、その前にこの空間の説明もしておこうか。この世界に知り合いが出てきてやられました、じゃ話にならないからな」


 それは御免だと翔達は頷く。この前もそれぞれのパートナーと戦ったばかりだというのに、また前世の彼女達が出てきて攻撃を仕掛けられたり、人質にされているところを飛び込んで罠にかかったりはしたくない。


 特に二百代前と酷似しているこの世界ではふらふらっとつられる可能性も捨て切れないのだから。


 そして、龍は出来るだけ年少組に分かりやすいように説明を始めた。


「翔、まずこの場所の大前提はGODの本部であり、今いる場所は俺達が住んでいた天宮だということは分かるな?」

「ああ。なんか見覚えあるし」

「だが、ここは二百代前の天宮と同じものじゃない。かといって幻の類でもないけどな」


 こくこくと純は頷く。素直なために抵抗なく物事を受け入れられるのは純の良いところだ。


「そして主上の力は世界を創り出すこと。つまりここは主上が作り出した仮の天界ってところだ。だから天宮もあるなら神宮もある、そう考えるのが妥当だろうが、確実に違うところがある」


 外に出るように促されて、五人は天宮の屋根の上に飛び上がった。地形自体は懐かしいが、明らかに二百代前の眺めと違ってこの場所は寂れている。


 啓吾はかつて紗枝が自然界の女神として住んでいた森の方角を見れば、そこは生気の欠片もない樹海と化していた。


「翔、この光景から気付くことがあるか?」

「気付くって……空が紅くて雲が黒くって、生物は死んでる感じだよな」

「ああ、純はどうだ?」


 純はゆっくり周りを見渡す。翔と同じ感想だが、ふと決定的な世界の違いを発見する!


「太陽がない!」

「太陽?」

「うん! だっておかしいよ! 夜なら真っ暗で何も見えないはずだけど、視界ははっきりしてるでしょ?」


 おっとりしていてきちんと核心をつく。それが純の凄いところだ。普通は意識しないな、と兄達は感心してしまう。


 龍は正解と純の頭を撫でてやり、穏やかな笑みを浮かべた。


「そのとおり。この空間には太陽が存在しない。主上は世界の基盤は作れても太陽までは作れなかったんだ。光帝が主上と同じ権力を持つといわれていたのはその性だ」

「じゃあさ、どうして太陽がないのにこんなに視界がはっきりしてるんだよ」

「それはこの世界に光の女神がいる性か、俺の天の属性の性だろうな。俺達天空族は主に朝の世界を治めていたからな。夜の世界を治めていた夜天族もいただろう?」


 そう告げられて弟達は納得するが、それぞれ夜天族に不快な思いはさせられているため眉を顰める。


 特に秀と啓吾は間違いなく二百代前の記憶を思い出しているのだろう、柳泉が夜叉王子に奪われたことが脳裏を過ぎっているに違いない。


「とりあえず話を戻すが、神宮があると仮定して注意しておくことがある。神宮は神兵が待ち構えているかと思うが、おそらく力の類が一切消される仕組みがあるはずだ。あの自然界の女神が投獄されたぐらいだからな」


 翔と純は息を飲んだが、秀は哀れな目を啓吾に向けると手を合わせてそれは深く拝んだ。


「啓吾さん、柳さんは僕が幸せにしますからどうぞ安らかに逝ってください……」

「テメェ……!」

「だって啓吾さん、重力操れなかったらただのボンコツじゃないですか。銃弾だってすぐきれるでしょうし、神兵相手じゃただの足手まといにしかならないでしょう?」

「今ここで死んどくか次男坊……!」


 二人の間にいつもの火花が飛び散るが、龍は打開策を考えていた。ただし、賭けではあるが。


「だが、もしかしたら啓星なら破れるかもしれないな」

「……覚醒しろと?」

「ああ、自然界の女神様より力は上だろう? それに天空王の従者だったなら足手まといになるようなことはしないさ」


 むしろやってのけろ、という挑戦的な笑みに啓吾は溜息を付いた。確かに最悪の場合それしか方法はない気がする。


 ただし、それでも秀は相変わらず秀である。彼はあくまでもポツリと呟いた。


「啓星になっても戦死してくれた方がいいんですけどね……」

「次男坊……!」

「おや、聞こえてましたか?」

「聞かせたんだろうが!!」


 二人は一気に力を解放し、天宮でそれは派手なバトルを繰り広げる! いくつかの部屋や施設が大破するその様に、龍は二百代前の悩みが押し寄せてくる気がした。


 こんな二人のやりとりに自分はいつもこうして眉間にシワを寄せていた気がする。


「はあ〜」

「大丈夫? 龍兄さん」


 心配そうな顔をして尋ねて来る純の頭を撫でて龍は腰を下ろした。そして、ぐったりとして二人のやり取りを傍観する。


「俺はいま、天宮龍として生まれ変わって良かったと心底思うよ……」

「だよな……天宮の修繕費、半端じゃなかったんだろうな……」


 気苦労性の兄に、翔は同情するしかなかった……




天宮が壊れていくことに眉間にシワを寄せるかつての天空王こと龍。

そりゃ秀と啓吾が争えばどうにも……

きっと二百代前は本気で修繕費に頭を抱えていたことでしょう(笑)


さて、今回は世界の説明ということで龍先生がいろいろ教えてくれたわけですが、

どうやらいま龍達は仮の天界にいるみたいですね。

それを創ったのが主上らしいですが。


そしてこの世界には太陽がないらしく、どうやらそれが光帝や沙南ちゃんにも関係してそうです。


ですが、一旦視点を沙南ちゃん達へと戻しますよ!

龍達がいないなか、彼女達はどんな風に暴れてくれるのかお楽しみに!




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