第二百五十九話:邪魔
パソコンの画面に映る神と対峙した一行はいつも以上に緊張した面持ちで立つ。龍は威圧感を放って立ち全くぐらついてはいない。寧ろ最初から感じ取っていた神の存在にどこか苛立っているようにすら思える。
しかし、神は満面の笑みを浮かべて龍に会えたことを喜んでいるようだ。王座の背もたれには寄り掛からず前に乗り出している。
「やあ、天空王。やっと君と対話できるなんて光栄だよ」
陽気な声に秀はピクリと柳眉を吊り上げるが、龍は態度には出さず威厳の漂う声で返した。
「話したければ直接こちらに出向けば良かっただろう?」
「うん、それでも良かったんだけどね。こちらも何かと忙しかったから」
「今こうして対話出来る暇はあるのにか?」
「相変わらず手厳しいな。まっ、隙なんて見せるタイプじゃないんだろうけど」
やれやれといった表情を作った後、神は王座の背もたれに寄り掛かって足を組んだ。そんな余裕の態度に秀も啓吾も今すぐにでも叩き潰してやろうかという気にさせられるが、龍の空気がそれを制する。
女性陣は出来るだけ画面から離れているようにと桜姫が促し、彼女達はそれに従う。特に二百代前、神に殺された沙南は気丈には立っているが、柳の手をギュッと握っていた。
「さて、折角このシステムを破ったんだ。ご褒美は何がいいかな?」
「そちらの情報を全て渡していただきましょうか。僕達はあなた達GODを壊滅させたくて堪らないんですよ」
「南天空太子は本当に過激だね。まぁ、こちらの居城には招待しようと思ってたからメールしておくよ」
そう告げてすぐに宮岡のパソコンにメールが届く。またもや彼のプライベートアドレスにだ。しかもあの予言のメールを送ってきた差出人と一緒である。
随分ふざけた真似をしてくれるなと思ったが、神自体が操作している訳ではないことを宮岡は見落とさなかった。律儀にアドレスを表示する魔法でも使ってるなら別だろうが。
「それより天空王、君に聞きたいことがあるんだ」
「……何をだ?」
「いつの間に天の力を操作出来るようになったんだい?」
龍が珍しくピクリと反応する。そうなのかという啓吾の視線に気づいた桜姫は小さく頷く。しかし、どうしてそのことを知っているのかという疑問を問う前に、神は微笑を浮かべて答えた。
「君に憑依した仮面の男を覚えてるかい?」
「……ああ。お前も俺の中にいたのか?」
「残念だけどそんな無意味なことはしないよ。君に憑依するだけで天の力を解放できるならとっくにやってるからね。だけど、彼が見てくれたものはこちらに映像として流れ込んできたんだ」
それに随分面白い会話も聞けたし、とおどけた調子で告げると、どうでもいいと龍は突っぱねる。
しかし、内心穏やかじゃないんだろうなと一行が同意見になるのは、触れていないはずのスプーンやらコーヒーカップがふわふわと浮いているからだ。
龍がキレたら無意味なのだろうが、シュバルツは目の前に浮遊するコーヒーカップに手を伸ばして何となく掴んでおいた。中身もないので重力の糸が切れてもこぼれることはないだろう。
「あいつを消し去った力はまさに天、滅びの力だった。そして桜姫、君も天空王の負の力を解放できるようになってるじゃないか。驚いたよ、二人してコントロール出来るようになってるなんて深い仲にでもなったのかな?」
「主を侮辱するつもりか!」
普段冷静な彼女も龍のことに関しては感情をあらわにする。二百代前から彼女は龍を侮辱するものに対してはどうしても血が上りやすいようだ。
しかし、それを聞いた沙南は少し不安になる。今の神の言葉は沙南に対しても向けられていた。桜姫もそれが分かっているからこそ余計にキレてはいるのだろう。
すると龍はすっと桜姫の前に立ち低い声で命じる。
「桜姫、下がれ」
「……申し訳ございません、主」
一礼して桜姫は下がる。語らずとも分かるのは主と従者の関係だったからだろうか。龍が言わんとしてることも、また沙南のことに関して怒ってくれたことも彼は分かっていた。
しかし、沙南の気持ちがどこか不安定になったことに神は口角を吊り上げる。だが、沙南の姿は残念ながら彼からは見えない。いや、龍が見せないといった方が正確だろう。
「……一つ聞こうと思っていたことがある」
「何だい?」
龍からの問いなんて珍しいなと神はニッコリ笑った。だが、その笑みを消してしまう問いを龍は投げ掛けた。
