第二百三十九話:純の提案
消防車一台に戦車二両だけ残し、あとはそれを奪って襲い掛かってくる敵を叩きのめせばいいと結論付けた一行は、それぞれが分かれて乗り込んだ。
そしてさすがはアメリカというべきか、日本と比べて巨大な消防車に乗り込んだ末っ子組は好奇心旺盛に中を見ながら歓声を上げる。
給水タンクに梯子が装備されているのはもちろんのこと、着替えるスペースまでしっかり確保されているのだ。興奮するなという方が無理な話だろう。
「うわあ〜消防車ってすごいよねぇ」
「うん! こんなに大きな車初めて乗ったよ!」
そりゃないだろうなと龍は苦笑する。むしろ消防士にでもならない限りそう頻繁に乗れるものでもないだろう。
しかし、龍もそれなりに楽しんでいるらしいことは沙南にはバレバレだった。
「龍さん、なんだかんだ言って楽しそうね」
「そりゃね。こんなことでもなければ乗ることすらなかっただろうし」
「そうね。こんな素敵な経験なんて滅多に出来ないものね」
「……沙南ちゃん、それって消防車に乗れたことだよな?」
「どっちだと思う?」
悪戯な笑顔を向けられ、龍はおいおいと顔にかかれたような表情を浮かべる。いくらなんでも消防車を奪ったことを楽しんでるとは答えてもらいたくはない。
そして外でも同じような会話がなされていた。
「戦車ってすげぇよなぁ」
「だろ? 操縦してみるか、腕白小僧」
「えっ!? いいのか!?」
「やめてください。というより翔君は砲塔にでも乗ってください」
「なんで!?」
「定員オーバーですから」
紫月の言う通り、確かに人数が増えた一行なので四人乗りの戦車に全員乗り込むことは不可能だ。
龍と沙南、末っ子組とシュバルツが消防車に乗ったとしてもそれでも人数は溢れてしまうのだから。
「ちぇっ、まあ機銃でも撃てばいいか」
「撃たないで下さい。弾が勿体ないんで」
「どうして!?」
「翔君は射的がド下手じゃないですか」
「ドまで付けなくても……」
翔はがっくりと肩を落とす。しかし、銃の名手達に囲まれているので自分がとても上手な方だとは言えないのは事実である。
そして、もう一両の戦車では……
「桜姫って戦車まで運転できるの?」
「はい、主を支えるのが私の使命でございますから」
ニッコリ微笑む桜姫に出来ないことはあるんだろうかと紗枝は疑問に思う。いくら龍のためとはいえ、ここまで家事から戦闘に渡るまで熟せるものなど普通はいないだろう。
「桜姫さんは凄いですね」
「ありがとうございます、柳様」
そんなほのぼのとした会話がなされている中、とりあえず自分もしばらく戦車の中で寛ぐかと啓吾も中に入ろうとしたが、それを荷物を抱えた秀が止める。
「啓吾さん、すみませんが砲塔に乗ってもらえませんか?」
「なんだ? その荷物」
「薬品ですよ。一シート空けてもらわないと困りますからね」
「仕方ねぇな……」
やれやれと思いながら啓吾が外に出ると入れ替わりで秀が中に入る。
まあ、外でも翔が働いてくれる限り寛げるので問題はないかと啓吾は煙草を吸いながらぐったりすることにしたが、薬品をシートの上において外に出てくるはずの秀が出てこない。何かあったのかと啓吾は中に声をかけた。
「次男坊。お前も外じゃないのか?」
「それでもいいんですけどね。ちょっと開発しなければならないものがありまして中にいますよ」
「中って……座席はどうすんだよ」
「ああ、そんな心配はしなくてもいいですよ。こうすればいいんですから」
「えっ?」
全てを理解するまで約二秒。秀の膝の上にちょこんと柳の体が乗る。それに秀はご機嫌な笑みを浮かべるが、柳はみるみるうちに赤くなり、啓吾は怒りで赤くなった。
「秀さんっ!?」
「次男坊てめぇ!!」
「さて、これで開発にも精が出ますし座席の問題もなくなりましたね」
「大有りだ! 柳、今すぐそいつを燃やせ!」
「ええっ!?」
「柳さん、すみませんがちょっとこれ持ってて下さい」
「あっ、はい!」
薬の入った試験管を落とすわけにはいかず、柳は暴れるわけにはいかなくなった。しかし、シスコンの方は止まらない。
「次男坊!! テメェはなからこうするつもりで他の車両破壊したな!?」
「まさか。ちゃんと純君の希望も叶えたじゃないですか」
「ふざけんな! だいたいテメェは……!!」
二人の応酬に紗枝は深い溜息をつくと、この事態を片付けるために桜姫に告げた。
「桜姫、エンジン全開」
「はい?」
「啓吾を落とすつもりで走って」
「はい、かしこまりました……」
そして桜姫は彼女の命令通りエンジン全開で発進すると、啓吾の体がグラリと揺れた。
「っと……! 桜姫!」
「すみません、啓吾様。紗枝様のご命令を優先させていただきました」
「命令ってな……落ちたらどうするんだよ」
「落ちたらいいじゃないですか」
「んだと次男……」
中から顔を出した紗枝は啓吾の額に銃口を突き付けた。引き金を引かれたところで即死することはないが、それ以上に彼女の纏う殺気の方が怖い……
「啓吾、少しは大人しくしてなさい」
「おお……」
そんな会話を聞きながらやっぱり尻に敷かれてるのかと秀達は改めて思うが、次の瞬間、別の殺気に気づいた啓吾の表情が一気に変わる!
「紗枝! 中に入れ!」
「きゃっ!」
啓吾は紗枝を中に押し戻して銃弾を止める。そしてさらに彼に向かって発砲してくるものに気付いて啓吾は自分の周りに重力を張り巡らせた。
正面には自分達を捕獲するために軍隊が立ちはだかっている。
「三男坊!」
「任せとけ!」
風を纏った翔は正面にいる軍隊に突っ込んでいった。
「邪魔だ! どけぇ!!」
「うわあ〜〜!!」
翔は一蹴り繰り出して発砲してくる軍隊を吹き飛ばした後、残っていた者達をあっという間に叩きのめして道をふさぐ邪魔な戦車を簡単に破壊した。
相変わらずケンカに関しては手際がいいなと啓吾は感心していたが、また別の殺気に気づいて翔に叫んだ!
「三男坊! 飛べっ!!」
「うわっ!!」
間一髪、翔はギリギリのところで攻撃を避ける。彼を狙ったのは毒針だったらしく、道路に刺さった針はアスファルトを青紫に変色させた。
「なんだあ!? うわっ!!」
さらに狙ってくる針の連射を身軽な動きで避けた後、翔は消防車に飛び移った。
「翔兄さん大丈夫?」
「純! 危ないから中にいろ!」
「大丈夫だよ、龍兄さんが重力を操ってくれてるから」
そう答えて純は行ってくると龍に告げて窓から飛び出し翔の元にやってきた。確かにこちらに毒針が降っては来ない。
「お前なぁ、いつから喧嘩担当になる気になったんだ?」
「違うよ。翔兄さん一人だとまた油断するから手伝って来るって言ったら、龍兄さんが許可してくれたんだ」
「おい……」
「だから翔兄さん、せっかく消防車に乗ってるんだからやってみない?」
純はニッコリ笑って提案するのだった。
さあ、始まりましたよアクション!
さすがは突撃隊長、最初から戦い油断して純君につっこまれてます(笑)
可愛らしい天使みたいな弟ですが、人を凹ますことも上手かったりしてます(笑)
そして秀がまたもや何か開発を始めました。
柳ちゃんを自分の膝に座らせて非常に満足している模様。
さぞや作業がはかどることでしょう……
だけどそのために計算して車両を破壊してたとは流石です……
だけどさりげなく啓吾兄さんがかっこよく動いてます。
なんで本当、翔より動かない癖してかっこよくなるんだ?
大人の魅力ってすごい……