第二百四十一話:メール予告
外は本当に悲惨というより気の毒だった。確かに開発したもの自体は人体へ直接影響を及ぼしてないが、開発者の性格の悪さが滲み出ているとしか思えないほどの惨劇は起こっている。兵器の暴走など爆弾一つ落とすより性質が悪い。
とはいえ、兵器を壊すなりエネルギー切れを待つなりすればあの騒ぎは収まるのだろうが……
しかし、その開発者は外など全く気にせず柳をからかっているので張り倒してやりたくなるが、それよりも少しだけ休憩しておいた方がいいかと啓吾は思考を切り替えた。
何となく嫌な予感がするのだ。これからが本番な気がして……
「紗枝」
「えっ?」
重力で彼女を少し浮かせると、啓吾はストンと座席に腰を下ろして膝の上に紗枝を乗せる。夏だというのに人の体温が嬉しくて啓吾は遠慮なく彼女を抱きしめた。
少しだけ紗枝は呆然としたが、その状況を理解して彼女はカッと赤くなった。
「ちょ! 啓吾!!」
「暴れんな。座席ねぇんだから大人しくしてろ」
「人を抱き枕にして寝ようとするな!」
「無理。てかブラしてんのかよ。はずせ」
「どこに顔埋めようとしてんのよ!」
ポカポカと紗枝は啓吾を殴るが、体力を温存しておけるうちにしておこうと啓吾はすっかり彼女を抱き枕に変えてしまう。
こうなってしまえば例え何をしようと啓吾は動く気は全くない。
そして一分もしないうちに本気で寝てしまうのだから、さすがの紗枝もどうすることも出来なくなった。それを見て秀は苦笑する。
「紗枝さんも大変ですね」
「こいつ、絶対確信犯よね」
「でしょうね。だけど空港に着くまでゆっくりさせてあげたら良いんじゃないですか? どうせまた力を使って倒れるのでしょうし」
確かにそうなのだろうが、この体勢で空港まで行くというのは心臓に悪い。というより恥ずかしくて仕方がない。啓吾の作り出すムードは甘いというより魅惑というべきか……
「ほんと、龍ちゃんがいなくて良かったわよ」
「ええ。いたら顔真っ赤にしていたどころじゃないでしょうね……」
それには柳も桜姫も納得した。恋愛初心者の龍にはとてもじゃないが堪えられないだろう。きっと運転にも支障が出るに違いない。
「はあ〜、なんでこんなのに惚れちゃったのかしら」
「永遠の謎でしょうね」
「まったくだわ」
それでも抱きしめてくれる手にすっと手を重ねてみる。全員の死角になって見えないが、啓吾の口元は笑みをかたどった。
一方、森の運転する戦車は座席に困ることもなく快適な空間を維持していた。そして後部座席では紫月と宮岡が空港の現状を把握するためにあちこちへハッキングをかけていた。
「紫月ちゃん、空港からの情報はどうだい?」
「今のところ異常無しとのことです。まあ、封鎖はされてるみたいなのでちゃんと飛べる飛行機があれば良いんですけど」
「そうだな、最悪の場合は陸路で逃げないといけないわけだし」
「逃げるって表現に当て嵌まりますか?」
「それは何とも言えないな……」
正しくは返り討ちにするかもしれない。まあ、それはそれでいろいろな策を考えるのだろうが。
そして、宮岡はぴくりと入ってきたメールに反応した。またもや彼のプライベートアドレスにである。
「どうしたんですか、宮岡さん」
「ああ、また最新ウイルス付きのメールだ。よっぽど俺のパソコンを破壊したいみたいだな」
「なんだ? お前のパソコンってそんなにまずいデータでも入れてるのか?」
「まあね。なんせGODの情報が満載なんだ。特にGODの歴代創主の情報まで入ってる」
その他にもいろいろあるけどな、と笑う顔は裏情報まで把握している彼らしい。ただし、秀ほど悪用しないので精神的な悪寒を感じさせられることはない。
そして宮岡は面倒臭さも感じさせないほど簡単にメールを消去して、さらに入ってきた情報に目を通していく。するとたった一言だけの文に目を丸くした。
