第二百三十五話:予感
料理上手な女性陣が腕によりをかけて作り上げたご馳走に、待ってましたとばかりに一行から感嘆の声が上がる。
「すっげぇ!!」
「美味しそう〜!!」
「さすがだな」
テーブルに並べられた品々の数は明らかに欠食児童が物足りないと言わないためのもの。そして料理長は一行に明るい声で告げる。
「腕によりをかけて作ったんだから残さずしっかり食べてね!」
「もちろん! 残す必要性がない! いただきます!!」
「いただきます!!!」
そして始まるは賑やかな食事。おかずの取り合いに酒宴に料理の称賛。龍がいない性かこの騒ぎを沈めるものはここにはいない。まあ、あまりにもひどいテーブルマナーならば秀が火で脅しはするが……
だが、相変わらず成長期の少年の胃袋には次々と料理が収まっていく。旨いと舌鼓は打っているが、味わってるのかは微妙なところだ。
「翔君、少しは落ち着いて食べてください」
「何言ってるんだ! 紫月と沙南ちゃんのスペシャルなんて久し振りなんだぞ?」
「姉さんや桜姫さんも作って……」
「柳姉ちゃんの料理は秀兄貴が褒めちぎるからな。桜姫は森兄ちゃん達のお守りで忙しそうだし」
確かにそんな感じだなと紫月は思う。それぞれの料理を特に褒める相手というのはちゃんと決まっている。紫月の料理を一番褒めてくれるのは確かに翔なわけだし、メニューに関しての意見も翔から出てくるわけで。
「だけど本気でチャーシュー麺作るとは……」
「チャーシュー麺とケンカで叫ぶほど食べたかったんじゃないかと思ったので作ったのですが?」
「まあ……でもノリで言って作るとは……」
「お口に合わなかったんですか?」
「とんでもない! あと丼三杯は余裕だ!」
「一体どこまでその体には入るんですか……」
燃費がいいのか悪いのか意見は分かれそうだが、少なくとも女の子の敵と言わしめる体にケチぐらい付けたくはなる。しかし、清々しいまでの食べっぷりに作ってよかったなと紫月は小さく笑った。
そして、大学生組は大学生組で賑やかに食卓を囲んでいる。
「どう? 秀さん」
「さすが沙南スペシャルですね。兄さんも花を飛ばしてくれますよ」
「ありがとう、秀さん」
「ですが、そろそろ媚薬でも一服盛っておきましょうかね。いつまでたっても沙南ちゃんにプロポーズしないんですから」
「あっ、それはお願いしちゃおうかしら?」
「沙南ちゃん!?」
「ふふっ。冗談よ、柳ちゃん」
「まあ、柳さんにも盛りたい気持ちはありますけどね」
「秀さん!?」
「すみません、冗談ですよ」
本当に冗談なのかなと会話を聞いていた純は首を傾げる。まあ、本気でやるときにはやるのだろうが……
「秀、お前媚薬持ち込んでんのか? だったら」
「森さんには貸しませんよ」
「ちっ、せっかく」
「森将軍、こちらの点心でも口の中に突っ込んでいてください」
「うっ!!」
容赦なく桜姫は森の口に点心を突っ込んで言葉を遮った。彼女のこういうところは本当に見ていて卒がないと思う。
「全く、お前の頭の中は馬鹿と女と酒でしか構成されてないのか」
「空っぽな部分があればまだ学習機能ぐらい付けてやれたかもしれないけどな」
「ですが主は脳は専門外ですからね」
「じゃあ、誰も治せないのか」
そこで困ったなと大人達が考え込みはじめると、ようやく点心を飲み込んだ森は抗議した。
「桜姫! 本当に点心つまるところだったぞ!」
「桜姫、もっと詰め込んでやっても良かったのに……」
「すみません、良将軍」
「謝るのそこかよ!」
「というより森、何で詰まらせてそのままくたばらなかったんだ?」
「お前は鬼か! 淳!!」
そしてまた笑いに包まれる。本当に賑やかだねと末っ子組は実に平和な食事を楽しんでいると、食堂の扉が開かれた。
「あっ! 兄貴達!」
「お帰りなさい、皆!」
「ダディもお帰り!」
「お疲れ様でした」
それぞれが帰ってきた医者達を迎え入れると、彼等は微笑んで挨拶を返した。
「ただいま」
そして医者達はそれぞれが席につき、沢山の料理がテーブルに並べられる。それからシュバルツは差し出された料理に感想を述べた。
「ほう、柳はまた腕を上げたか」
「そうかな?」
「ああ、これなら嫁にいっても問題はない。秀、柳との結婚はいつを予定してるんだ?」
「博士!?」
「そうですね、籍だけなら日本に戻ってすぐに入れても良いんですけど、やはり兄さんが沙南ちゃんと結婚するのを待つべきかとも思いますし」
「秀さん!?」
「そうか。私としては将来、秀が柳をもらってくれるというのならあと数年は待てるが、できるだけ早く可愛い孫を見たいからな」
「そうですね。まあ、期待に添えるように頑張りましょうか、柳さん」
「秀さんっ!!」
柳は顔を真っ赤にするが、秀の悪戯な笑みを当然おさめることは出来ない。そしていつもならこの辺りでシスコンが登場するはずなのだが、紗枝がヒールで足を踏み付けて啓吾のツッコミを阻止した。その理由は目の前にある。
「はい、龍さん」
「ありがとう」
龍は沙南から茶碗を受け取る。あまりにも騒がしすぎるとこの穏やかな雰囲気を壊してしまうため、紗枝が気をきかせたのである。
「……なんか前より柔らかくなったか?」
「そんな気はしますね。久しぶりだからそう見える気もしますけど」
高校生組がそんなひそひそ話をするほど二人の雰囲気はいいものだ。この光景がほんの数日まで当たり前だったのになと誰もが思うところで。
「どう? 久しぶりの沙南スペシャル」
「うん、美味しいよ。うちの味だ」
「ふふっ、ありがとう」
大袈裟に褒めることはなくとも花が飛んでいることは隠せない。何より穏やかな表情をして自分が作った料理を食べてくれることが沙南は幸せだと思う。
「……本当、いいよな」
「ああ、あれでくっついてないのが不思議で仕方ないが」
「そうでもないかもしれませんよ?」
土屋の開いたグラスに酒を注ぎながら桜姫は告げる。
「主の心は以前にもまして沙南姫様を大切に思っていらっしゃいますから」
「じゃあ、そろそろくっつくかな」
グラスを受け取りながら土屋は尋ねると、桜姫は綺麗な笑みを浮かべて答えた。
「はい。ですがお邪魔はしたくありませんから」
「そりゃそーだ」
幸せそうな二人を肴に、大人達は酒を飲みはじめた。
ようやく皆でちゃんと集まってご飯食べてるような……
だけど、女性陣の料理は本当にすごそうですね。
紫月ちゃんもちゃんとリクエストに答えて作ってるみたいですし(笑)
さて、桜姫が言ってるようにそろそろ天空記一じれったすぎるカップルがくっつくかもとのこと!
だって、沙南ちゃんが元気になったら龍は自分の思いを告げるといったわけですし。
一体どんな告白をしてくれるのか。
そしてそろそろ大暴れしたくなってきてる一行かと。
最終決戦にむけてどう動いていくことやら。