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天空記  作者: 緒俐
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第二百六十一話:また新たな事実

 天宮の一室に置かれた大きな鏡面。現代でいうテレビ電話の役割を果たすその前に南天空太子こと秀は立っていた。


 現在、彼の弟達とその従者はこれからこの鏡面に映るであろう人物の軍と抗戦中である。しかし、秀は普段着のままで自分が出向く必要はまずないだろうと寛いでいる模様だ。


 それは同じ部屋にいる啓星と桜姫も同じだ。簡素な青い衣を身に纏ってこれから鏡面越しに対面するであろう人物を待っていた。啓星に至ってはテーブルに頬杖をついて実にだるそうにだ。


 すると鏡が光り出し牛男の顔が映る。実に怒り心頭という表情に三人はこれは面白そうだと口角を上げた。


「すぐに天空王を出せ!」

「おや、貴君が兄に何のご用ですか?」


 優美に問い掛ける秀とはまるで正反対、牛男は爛々と目を輝かせて怒鳴り散らす!


「お前では話にならん! 天空王を出せ!」

「すみませんが兄はいま沙南姫と湯治に行っております。とても貴君と話せる状況じゃないですよ」


 啓星はテーブルの上に突っ伏して笑いを堪え、桜姫も青い袖布で口元を隠した。秀が言ってることは決して間違いではないが、また天界中に二人の噂が流れるに違いない。


 だが、牛男はこんな戦の最中に女と、しかもよりによって太陽の姫君と戯れているのかとより顔を真っ赤にして怒鳴り付けた!


「こんな時に女と戯れるとは我々を侮辱してるのか!!」

「戯れとは失礼な。二人とも本気に決まってるでしょう?」


 すぐに切り返す秀に啓星はバンバンと机を叩いて腹を押さえる。「いいぞ、もっと言ってやれ!」と、心の中で大絶賛しているが口に出すことはやめておいた。


 どうも南天空太子相手に舌戦を繰り広げても無駄だと牛男は唾を吐き捨て、彼等牛族の要求を叩き付ける。


「そんなことはどうでもいい! すぐに降伏しろ! そうすればこちらの軍は引いてやる! 弟達の命を絶たれたくはないだろう!?」

「ああ、構いませんよ。あなた達を懲らしめずに帰還すればどのみち私達が翔を処刑しますから。それはもう徹底的にね」


 本当容赦ないとあっさり切り返す秀にそんな感想を抱くが、牛男は啓星を見つけるなり矛先を向けてきた。


「啓星! 貴様の妹達も慰みものにされたいのか!!」

「ああ、そんな気を起こすならば今すぐに天空軍の総力を挙げてお前の首を取りに行ってやるよ。桜姫、将軍達に徹底的に叩けと連絡してやれ」

「はい、かしこまりました」


 桜姫はふわりと花びらを散らして消える。容赦ないのはどちらだと、秀はいつも啓星に言われていることをそのまま心の中で返す。


 だが、もしこの場に第三者がいて、柳泉が絡んで来れば、と問えば二人して今から戦場に乗り込むと言い出しかねない。結局、どっちもどっちなのである。


 とりあえずさっさとあしらうかと、秀は目の前の牛男に参謀として向き合った。


「さて、兄はそちらが天空軍に無意味な攻撃を仕掛けて来たことを謝罪すれば天の協議に従うとかなり譲歩してますが、貴君は何故それを認められないのです?」

「たかが天空族の若造などにこの俺が膝を折るか! それは我等の業に反する!」

「そうですか。ならばこちらも語ることはございません。やられたら倍返し、天空族の業に従ってお返し致しましょう」


 そう告げて通信を切ると消えたはずの桜姫がふわりとこの部屋に舞い戻ってきた。そしてニッコリと笑った瞬間、三人は笑い声を上げる。


「だ〜っはっはっはっ……!!」

「啓星様、笑い過ぎです」

「そうですよ、はしたない」


 とは宥めながらも、秀も桜姫もあまりの滑稽さにそれ以上続けない。そして一番苦しそうに笑う啓星はかなりツボにはまったらしい、涙まで流して笑っている。


「いや、あの顔と態度最高! それに、くくっ……!!」

「兄上と沙南姫のことに何の嘘があったのです? まあ、相手がどうとったかは知りませんけどね」


 というより誤解するような言葉しか並べてないだろうと言えば、どうでしょうかと悪戯な笑みを浮かべた。


「ですがよろしかったのですか? 主も沙南姫様も馬の湯治を手伝ってるというのに」

「ええ、誤解されてもあの二人なら全く問題ないですよ。寧ろ好都合です。牛族はやたらと人のものを奪おうとしますからね。何より今後のためにも沙南姫様に手を出すことは天空族を敵に回すこと、それに光帝との関係も強固なものだと知らせておきたいんですよ」


 秀らしいなと啓星達は思う。天空王自体は自分の主として沙南姫達を守りたいとただ純粋に思っているだろうが、やがて来るであろう大きな戦の準備をしておかないわけにもいかないのだ。


 それに大義名分もなく彼等の長は戦をすることを好まないのだから……


「神か太陽か……」

「……どちらか選ばなければならない日が来なければいいのですが」


 しかし、その願いは虚しく、叶わないことになる……



 牛男が沙南目掛けて大斧を振り下ろしたところに翔が高く飛び上がって斧を蹴り飛ばした。


「おらっ!!」

「ぐっ……!」


 衝撃に耐え切れず牛男の手から斧が弾かれる。そのまま翔は風を纏って後ろ回し蹴りを繰り出すが、牛男は消えてそれは空を切った。


「えっ!? また消えた!?」


 一体どうなってるんだと思えば、突如翔の後ろから空間を裂いて牛男が現れた! それに気付いて紫月は叫ぶ!


「翔君後ろ!!」

「死ね! 西天空太子!」

「いっ……!」


 咄嗟に翔は目を閉じてガードするが、いきなり体は重力の糸に操られて牛男から離され、その体は桜姫が花びらのクッションで受け止める。訳も分からず翔は目を開ければ、龍が牛男の頭を掴んでそのまま床に叩き落としていた。


「ぐっ……!!」

「油断のならない奴だ。まさか桜姫と同じようなことをやってのけるとは」


 天空記には書かれていなかったのにな、といかにも皮肉めいたことを言えば、その黄色の目は悔しさを宿して龍を睨みつける。


 それに対して、どういうことだと疑問符だらけの翔が桜姫を見上げれば、彼女は非常に丁寧な解答をしてくれた。


「幻術でございます」

「幻術!?」


 いかにも翔が苦手な敵だろうな、と一行は心の中でつっこむが、幻術系統に強い桜姫でもすぐに気付かないレベルではあった。


 しかし、そんな桜姫でも疑問に思うことがある。これだけ幻術を多発していたというのに龍は必ず本体の動きを捉えて攻撃をしかけている。しかもいつどこに現れるかまで予測していたとしか思えないほど判断も的確だった。それをどうやって見極めていたのだろうか?


「どうして簡単に見つけられたのか気になるか?」


 まさに桜姫の疑問そのものを龍は牛男に問う。すると龍は牛男が持っていた大斧を重力で自分の手元に引き付けると、牛男の首スレスレにその刃を向けた。


「天空記で違った内容は二点だけ。一つがお前が空間を移動したこと、もう一つがこの大斧を持っていたこと。それで充分掴めただけだ」

「ぐっ……!?」


 それだけで啓吾はなるほどな、と活字中毒者らしく納得するが他の者はそうはいかない。秀が説明しろと啓吾を見れば、怠そうに彼は答えてくれた。


「つまりあの大斧が幻術を作り出したってことだ。お伽話でもあるだろ、魔法の杖とかいう類」

「……それだけで分かるものですか?」

「読書量の差。牛男は俺達みたいな特殊な力は全く持っていないかった、だから何か道具が必要だったんだろ。まっ、あの残虐さがあれば傷の一つや二つは負わせられるだろし」


 それはそうなのだろうがと秀はあとの言葉が続かない。読書が早期対処法だったなど相手はある意味屈辱的だろう。


 だが、タネは割れても位置を正確に捉えた理由は啓吾でも理解できない。まさか勘なんてことは龍に限ってないだろうしなと思っていると、龍は低い声で命じた。


「桜姫、全員の視界と聴覚を遮れ」

「……かしこまりました」

「ちょっ! 兄貴!!」


 翔が声を上げた瞬間に全員の視界と聴覚は遮られる。しかし、桜姫は啓吾だけは遮らなかった。それに啓吾は礼を述べて二人は龍の後ろに立つ。かつて牛男がもっとも嫌っていたこの光景をいま、まざまざと見せ付けられている。


「……かつて天空王だったものとして問う。天空記の正史に光帝を殺したのはお前達牛族だと書かれていた。だが、お前などに光帝は負けることはまずない。殺した張本人は神じゃないのか?」

「……!! それを今更知ってどうなる!!」

「今だから必要なんだ。答えろ、誰が殺したんだ」


 白状しろとその目は牛男を射抜く。この空気が、この目が、そしてこの男の存在そのものが自分を天から見下す。自分達を二百代前からずっとだ……!!


 しかし、牛男は笑った。


「……主上だ」

「なっ……?」

「主上が光帝を殺した!! ぐあっ……!!」


 次の瞬間、牛男は大斧を自分の喉元に引き寄せて自害しそのまま消え去る。


 しばらくの間、龍達は呆然とその場に立ち尽くすのだった……




光帝を殺したのは主上!?

また伏線が増えて自分の首を絞めていく作者です(笑)


さて今回は二百代前のお話しから始まりました。

それにしても秀達っていい性格してるよ……

一応、策略なのに龍と沙南姫をくつっけようと日々楽しんでたわけで。

当然、二人の噂は瞬く間に広がるわけですが(笑)


そしてバトルも短く終了、自害という形になりました。

龍自身が殺害するという結果にならなかったもののその覚悟はあった模様。

だからこそ桜姫に全員の視界と聴覚を遮らせたわけです。


次回はどうして龍が相手の位置を正確につかんだのかを答えてもらって、沙南ちゃんの視点を書ければなと。




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