「laser beam?」
その時だ! 光がちょうど戦車のど真ん中を通り抜け装甲に穴をあける! それを見て全員が納得した。
「森、絶対お前の運が悪い性だろ……」
「知るか! ってか良、お前の性じゃないのか? そのパソコンが不幸の元凶だろ!」
「残念だがこれはマスターから貰ったものでね。元は俺の責任じゃない」
こんな時でも漫才を繰り広げられる大人達に紫月は半ば呆れながらも当たるわけにはいかないなと思う。宮岡のパソコンに送られたメッセージは明らかにこれから自分達に危害を加えて来るものだ。
紫月はトランシーバーを手に取り秀と通信する。
「秀さん、聞こえますか?」
「ええ、こちらもレーザーの被害を受け始めましたよ。ですが僕達を殺すつもりはないみたいですね。乱射してこないのですから」
それが少し気に食わないとでもいうかのように秀は柳眉を顰めた。その通信にこれでもかというぐらい元気な声が割り込んで来る。
「秀兄貴! 何なんだよこの中途半端なレーザー攻撃!」
「……翔君、もう少し小さな声で話しなさい。それより突撃隊長、ちょっと外に出てレーザーを撃ってくる無礼者達を叩いていらっしゃい」
「がってん!」
「秀さん、私も行ってきます」
「紫月ちゃん、しかし……」
「大丈夫です。翔君一人の方がよっぽど危険なので」
そして有無も言わせず紫月はトランシーバーを切った。なんせ秀はともかく、シスコンがうるさいことなど嫌でも分かる。おそらくすぐに会話に入ってこなかったのは寝ているからだろうなとは思うが、多分今の発言で目ぐらい覚めただろう。
紫月はすっと立ち上がりトランシーバーを宮岡に渡してハッチに手をかける。
「そういうことなのでちょっと行ってきます。そのメールの贈り主も近くにいるのでしょうから」
そうでなければこの現状が分かるわけがないと紫月は警戒しながら外に出ると、消防車から戦車に翔は飛び移ってきた。その表情は少々不満そうだ。
「紫月、お前なぁ……」
「宮岡さんのパソコンにlaser beamと送られてきたので気になって出たんですよ。それに翔君一人じゃ危ないでしょう? どうせ油断するんですから」
「だから油断なん」
「伏せてください!」
「おわっ!?」
翔の腕を引っ張って伏せると頭上をレーザーが通り過ぎた。まさに間一髪だったが、その直後に反撃に転じるのがこの二人である。ビルの屋上から銃口を向けている者達のところまで二人は飛び上がった。
「なっ!」
「あぶねぇだろうがっ!」
「うわあ〜!!」
翔に蹴り飛ばされ狙撃手はビルの端から端まで移動した。そしてレーザー砲を簡単に足で踏み潰した後、呆れ顔の紫月に指摘される。
「翔君」
「すみません……」
もはや反論するわけにはいかなくなった。そして新たに事態は起こりはじめる。空から色とりどりのの花びらが降って来たのだ。
「花びら? 桜姫か?」
「いえ、違います」
そう返答しながらふわりとビルの上に桜姫は舞い降りてくると、上空を凛とした目で睨んだ。
そして戦車の中では宮岡のパソコンに新たなメールが届く。また今回もたった一言だ。
「何だこれは……」
「今度は何なんだ?」
「ああ、ニュアンスとしてはさっきより物騒じゃないが……」
パソコン画面にはただ一言「FLOWER」と書かれていた。
はい、いよいよバトルも本格的になってきましたよ!
レーザーまで出てきて相変わらず翔は紫月ちゃんにつっこまれてますが……
うん、このコンビは本当にコントとバトルからは離れられません(笑)
かと思えば年長者達はラブラブしています。
秀と柳ちゃんは完璧に秀がからかい倒してますが、
啓吾兄さんと紗枝さんはコントも入りつつ大人な雰囲気を醸し出してます。
うん、啓吾兄さん、さすがです(笑)
だけどまたまた何か起こりそうな予感。
このあとは一体どうなるのかな?