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天空記  作者: 緒俐
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第二百四十五話:本能

 心の中はありえないほどの暴風が吹き荒れていた。自分がいま翔と紫月を相手にしている感覚だけはあるが、それは自分の意志とは全く無関係なもの。だが、自分を取り戻したくともどうやら簡単にはいかない状況らしい。


『天空王よ、気分はどうだ?』


 聞こえてきた声に龍は眉を顰める。どうやらこの声の主が今の自分の状況を作り出している一因かと悟る。


 そしてその声の持ち主は実態は見せないものの、頗る上機嫌らしい。こちらは不愉快窮まりないが。


『お前は誰だ』

『これはこれは、一度この現代で対峙したことはあるのだがな』

『悪いが患者の顔は一度で覚えても印象の薄い敵は忘れる主義でね』

『二百代前から沙南姫を何度も殺したのにか?』


 その返答に龍はピクリと反応すると彼を嘲笑う声がまた響いて来る。どうやらその言葉に龍は確かに数日前に出会っているなと確信する。


 ただ、桜姫に倒されたはずではなかったのかと疑問が残るが……


『倒されたさ、お前の従者にな。だが、魂は残り新たな器を求める』


 そして龍の目の前にその姿が具現化する。それは先日、紗枝がさらわれた洋館で対峙した仮面を付けた男だった。


『お前か……』

『思い出してくれたようだな』

『ああ。だが、俺を乗っとっても天空王のような力は発揮出来ないだろう? 憑依したいなら余所を当たって貰いたいがな』


 寧ろさっさと出ていけと言わんばかりに龍は威圧するが、仮面の男はくくっと笑った。


『これだけでも充分だ。私はあくまでもお前を苦しめ、沙南姫に罪を与えればいい。だから感謝しているよ、この力が手に入ったことを』

『そうか。だったらさっさと消えろ!』


 龍は仮面男に回し蹴りを放つが、その体は実態ではない所為か足が通り抜け、仮面男は微笑を浮かべてその場から消える。そしてまた声が響く。


『それより天空王、お前の中に憑依してお前の心の内も見させてもらったよ。真っ白かと思えば支配欲もあるようだな』

『当然人だからな。さらに家長なんでね。だが、お前のようにそれを抑えられないほど小さな器でもない』


 何より判断が出来る癖に出来なければ動物以下だとあっさり返答する龍に、普段なら苛立ちの一つぐらい覚えるところだが、それ以上に彼は楽しみを見つけているようだ。


『いつまでそう言ってられるかな? 人間の持つ欲望を解放した場合、お前に信頼を寄せているものに、特に沙南姫にぶつけたらどうなるのかな?』

『何をする気だ?』

『分かるだろう? ただ、いくらお前が求める女でも犯すといった表現の方が正しいかもしれないがな』


 その言葉に本気で血の気が引いた気がした……



 一方、龍と対峙していた翔と紫月は少しずつ押されていくのを感じながらもかろうじて龍の攻撃を避けていた。


「うわっ! だあっ!」


 スピードも力も、何より闘争心を剥き出しにしている龍の攻撃にさすがの突撃隊長も息付く暇すら与えられない。


 しかも今回は偽物ではなく本物。容赦なく風の刃で切り裂くこともためらわれるが、自分の本気で龍が気絶してくれるかも怪しいところだ。


「本当にどうやって気絶させろってんだよ!」

「しかも重力すらまだ操って来ませんからね。だけど止めなければ大陸一つ消し飛ぶどころじゃありませんよ!」

「分かってらい! でもどうやっ!!」


 気づいた時には龍は二人の目の前にいた。背中に冷汗が流れたと同時に二人は重力を握られたことを悟った。


「弾け飛べ……」

「うわあああ!!」

「きゃあああ!!」


 二人は風の力を瞬時に纏ったにも関わらず、ビルの外まで弾かれる! しかも龍はさらにそれを追い掛けて翔をさらに地上に蹴り落し、紫月に重力の枷をかけて落下させた!


