第二百五十三話:離陸
空港で次々と襲い掛かって来る者達を秀達は遠慮なく薙ぎ倒し、吹き飛ばし、翻弄しと破壊の限りを尽くしていた。
しかし、それぞれの戦い方にもやはり個性はあるもので同じ兄弟でも細かいところまであげればかなり違う。ただし、悲惨さで言えば上のものほどひどくなっていく法則はあるようだが……
「小僧ども! 調子に乗るな!」
「おっと!」
誰よりも身軽な翔はライフルの弾丸を軽く避けて高く跳躍し、風を纏った蹴りで敵を一気に吹き飛ばす。そして弟は無事かなと上空から見下ろせば随分はしゃいでいるようだ。
「鬼さんこちらっ!」
「ガキィ〜〜!!」
やはり小柄な純は自力で捕まえようと大人達の腕が伸びて来るが、それをスルスルとすり抜けながら強烈な一撃をお見舞いしていき、集団で取り押さえようと襲い掛かって来るものには大量の水を頭から掛ける。
「このガキがぁ!!」
ついにブチ切れた者達は純にレーザーや毒針の砲口を向けてくるが、引き金を引く前に翔が一気に彼等を吹き飛ばした!
「善良なテロリストに危険なものを向けるな!!」
「うわあ〜〜!!」
重傷者を既に千人ぐらいを出してるのに善良なのかなと純は首を傾げるが、翔に助けてもらったのでニッコリと笑って礼を述べる。
だが、暢気にしてる暇はなかった。ミサイルがこちらに向かって発射され翔はまずいと純の腕を掴んで飛び上がる。しかし、飛び上がれば武装ヘリが機関銃を発砲してきた!
「やべっ!」
純を腕の中に庇って球体の風の壁を作り全ての弾道を逸らす。そして反撃しようと風を飛ばす前にいきなりヘリは爆発して墜落した。こんな容赦ないことをする兄は一人だけだ。
「秀兄さん!」
「純君、怪我してないですか?」
「大丈夫だよ!」
「そうですか。それより翔君、すぐに下りていらっしゃい!」
「うっ……!?」
ニッコリ笑ってる表情は間違いなく純を危険な目に遭わせた責任について問われるからであって……
下りた瞬間に強烈なデコピン一発に沈められて、その間に攻撃してきた者達は煩わしいと指をパチンと鳴らした瞬間に弾け飛んだ。
「さて、純君、そろそろ離陸する時刻ですから滑走路まで走りましょうか」
「うん!」
「翔君、いつまでも寝てないで早く立ちなさい。おいていきますよ」
「誰の性だよ……」
ヒリヒリする額を押さえながらも三人は滑走路に向かって走り出す。
そして走り出しジェット機を視界にとらえると体が一気に軽くなったのを感じ、いよいよ空港と別れを告げるのだと秀は微笑を浮かべる。
「翔君、兄さんの力の範囲に入ったみたいなのでもうおいていかれることはありません。なので飛び立つ前に少し力を貸してください」
「へっ? もう結構壊したと思うけどなぁ」
どこもここも火の手が上がってるじゃないかと思うが、あくまでもこの参謀は徹底的にやる主義である。翔にまた何やら怪しい玉をひょいと投げ渡しニッコリと微笑む。
「何だよこれ……」
「管制塔に向かって投げてください。離陸した途端にミサイルを撃ち込まれて墜落するのも面倒ですからね」
「そりゃまあ……だけど危ない感じが……」
「僕の力じゃ剛速球であそこまで飛ばせないんですよ。風の力なら可能でしょう?」
「仕方ねぇなぁ……」
そう呟いた瞬間、秀は純を抱えて発進準備を始めたジェット機に急いで飛び乗った! 純がキョトンとした表情を浮かべると同時に機体が浮かび上がり爆風が機内にも入り込んでくる!
