第二百四十九話:龍の欲望
今回は十五禁?より若干上かもしれないので、苦手な方はスルーしてください。
思春期を向かえた龍が性について全く興味がなかったのかといえば嘘になる。ただ、そういった内容に疎くなったのは彼が医者になったからだった。
簡単に言ってしまえば、女性の性感帯を知ることより身体の仕組みそのものに興味がいってしまい、おまけに医者という職業が性欲なんて言っている場合じゃない環境だったこともある。
だが、本能を解放されて感じることがある。理性などで止められないほど沙南を求めている気持ちがあったということを……
目の前に立つのは沙南がずっと思ってきた人物には違いない。憑依されていても顔も身体もそして今自分を見る目も龍だ。
しかし、違う。あの絶対的な安心感がない。そして心がここにない……
「沙南……」
龍の口から告げられた自分の名前に一歩後退する。自分を見る目がやけに熱を帯びていて嫌な汗が背中を伝う。
走って逃げればいいのかもしれないが、尋常ではない龍や傍で倒れている柳達を放って逃げ出すことなど出来はしない。
龍はそんな沙南の様子に逃げてくれと願うが、口から出てくる言葉は彼の意志とは反するものだった。
「どうして逃げる? 俺のことが好きなんだろう?」
沙南に少しずつ近付いていく。普段の自分からは絶対出てこない言葉に酷い驕りだなとも思うが、やはり沙南は沙南だ。清々しくなるほどきっぱり言い切ってくれた。
「違うわよ……! 私は龍さんが好きなの! あなたじゃない!」
やはり自分のことをよく分かってくれてるなと、肝心な部分から思考がそれているのは龍らしい。
だが、感心している場合ではなく自分の身体は動き出し、沙南を彼女の背後の戦車まで重力で拘束して自由を奪い、ついと顎に指をかける。
しかし、さすがは沙南というべきか、多少の拘束程度では怯まず抵抗する意志を宿した目でこちらを射抜いて来る。
「離して! じゃないと撃ち抜くわよ!」
太股に目を走らせれば確かに銃が一丁。重力さえ掛けられてなければきっと迷わず撃つだろうなと龍はどこか冷静に考えていた。
しかし、あまりにも面白くなったのだろう、仮面男の意志が表面化してきて龍の口から彼の言葉が告げられた。
「くくっ……! 相変わらずだな、沙南姫。だが、私は天空王の本能を解放しただけ。この行動は天空王の欲望なんだがな」
「媚薬まで盛ってる癖に龍さんに責任転嫁しないで!」
「ほう、この症状を見抜いてるか」
「嫌でも分かるわよ!」
だからこそ沙南も一歩も引くわけにはいかなかった。きっと自分に危害を加えたと知れば龍は間違いなく自分を責める。
ならばせめて自分が何でもないと言い切らなければ、龍を傷つけることは疎か敵の思う壷だと言い聞かせた。
だが、仮面男はいとも簡単にその決意を崩す術を取りはじめた。
「ならばお前が女だと思い知らせてやる」
「やってみなさいよ! 何があったって!」
次の瞬間、小気味良い音が響き渡る!
