第二百三十話:行動停止命令
ベッドから体を起こした夢華は少し頭が回転するまで時間がかかる。隣のベッドを見れば既にそこは使ったのかどうかも怪しいほど綺麗にされていて、姉が起きているのだなと感じた。
そして夢華はベッドから抜け出して隣室の扉を開けると、既にきちんと身なりを整えている紫月がいた。
「ふわぁ〜おはよう、お姉ちゃん」
「おはようございます」
新聞に目を通していた紫月はそれをテーブルの上に置くと、まだ寝ぼけ眼の夢華の背をすっと押して、
「さっ、顔を洗って着替えてください。翔君達を叩き起こしに行きましょう」
「うん!」
そう告げればパアッと華やかな表情を浮かべて動き出す妹に苦笑しながら、紫月はまた新聞に目をやるのだった。
それから夢華の支度が整ったあと、隣の部屋に滞在している翔達の部屋の前で紫月は一言呟いた。
「さて、どうやって起こすか……」
「えっ?」
「いえ、久しぶりに起こすのでいつものように起こすのは少し可哀相かと……」
「ほえ?」
一体何の事だかよく分からず夢華は首を傾げるが、とりあえず起こそうと紫月はマスターキーを扉にさしてドアを開けると、腕白小僧の笑顔が彼女達を迎えてくれた。
「よっ! おはよう!」
それに二人はきょとんとして答える。
「……奇跡ですか、翔君が起きてるなんて」
「早起きだね、翔お兄ちゃん!」
「おい、朝から何でそんな反応なんだよ……」
「いえ、珍しいこともあるものだと……」
それと同時に起こす楽しみが無くなったことを少々残念に思いながらも、もう一人のこの部屋の主がいないことに気付く。
「純君はまだ寝てるの?」
「ああ、あいつも寝る時はグッスリ寝るからな」
「じゃあ、起こして来るね!」
「夢華、兄さんを起こす時みたいにダイブしたらダメですよ」
「ええ〜! つまんな〜い!」
「でもダメです。純君は兄さんみたいにどうなってもいいわけではないので」
「そっか! 分かった!」
そして隣室に駆け出していく夢華を見送りながら、翔はポツリと同情の声をあげる。
「……なんか啓吾さんがすっごく哀れに思えてきたんだけど」
「そうでもないですよ。まぁ、今は幸せに違いないんでしょうから、少しぐらい蔑ろにしたって問題ないですよ」
「問題ないのか?」
「どうにかするのも兄さんなんで。それより翔君、寝癖ぐらい直したらどうなんですか?」
「そのうち直る」
「いいから直す。ほら、そこに座って下さい」
そして紫月は翔を椅子に座らせて寝癖を直していく。そういえば最近翔の髪が伸びてきたなと紫月は月日を感じた。
しかし、それを感じたのは紫月だけではなかった。翔は紫月の髪にそっと触れる。それに少しドキッとしながらも、翔は相変わらずの声で尋ねて来る。
「紫月、髪伸びてきた?」
「まぁ、そうですね。日本に来てからはまだ切ってないですし」
「へぇ、紫月って髪綺麗だもんなぁ。伸ばせよ」
「兄さんと同じこと言わないで下さい。だけど翔君はそろそろ切りに行ってくださいね。いっそのこと」
「丸坊主にはしないからな」
「バレましたか?」
そう言ってくすくす笑う紫月に冗談じゃないと抗議すれば、すみませんと返って来る。
「だけどこの辺に散髪出来るとこってあるのかなぁ?」
「ホテルなんですからスタイリストぐらいいますよ。なんせ紗枝さんのところなんですし」
「それもそうだな。純も連れて切りに行くか」
「あっ、だったら兄さんにも言っておかないといけませんね。放っておくとどんどん人としての身嗜みが乱雑になってきますから」
「それも啓吾さんらしいと思うけどな。ちょっと髪が伸びた啓吾さんってワイルドな感じでかっこいい気もするし」
「いえ、ちゃらんