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天空記  作者: 緒俐
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第二百六十話:業

 全長三メートルはあるだろうか、黄色の目をギラギラと輝かせて牛頭人身の化け物は一行の中央に立つ。大斧を構えて獲物を選んでいるようだが、それを全く気にせず、秀は繊細な指を顎に当てて何やら考えているようだ。


「レア、ミディアム、ウエルダン……」

「どうしたんだ、秀?」


 秀からブツブツと聞こえてきた言葉に森は問えば、彼はあっさりと答えてくれた。


「はい、あの牛、どうやって焼こうかと……」

『鬼畜だ……!!』


 相変わらず過激な思考の持ち主に全員が心の中で突っ込む。そして、ようやく呼吸が落ち着いた闇の女帝は龍に礼を述べた後、高らかに秀に命じた。


「天宮秀、あんなもの消炭じゃ!!」

『もっと上がいた!!』


 一行は同時に心の中で突っ込む。しかし、ここで終わりではない。綺麗な笑みは浮かべているが、いつもより明らかにキレているであろう桜姫は別の提案を闇の女帝に持ち掛ける。


「彩帆様、恐れ多くも申し上げます。焼くのも良いかも知れませんが、生で切り刻むのも一興かと……」

『逆の発想かよ!!』


 桜の花びらが既に数枚桜姫の周りを舞っている時点で彼女の機嫌が良くないことは分かるが、闇の女帝は全く気にした様子もなく頷いた。


「ふむ、それも良いか」

『認めるのか!?』


 純はそんな会話を聞きながら、女性がキレたら恐いんだなぁと感想を抱くが、夢華と目が合えばふんわりとお互いに微笑む。彼女にいたっては本当に穏やかな気持ちにしかならないから不思議だ。


 だが、普通にグロテスクな会話をやってのける秀達に、森は世間一般的な感想例を述べた。


「俺はしばらくベジタリアンになりたくなってきたがな……」

「いいんじゃないか? 健康的で」

「だけど啓吾君はこの手の話はやっぱり平気かい?」


 実際にメスを握ってるものならばこの手の会話は平気なのかと土屋が尋ねると、啓吾は若干青い顔をして答えた。


「俺はオペ室の鶏肉の方がよっぽど恐ぇ……」

「……すまない」


 土屋は素直に謝った。どうやら啓吾の青春時代を思い出させてしまったらしい。ただ、彼にトラウマを残した張本人は情けないと言うだけだが。


 そんな緊張感のかけらすらない会話に、いつもなら頭を抱える気苦労性の悪の総大将は珍しく溜息をついてはいなかった。それどころか隙すらない。


「全員離れていてくれ。こいつは俺が始末する」

「龍兄貴! ズルイぞ!」

「ああ。だがお前は俺とケンカしてまだ傷は全快してないだろう? だから俺がやる」

「うっ……!」


 龍の放つ闘気に翔は怯む。どんな敵よりもやはり龍の方が性質が悪いと感じてならない。そして一歩後退した弟に秀は何があろうと手出し無用と釘を刺しておいた。


「翔君、そういうことみたいですから大人しくしておきなさい。今の兄さんに逆らったらせっかくふさがってきた頭の傷、メスで開けられますよ?」

「出さねぇよ。龍兄貴の奴いつも以上にキレてるし」


 それが正解だろうなと啓吾も納得する。神と対峙して気持ちが高ぶってるところもあるだろうが、それ以上に高ぶる理由がある。紗枝も写真は見ていないが、理由を知れば間違いなく周りの植物に影響が出ていただろう。なんせ、自分達は医者なのだから。


 龍は桜姫に闇の女帝を守るように命じ、ここでは少し手狭かとチラリと窓ガラスを通して外を見る。それから自分の約二倍の身長はある牛の化け物を見上げた。


「さて、あれだけ残虐なことが出来たんだ。お前に少しばかり知能があると仮定した上で話してやる」

「下等な天空族に見下される筋合いはない」

「ほう、牛なのに人間の言葉を喋るか」


 いかにも馬鹿にしたような言葉を発するが、龍はこの牛男が言葉を操ることを知っていた。


 二百代前、天空記に書かれていた牛男はすぐに血が上りやすかったらしく、その結果天空族との戦で何度も辛酸を舐めさせられていた。それで天空王のことを非常に憎んでいたそうだが、彼に報復する前に動いていた人物達がいる。


 もちろんその人物は冷徹非道の参謀とか、敵をおちょくるのが趣味の中ボスとか、主が対面する必要などないと仕事が早い従者であるが……


 しかし、龍も天空記と全く同じなのかと相手を探っているようだ。自分の怒りの感情だけに流されないあたりはさすがというべきか。


「人間の言葉など容易いものだ。そしてその思想も元を辿れば我々と同じだ。天空王、貴様もそうだろう?」


 どうやら簡単な挑発には乗らないらしい。さすがに二百代前に何度も天空族の御一行にやられて少しは耐性がついたのかと桜姫は心の中でそう評した。それに逆に問ってくるとも思っていなかったが、龍はこの程度の回答は予測済みだったようだ。


「ならば問う。お前は何故あんな残虐なことが出来た!」


 誰もを威圧する覇気を牛男に叩き付けると牛男の背に冷や汗が流れる。この男のこの覇気が気に食わないと牛男は奥歯を噛み締めるが、ドンと大斧の柄尻を大理石の床に叩き付けて叫んだ。


「奪い、犯し、殺す! それが我等牛族の業! お前達天空族もそうだろう!!」

「否!!」


 その瞬間、窓ガラスが開いて風が入り込んで来る! 龍はそれと同時に牛男の喉を掴んで外まで弾き飛ばし巨体が草の地面に倒れ込んだ! かなりの重量を誇るのか倒れただけで地面がぐらつく。


 龍はそのまま攻撃にも移れたが、倒れた牛男の胸の上に乗り王侯の風格を醸し出して睨みつけた。


「よく分かった。お前は人間の言葉を喋れてもそれ以上の学習能力は備わってなさそうだな」

「ぐっ……!!」


 体が動かない。完全に龍の重力下に押さえ付けられ呼吸も苦しくなる。そして龍は天空族の長だったものとして、それ以上に人間として告げた。


「二百代前、俺達は確かに戦で多くの命を奪った。その点は否定しない。だが、お前達のような業に捕われただけの低脳と同等に扱うな!」

「貴様……!!」


 反論する前に重力の糧は掛けられる。これ以上口を開けるなと言わんばかりに、その力は巨体を草の地面に減り込みさせはじめた。


「何より俺はキレてるんだ。この現代でお前は殺人を楽しんだ。お前を死刑に出来る人間がいないなら俺が執行してやる」


 冷酷とも言える目が牛男を射抜く! その目に牛男は恐怖より激怒の感情が沸いて来るのを感じた。この自分の上に乗る男はいつの時代も自分より優勢であろうとする。富も女もそして……!


「……次男坊、空気が変わった。警戒しろ」

「ええ」


 龍の重力下にいてこれだけの殺気を放つものを二人は何度か二百代前に相手をしたことがある。微かに掠めた記憶が二人の表情を引き締めた。


 そして覆り始めた力を感じた途端、龍は自分の後ろに浮く大斧の存在に気付く!


「天空王〜〜!!」

「くっ!!」


 龍は横に跳躍し刃を避けるが、動けるようになった牛男は柄を手に取ると龍の方向ではなく彼が最も大切にする者のもとへ突進していった!


「次男坊!!」

「分かってます!!」


 啓吾と秀が牛男の動きを止めようと力を発動するが、牛男はにやりと笑うとその場から消えた!


「なっ……!」


 二人は攻撃の対象を見失い一度その場に止まるしかなくなったが、頭はすぐに回転して声を張り上げた!!


「柳!! 結界を張れ!!」

「翔君!! 沙南ちゃんを守りなさい!!」

「えっ……!」


 次の瞬間、沙南と柳の背後に大斧を構えた牛男が立つ。現れたときと同じように空間を裂いて出て来たのだ!


「死ね……!!」


 大斧が振り下ろされた……!!




中途半端なところで切っちゃって……!

さっさと龍が倒せば良かったものの……

はい、そんな感じでバトルはまだ続きます。


それにしても一行の黒さがなかなか浮き彫りになった回でした。

秀が黒いのはお約束ですが、闇の女帝も桜姫もなかなかひどい発言を……

森がベジタリアンになりたい気分も分かります(笑)


だけど今回の牛男、空間移動をしてるみたいでなかなか大変そうです。

そして相変わらず二百代前の怨みがあるようですが……

まあ、この一行にひどい目に遭わされたというのはねぇ……

書いてないのになんで気の毒になるんだろう……




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