第二百七十二話:天空軍
場所はアメリカ海軍天文台。そこに招かれていた龍達はこれから一暴れしようと戦意が高まるはずなのだが、どうも長男組の表情は微妙である。
兄達が怖気付くはずはないが、一体何が不満なのだろうかと秀は尋ねることにした。
「どうしたんですか? 微妙な顔してますけど」
「ああ、暴れるのは少しなぁ……」
「天文台とかは出来ればあまり壊したくないからな……」
それに秀はガクリと肩を落とした。そうだったなと年少組も納得する。
この長男達は、価値のある建物とか研究所とかを破壊することに若干抵抗があるらしい。天文台もどうやらその一つに入っているらしく、出来れば被害を出したくはないらしい。
しかし、不思議なことがある。あくまでもGODの本部と聞いていたにも関わらず、全く武装したような感じがしない。騙されたのかとも思ったが、わざわざそんな必要があるとも思えないのだ。
「う〜ん、GODの本部にしちゃ寂れすぎてないか?」
「だよね、アジトっぽくないや」
「だいたい何で天文台何でしょうか?」
弟達の疑問はごもっともだ。しかし、その理由はすぐに明かされる。いきなり空間の捻れが生じたかと思えば、まるでプラネタリウムの中にでもいるかのように星座が彼等を取り囲みはじめた。
ただ、焦りより勉強会になってしまうのがこの一行なのだが……
「おお〜、夏の大三角だな」
「バカモン! あれは冬の大三角だ!」
「翔君、いくら夏場でもそれぐらい区別付けられないんですか?」
そんなやりとりに啓吾は苦笑した。純はこのプラネタリウムに口を開けて感心している。確かにここまで精密なプラネタリウムなんて存在しないのだろう。
だが、冗談もここまでのようだ。この宇宙空間にブラックホールが現れたのだ。ただし、こちらを吸い込もうとはしていないが……
「おいおい、いかにも異空間へご招待って感じだな」
「翔君、実験で入ってみなさい。君のことは忘れませんから」
「いきなり俺は死亡確定かよ!」
「べつに良いじゃないですか。天国には美味しいものがありますよ」
「紫月の飯の方がうまいやい!」
そんな秀と翔の応酬は相変わらずというところか、それでも龍達にその役目を押し付けないのがこの二人である。
このままでは拉致があかないな、と龍は
自らが進み出た。
「行くのか?」
「ああ、この中に神がいることは間違いないだろうからな。それに俺はさっさと片付けて日常に戻りたいんだ」
「沙南お嬢さんとイチャイチャするから?」
茹蛸が一つ出来上がった。いつもならすぐに否定するが、さっき思いが通じたばかりの龍にとってそれは無理難題らしい。啓吾は目を丸くしてマジかと驚きを隠せないが、弟達は嬉しさを爆発させた!
「いやっほ〜〜!! 兄貴!! おめでとう!! これで俺達の文明的な生活は一生保障されたぞ!!」
「やったぁ!! 沙南ちゃんが本当のお姉さんになるんだね!!」
「ふむ、でしたらうちに戻ったら籍を入れて、おじさんに挨拶しに行かなければなりませんね。兄さん、結婚式はいつ頃」
「そこまで話を飛躍させるな!! まだプロポーズしてない!!」
そう叫んでニヤニヤと笑う弟達に龍はさらに赤くなった。まるで頭から湯気でも出てきそうな感じだ。
しかし、これ以上からかわれては堪らないと龍は弟達に背を向けてブラックホールの中に突入することにした。
「行くぞ!」
一行はブラックホールの中に飛び込み、異空間へと導かれていった。
それから数分後、光りが目の前に飛び込んできたかと思うと彼等の周りに広い石造りの廊下が広がる。かなりの歴史を刻んできたのだろうか、まるで古代中国とヨーロッパがセットになったような創りだ。
「ここは……」
「天宮だな。俺達の二百代前の家だ」
秀の疑問に龍は即答した。ただし、二百代前、実際に住んでいたものではない。なんせ二百代前の天界は滅びているのだから……
しかし、石造りの柱に触れた啓吾は微妙な表情を浮かべた。どうやら実際の建造物らしく幻を見ているわけでもないらしい。
「おいおい、SFにもほどがあるぞ。もう一度二百代前をやり直せとでも言いたいのかよ」
「それでめでたしになればいいが、どうやらそうはいかないみたいだな。それにここはあくまでもGODのアジトだ」
そう龍が告げた瞬間、彼はしゃがみ込み石柱にボーガンが刺さる! そして、しゃがんだところに二発目が撃ち込まれて龍は横に飛んでかわした。
「翔!」
「オウ!」
翔はボーガンが飛んできた方向に駆け出し、足に風を纏って蹴りを放つと、姿を隠していたのであろうマントが吹き飛ばされて人の群れが出現した。
そして、現れた軍勢に翔は微笑を浮かべる。その軍勢は真っ白な装束を着て武装しており、かつては西天空太子の元で戦場を駆け抜けた攻撃部隊だ。強さは天下に轟くほど。
「西天空太子様、御覚悟を!」
攻撃部隊の隊長がかつての主に牙を向ける。しかし、翔は好戦的な笑みでそれに答えた。
「掛かって来い!」
「放てぇ!!」
無数のボーガンが翔に放たれると、翔は風の力でそれらの弾道を全て逸らし、一番前にいた兵を数人一遍に蹴り飛ばした!
だが攻撃は止まることなく、傍にいた兵は剣を振り下ろす!
「やああっ!!」
「遅い!!」
「ぐはっ……!!」
兵の腹部を殴って気絶させる。その直後、背後から直槍で翔を突き刺そうと二人同時に突っ込んできたが、翔は背面跳びの要領で宙高く舞って背後を取ると首筋を強く打って彼等は倒れた。
それを啓吾達は傍観していたが、白の装束を着ているのはあくまでも翔の部隊。ならば当然他の部隊もいるのだ。
「天空軍は東西南北揃って最強と謳われる。翔の攻撃部隊はあくまでも敵を殲滅するためだけに存在するわけじゃない。第二陣の活路を開くためにある」
龍は石の壁の前に立ちそれを殴って粉砕すると、粉砕した壁の向こうには天の旗を掲げた青、赤、黒の装束を身に纏った軍勢が集っていたのである!
「これは壮観ですね」
「うん! すっごく強そうだね!」
「だが、この軍勢が龍に膝を折ってたんだ。まっ、もう命令は受け付けてくれないだろうけど」
こちらに叩き付けられて来る殺気は本物。おそらくこの軍勢も間違いなく本物の人間なのだろう。ただ、二百代前のように自分達を主だとは思ってくれないようになってるのだろうが。
「やるしかないみたいだな」
龍は力を発動させるのだった……
さあ、ついにGOD本部へと乗り込んだ龍達。
最初の舞台は天宮らしく、かつて天空王達が住んだ場所みたいですね。
もちろん、天界は滅びてますので、二百代前住んでた場所と全く同じというわけではありません。
しかし、いきなり彼等を襲ったのが天空軍。
天界にその強さが知れ渡っていたぐらいなので、今までの敵勢よりは歯ごたえがあるみたいですよ。
翔はそれでも軽々倒してるけど(笑)
これからのバトルを楽しみにしていてくださいね☆
だけどコントも忘れませんので(笑)