「えっ……?」
一瞬の出来事に頭が真っ白になり、自分の頬が龍に平手打たれたのだと自覚するのがやけに遅くなった。そしてさらにもう一度打たれて彼女は現実に引き戻される。
「あっ……」
心が壊されたような気がした。たった二回頬を打たれただけで一気に涙が出てきて抵抗できなくなる。
そして視界に入ってくる人物が龍だと認識すると、じんじんする頬に走る痛みよりこれから起こるであろう事態への恐怖を痛切に感じ始める……
「くくっ! さあ、折角なら楽しめばいい。希望通りの男に犯され、そして殺されるんだからな……!」
龍の声で告げられた絶望的な言葉に沙南の顔は青ざめ、重力の枷から何とか逃げようとするが逃げられるはずもなくこの現実を受け入れるしかなくなった。
だが、心はそれを拒絶する。耳に舌をはわされただけで恐怖で涙は止まらなくなった。
「いっ……や……!」
声が出ない。身体に力が入らない。顔をそむけたくても手で固定されて、足を閉じたくても膝で割られていた。
「た……けて……」
助けてと本人に心の中で強く訴える。しかし、助けて欲しいと願う相手が自分に触れて来る。
ガチガチと震える唇を舌でなどり、そのまま舌を差し入れる。逃げようとする顔を完全に固定して舌を絡ませて呼吸を奪えば沙南の顔がさらに苦しそうに歪んだ。
『くくっ……!! このまま窒息死させてもいいがまだ足りないようだな、天空王』
仮面男の声が龍に聞こえてくると同時に龍は沙南から唇を離し、首筋に顔を埋める。
だが、龍は自分に飛び込んできた沙南の様子をやけに冷静に見ていた。そして一言告げる。
『やめろ……』
『くくっ! 何を言ってる。天空王、お前が望んでることじゃないか』
『……ああ、望んでる』
その答えに仮面男はにやりと笑う。自分が惚れている女を抱きたくないわけがない。実際に伝わる熱はどうにもならない。
『ならば続ければいい。ゾクゾクしているだろう? 沙南姫が乱れていく姿にな』
『ああ、乱したいさ』
認めざるを得ないと龍は静かに答える。自分は沙南を求めていることは事実で、今の状況をどこか満足している自分はいる。
それでも満たされない気持ちがあることに気付いて、どうやら自分は思った以上に貪欲なのだと嘲笑いたくなるが、それを言葉にすると荒れた精神すら歓迎してもいいという気持ちになって来る。
何より恐れていた現実を突き付けられて逃げ出すより、伝えなければならないことの方が龍にとっての最優先事項に変わりはない。彼は自分の意志をはっきりと告げる。
『だが、沙南の全てが欲しくなった。泣かせるのも乱すことも俺でありたいと望んでいる。だからお前が邪魔だ』
全ての迷いを完全に断ち切った目。沙南を犯すことで後悔の渦に飲み込まれて沈めばいいと、そしてこの身体も力も自分の思うままにしようとしたが、それを肯定されてしまえば龍を崩すことは出来ない。
しかし、自分が龍の身体の主導権を握っているのは確かだ。
『くっ……!! ならば……!!』
次の瞬間、龍の意識の中で仮面男は腕を掴まれて捕らえられた!
『やっと捕まえられた』
『何故……!』
そんなことが出来るはずがないと仮面男は龍から離れようとするが、身体が動かなくなる。重力の枷が龍から掛けられたからだ!
『お前が自分で居場所を知らせてくれたからだ。俺の本能を解放したとな。
だから分かった。俺が沙南を抱きたいと思う意識を持つ場所にお前がいると!』
『貴様……! まさかこれを狙って……!』
さらに仮面男は重力を掛けられて呼吸を乱される! そしてその目に映るのは黄金の目を持つ怒りに満ちた男だ。
『悪いが俺は危害を加えたものに対して加減出来るほどの優しさは持ち合わせてはいない。だから俺の本能のままにお前を消す!』
『うぎああああ!!!』
龍の意識の中で仮面男は蒸発した……
なんかいつも恋愛初心者としか思えない龍が爆弾発言連発してないか!?
さすが悪の総大将、やるときも言うときもハンパない!
そっかそっか、沙南ちゃんを泣かすのも乱すのも自分でありたいのか(笑)
啓吾兄さん達が聞いてたらさぞコントになったかもしれないな。
だけどただ今皆さん気絶中です……
そして次回がこの騒動の決着。
いくらなんでもここまで来たら龍、もう沙南ちゃんに好きだの一言くらい言えるでしょ!
ん? でも沙南ちゃんが龍を好きだと言ってもまたいつもの感覚でしか取ってなかったような……
う〜ん、次回はもう少し突っ込もうかな??