「お前は滅びの神なんだろう? だが、天空記に全く記載されてはいなかった。いくら末端といえども、俺の天空王になる儀式に列席できるほどの身分だったはずだ。それが何故記録されていない?」
神の表情が一瞬引き攣る。どうやら思った以上に核心を付いたらしい。しかし、彼はまたおどけた調子で答えた。
「……本当に読書家なんだな。あの量を簡単にチェックするなんて」
「闇の女帝が味方についてるんでね。おかげでじっくり読み込めなくて残念だったところだ」
「闇の女帝? ああ、闇の女神殿だね。彼女も相変わらずそちらの味方なのか。だけど記憶はどうなんだい? いや、力もないだろう?」
まずいと思わなかったのは末っ子組だけだ。ニッコリ笑って末っ子組の手を離した後、一気に怒りの表情へと変わり、闇の女帝は龍にどけと命じていかにも彼女らしい言葉を吐いた。
「妾をお前などと一緒にするな! 欲にまみれた下等な神が!」
それはまずいんじゃないかと啓吾でも思ったが、神は目を丸くし数秒間静止した後吹き出した。どうやら瞬殺する気はないようだ。
「……ハハッ、変なものだね。今の言葉、普通なら言った瞬間に殺してるのに闇の女神殿だけには腹が立たないよ。やっぱり私と似てるところがあるからかな」
「まだ見下すか」
「とんでもない。二百代前に数多くの女神はいたけど、自分の地位に溺れたカスばかりの女神とあなたは違うからね。ただ、神族に味方していればこの現代でもう少し光りも見れただろうけど」
「そうやっていくら妾を見下そうとも二百代前の過去は消せぬ! 滅びの神よ、お前が天空記に記載されなかった理由は……!」
次の瞬間、空間を裂いて牛頭人身の化け物が大斧を闇の女帝目掛けて振り下ろしてきた!
「彩帆お姉ちゃん後ろ!!」
振り下ろした斧がテーブルを切り裂いただけではなく、壁や床にまで深い斬り傷を残す。龍に抱えられて斬撃を逃れた闇の女帝は息を乱すが、画面に映る神を睨みつける気力はあった。それに神は大したものだと口笛を吹く。
「へええ、そんな気力はあるんだ。だけどあまり私を怒らせないでもらいたいな。じゃないとあの写真の死体みたいになるよ?」
闇の女帝の脳裏にあの惨殺された死体写真の映像が過ぎる。写真には間違いなく斧で切り裂かれた跡が残っていた!
「まさかあいつが……!」
「そうだ。まっ、君の軽はずみな言葉のペナルティだよ。ああ、だけど二百代前は優秀過ぎた故に闇の女神に落とされたと天空記には書かれていたかな」
「ふざけるな!! お前が……!」
突如闇の女帝の体の力が抜け龍は慌てて支える。神の殺気に射ぬかれたのだ! それに龍は何をすると神に覇気を叩き付けるが、いつものようなおどけた表情を彼はもう浮かべない。
その証拠に彼の周りの空気は淀みはじめ、まさに滅びを司る神として龍に対しても殺気を叩き付けてきた。
「天空王、その天の力は必ず頂く。二百代前、お前に滅ぼされて消された恨みを晴らし、そして沙南姫」
「くっ……!」
「沙南ちゃん!」
目を合わせてもいないのに身体の底、いや、深い闇の中から恐怖が沸き上がって来る。柳に守られていても心が砕けそうになる!
「天空記における全ての争いの原因となった太陽の姫君、お前を」
「えっ……!?」
突然パソコンは大破する。やれやれと思いながらも啓吾は破壊した者達に一応言っておく。
「おいおい、神の狙いが分かったかもしれないのによ」
「ゴメン! 何かムカついたから!」
「ごめんなさい。嫌だったから」
「良いんですよ。純君のおかげで僕の力も大火にならずに済みましたから」
「というより一番早かったの龍兄貴だろ?」
天宮家の長男に全員の視線が向けられる。そして一言で理由を告げた。
「すまない、邪魔だ」
実にあっさりした理由だった。
お待たせしました!
次回はバトルになりそうな予感。
牛頭人身の化け物と戦うことになりそうですね。
だけど完全に飛んで火にいる夏の虫……
はい、そんな感じで龍と神との対話。
どうやら天空記には神の記述がなかったらしいですね。
それは一体どういうことなんでしょうか?
しかもその答えに闇の女帝も感づいていることがありそうです。
龍達がもう少し天空記を読み込みたいと言ってた理由はここですね。
だけど神は龍にも恨みはあるにはあるみたいですが、それよりも沙南ちゃんにも何かありそうなことを……
ですが天宮兄弟、主を傷つけるような元凶は揃って破壊。
龍も邪魔の一言で片付けるほど怒ってるんだなぁ(笑)