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天空記  作者: 緒俐
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第二百三十二話:理屈ではないこと

 それはちょうどシュバルツが食堂に入ってきた後の出来事だった。


「シュバルツ博士……」


 男三人組は突然自分達の前に現れた医者に何も返すことが出来なかったが、さも当然かというように椅子に座ると桜姫に注文した。


「コーヒーだ」

「はい、かしこまりました」


 桜姫は気にした様子もなくコーヒーを煎れる。本当にこういうところは適応するのが早いなと感心してしまう。


「はい、どうぞ」

「うむ、良い腕をしてるな。香りで分かる」

「恐れ入ります」


 恭しく一礼して、森達にもコーヒーを置いていく。どうやら多少混み入った話になりそうだなと彼等はそう直感した。

 そしてコーヒーに口をつけながらシュバルツは尋ねる。


「……GODにこれ以上ケンカを売るつもりか?」

「ケンカを売ってきてるのは向こうだと思うがな」


 間髪入れずに森は答えた。確かにその通りなので土屋も宮岡も頷き桜姫もクスリと笑う。


「だが、お前達は関係ないだろう。いや、天空記が関わってるならほんの少しはあるか」


 どうやらシュバルツ博士も多少調べたようで訳知りということかと思う。そして博士は息を一つ吐くとゆっくり話しはじめた。


「お前達は啓吾達のことをどの程度知っている?」

「……かつてGODに捕われてたことは調べてますよ」


 それ以上のことは知ってはいけないと彼等は啓吾の過去について詮索することはやめた。龍と紗枝が知っていればいいことだと思ったから……


「……そうか。啓吾が未だにGODに縛られているのは分かる。私のことを気遣って日本へ行き、そしてお前達が巻き込まれたことは親として謝る」

「そんな必要はないですよ。少なくとも世界の権力者どもを一掃できるのはなかなか快感ですから」

「おい、淳、お前さらりと秀みたいなこと言うよな……」

「悪いな、こっちはお前が遊んでる間仕事してたんでね」

「だったら遊べば」

「婚約者殿に愛想尽かされたくはないんでね」


 土屋らしいなと宮岡は思う。こういうところは深く突っ込まないでいいようにさらりと話しの腰を折ってくれるのだから。


「それにシュバルツ博士、今更関わるなと言う方が無理だと思いますが?」

「だよな。俺達も既に抹殺対象だしな」


 確かにそうだなと一同は思うが、シュバルツはコーヒーカップをテーブルの上に置いて一息ついて返した。


「だが、それでも私は反対だ。子供の起こした事態に他人を巻き込み、さらには命すら危うくなるようなケンカをさせるわけにはいかない」

「俺は死ぬとは思えないけどな」

「いくら私でも即死した人間を蘇らせることは出来ん。何よりお前達が死ねば啓吾は一生悔やみ続ける。もうこれ以上あいつを苦しめるような過去など背負わせるわけにはいかない」


 だから手を引けとシュバルツは続けると、さすがにいつもおちゃらけてる森でも言い返すことが出来なくなった。桜姫も目を閉じてただ黙って聞いていることしか出来ない。


 全員がそんな状態だったが、その沈黙を土屋が破った。


「……博士、俺は基本リアリストなんですけどね、龍に初めて会ったときあいつにぞっとしたんですよ。まあ、もともと風格だけは半端じゃない奴ですけどね」


 一体何を言い始めるのだろうかと全員の視線が土屋に集まる。


「あいつは昔っから将来大物になるとは思ってましたけど、俺達がいなかったら一生真面目腐った真っ向な人生送ってたでしょうね。だから啓吾君もそんな奴を放っておけなかったのでしょうし、力になりたいと思ったんですよ」

「……だが」

「啓吾君は良い顔で笑ってましたよ。きっとあなたにも見せたことがない顔だってあるんじゃないですか?」


 一行はその通りだろうなと納得する。理屈ではないのだ。龍を支えるのが啓吾で、啓吾を支えるのが龍だということ。だからこそ啓吾はGODに向き合うことが出来るのだと。


「天空記は確かにお伽話という価値観でしか一般的とられないかもしれませんが、俺達にとってはもう立派に今の状況に巻き込まれた正当な理由なんですよ。だから俺達は関わらないわけにはいきません。