「だあっ!!」


 龍に蹴り落とされた翔が突如戦車に叩き付けられたのを見て一行は驚きの声を上げる。


「翔君!!」

「翔ちゃん!?」


 しかし、さらに龍は畳み掛けるかのように拳を翔の腹部に叩き込むために上空から降下して来る!


「くそっ……!」


 目を固く閉じ、さすがにやられたと戦車が砕けた音に彼は敗北を認めたが痛みを感じない。それどころか感じるのは呆れた視線とこういうときに頼りになる存在だ。


 翔はそっと目を開けると、そこには紫月を抱えた啓吾と自分の後ろ襟首をひっつかまえてる秀がにやりと笑っていた。


「何やってるんだ三男坊」

「情けないですね、翔君。ついに降参なんて学習しなくていいことを学習したんですか?」


 どうやら自分達はこの二人に助けられたらしいが、紫月の方は完全に気絶しているようだ。


「啓吾さん、紫月に怪我は……」

「大丈夫だ。ただ完全に力を使い果たしてんのと重力にやられて気絶させられたみたいだな」

「……啓吾さん、俺」

「今は謝るな。あとから責任は追及してやる」


 責任の追及はするのかと秀は冷静なツッコミを心の中で入れるが、紫月を気絶させた龍の姿を視界に捉えるなり、どうやら尋常な事態じゃないことを悟る。


 龍本人の体、紛れも無い力と威圧感、そして本能とも言える闘争心。しかし、目の虚ろさと顔色から本人の意志と反する行動をとっていることだけは分かる。


「啓吾さん、今の兄さんの症状は?」

「媚薬に催眠、っていうか心体が乗っ取られてるみたいな感じだな」

「乗っ取られてるって……!」

「そうとしか説明がつかん。しかも間違いなく人間の本能部分握られてるぞ?」


 あの堅物の龍にもこういうところがあるんだなと、どこか安心も覚えるが、秀はまるで哀れむような目で翔を見下ろした。


「……やっぱり兄さんは翔君の兄なんですね」

「おい、人を動物みたいに見るなよ……」

「いいえ、兄さんを見ると翔君がどれだけ本能に忠実なまま生きてるのかと……」

「人の生き方まで哀れむなよ!」


 ようやく戻ってきた秀と翔らしい応酬に、啓吾は紫月を抱えていなければ腹を抱えて笑っているところだったがそうはいかない。


 しかし、いつまでも抱えているわけにもいかないので、啓吾はふわりと重力で紫月を浮かせると沙南を守っている妹達のところまで運んでそっと下ろした。


「だが敵も賢いもんだ。龍にあの類いを使えば俺達の士気が乱れることが分かった上での作戦だな。んで、桜姫は対処法を言ってたか? 三男坊」

「気絶させろって」

「それしかないか」


 じゃなければ催眠の一つぐらいは解いてるだろうなと啓吾は深い溜息をつく。だが、相手は龍だ。どこまで力を発揮できるのかは未知数である。


 そしてどんな悪辣な作戦も効きそうにないため、今回ばかりは秀も正当法しか導き出せなかった。


「啓吾さん、兄さんの動きくい止められますか?」

「やるしかないだろ。だが次男坊、お前龍を気絶させられるのか?」

「分かりませんね。少なくとも僕と翔君の二人掛かりでも兄さんの方が強かったですからね」

「はあ〜、俺、絶対力使い果たすな」


 その前に何とかしろよと目の前にいる親友に、ただ啓吾は願うことしか出来なかった。




さあ、龍の心の中には仮面の男が憑依してるとのこと。

因みにこの仮面男、龍が天空王に覚醒した後桜姫が倒しているのですが、どうやら魂だけが残ってたみたいで龍に憑依したみたいですね。


だけど龍の本能部分を握られているらしく、それが翔達への攻撃にもつながっている模様。

さすがは悪の総大将、はっきりいって性質が悪いどころではありません!


でも秀と啓吾兄さんも参戦してくれます。

三人寄ればなんとか……

そして桜姫と他のメンバーは大丈夫か?




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