そしてそれに体をもっていかれない天宮家の長男は一気に力を発動させ、外にいた翔を機内まで引き寄せて扉を閉めた。
「良かった、無事でしたか」
何の悪びれもなく秀はご苦労様とニッコリと笑う。しかし、ぜいぜいと息を切らしながらさっき自分が飛ばした玉の破壊力を目の当たりにし、危うく巻き込まれそうになった性で翔の顔は珍しく青くなっている。
だが、無事に離陸出来たことを確認して秀は立ち上がれそうにない翔の目線までしゃがんで尋ねる。
「どうしたんですか? 顔色が悪いみたいですけど」
「ふざけんな!! なんて危険物投げさせてんだよ!! 本気で死ぬところだったじゃねぇか!!」
「兄さんの重力下だから大丈夫だと言ったじゃないですか」
「空港一つ消し飛ばすようなもの投げさせといて自分は安全なところに逃げんてのは危険だったからじゃねぇのかよ!」
「純君に何かあったら翔君の責任になるのも可哀相なので一緒に避難しただけですよ」
淡々と答える秀に何を言っても無駄ではあるが、今回はさすがに可哀相だなと龍は一つ咳ばらいして翔の頭を撫でてやる。
「翔、よくやった。お前じゃなかったらここまで上手くいかなかったんだ。だから許せ」
「……だったら来月のお小遣アップ!」
「ああ、紫月ちゃんのお詫びもあるからな。その分くらいは上げてやるさ」
「ってことは……!」
パアッと翔の表情は輝くが、ここで冷静なツッコミを入れてくるのが天宮家の次男坊殿である。ポンと龍の肩を叩くと天宮家の現状をきちんと伝えておく。
「兄さん、紫月ちゃんのお詫び分は上げてもいいとしても翔君の分は今までの迷惑料がありますから上げる必要ありませんよ」
「そっか! あまり上げ過ぎちゃうとうちの家計が赤字になっちゃうんだね!」
「うむ、それは沙南ちゃんが怒るかもな」
「おい! 弟をここまで危険な目に遭わせてさらに悲惨な目に遭わせる気かよ!」
「仕方ないだろう。うちは沙南ちゃんが財務大臣なんだからな」
そこまで管理させといて何で未だに嫁になってないんだよと、この会話を聞くものなら間違いなく突っ込みたくなる内容だが、翔はそれを言ってアップどころかダウンさせられる危険性を回避するために敢えて言わない。
そして、結局は財務大臣次第という結論に至りようやく一旦落ち着いた。
「それより、まずは闇の女帝に挨拶すべきだろう。日本でもかなり力を貸して貰ったんだろう?」
「いえ、あれは自発的にですよ」
そうしれっと答える秀に、純と夢華を利用して得たものじゃねぇかと翔は思うが天宮家の家長はやはり礼節を重んじる性質だ。
「だったらなおさらだ。一度礼を言っておきたい」
「そうですね。だけど兄さん、女帝だからといって屈しないでください? 兄さんは恩人に対しては必要以上に頭を下げることがありますから」
しかも相手は裏社会の人間。通常なら龍に頭を下げさせることをあまり好まない秀にとってそれだけが気掛かりだった。
しかし、龍はそれに苦笑して心配するなという顔を秀にむける。
「別に女帝だからと言って屈したりはしないさ。だが、一度話さなければならないとは思ってはいたんだ。少なくとも天空記を読破してる上にかなりの知識人だとは聞いてるからな」
「知識人ですかねぇ……」
「何だ? 違うのか?」
「そのうち分かりますよ」
秀と翔が微妙な顔をするのに首を傾げ、彼等は闇の女帝がいる部屋へと向かう。
機内はすっかり改装されているようでこれが本当に飛行機かと思えるが、扉は自動ドアということもあり全ての雰囲気は消し去っていないようだ。
それから闇の女帝がいる部屋の前に兵が一人立っていて入るように促される。どうやらすっかり待ちくたびれているようだと聞かされ、そりゃ純には会いたいんだろうなと翔は心の中で突っ込んだ。
「三人とも礼儀は守れよ」
「気をつけますよ」
軽く流したような返事だがそれには触れず龍はいつもの威風堂々とした空気を身に纏って部屋の中に入った。
「失礼します、闇の女帝」
「遅かったな、天宮龍」
闇の女帝は足を組んで微笑を浮かべていた。そしてどうやらこの部屋に一行は集合させられていたらしい、全員龍が来るのを待っていたようだ。
「お待たせして申し訳ない」
「全くだ。妾は待たされるのは嫌いだからな。だが、やはり噂通り興味が湧く男のようだ」
闇の女帝は髪を耳に掛けて妖艶な笑みを浮かべる。どうやら自分を見定めたいのだなと龍は思ったが、何故か不快というような感じがしない。天空王だった頃の記憶の中に彼女が登場していた性かもしれないが……
「天宮龍、妾の前に来い。それから話を始めよう」
「分かりました」
秀の眉間に少々シワが寄った気がしたが、龍が下がれと命じたので彼等は壁際による。
そしてどこか重い空気を漂わせたまま、会談は始まったのである……
やっと離陸して闇の女帝と会えました。
会談の内容までいけなかったのは許してもらうとして……
だけど久しぶりに四兄弟の会話を書いた気が……
ここのところお互いのパートナーと会話することが多かったので、(秀はよく啓吾兄さんと話してるけど)まあ、少ないのも仕方ないですが、家族の話し合いというのもやっぱり大切ですよね。
次回こそは龍と闇の女帝の話しとなりますが、一体どんなことを彼女が投げ掛けて来るのか、そして龍はそれを上手くかわしてくれるのかな?
間違いなく資質を見定められるぞ!