 何より、俺は啓吾君はもちろん、お嬢様方も好きなんですよ」

「ああ、淳は嫌いな人間に対しちゃオブラートにひどいからな」

「秀君より激しくはないさ。俺は社会的に抹殺しても人を崩壊させまではしないからな」

「おい、だからなんでそんな恐いこと平然として言うんだよ……」


 どのみちその人物にとっては悲惨な人生しか残らないだろうなと、宮岡と桜姫は同意見らしい。


「ですから博士、俺達は誰がどう言おうと最後まで付き合いますよ。それに既に俺達は龍達がいないと危ないですしね」

「ああ、てか死ぬ」


 そうきっぱり言い切られてはシュバルツも溜息をつくしかない。どうやら説得は無駄らしい。


「……馬鹿に付ける薬はないか」


 その時だ! 館内に銃声と叫び声が響き渡る!


「きゃあ〜〜!!」

「うわあ〜〜!!」


 何事かと入口を見た時、武装した者が四方八方に銃を乱射した!


「伏せろ!!」


 森達はテーブルを立てて銃弾を防ぎ、桜姫はシュバルツを背に回して花びらで盾を作る。


「いきなり無差別かよ……!!」

「ああ。もともと誰が死のうが気にしない相手だろうがな」

「おい、お前達は啓吾達みたいな力は」

「すみません、博士。世でいう特殊能力は桜姫君だけしか持ってないんですよ」

「それでも付き合ってるのか?」

「二百代前からね」


 呆れてものも言えないという表情に桜姫はクスリと笑った。しかし、やられっぱなしというわけではもちろんない。


「桜姫、銃三つぐらい奪えるか?」

「はい、かしこまりました」


 そう命じられると桜姫は三人の武装兵に狙いをつけ、銃弾と同じように鋭く花びらを放つと、三つの銃は宙を舞って森達の手元に届く。


「よしきた!」


 すると森達は一斉に反撃に転じる!


「あっ!」

「うっ!」


 武装兵達は次々に銃を弾かれたかと思うと、さらに風を纏った高校生組が入ってきた!


「ホテルで銃なんてぶっ放すんじゃねぇよ!」

「沈んでなさい!」


 心強い援軍の到着に一行はさらに勢いづく。翔と紫月は片っ端から武装兵を吹き飛ばして気絶させ、森達は気絶した兵から銃を奪って他の兵達の銃を弾いていった。


 そして食堂は静けさを取り戻しようやく動けるようになったが、飛び込んできた光景は最悪だった。


「ううっ……!」


 銃弾を浴びたのだろう、血を流して倒れているものに気づいたシュバルツはすぐに傍へ駆け寄った。


「大丈夫か!」

「いてぇ……!」

「待ってろ、すぐに助けてやる!」


 シュバルツは傍にあったテーブルクロスですぐに患部を縛り、さらに溢れ出している血を直接圧迫した。


「紫月! こっちに来て押さえておけ! 桜姫は救急車の手配を! それと小僧! すぐに龍と啓吾を連れて来い! あとのやつは私の指示に従え!」

「はい!」

「分かった!」


 ホテルは一気に命の現場へと変わる。しかし、まだこれはほんの序章だった。




はい、また更新が遅くてすみませんでした!

お休みが欲しいようと思いますが、休めないのは仕方がないのです……


そして今回はほぼ土屋さんが語ってる回です。

龍と初めてあったときぞっとしたという感想を持った土屋さん。

幼き日の龍はすでにそれだけの風格を持っていたみたいですね。


まあ、秀や沙南ちゃんを育てて来たんですからそれぐらいの器は必要なのかな?

うん、じゃないと二人とも従いも惚れそうにもないか(笑)


だけどついにホテル内でも事件発生!

一体これからどうなっちゃうの!?




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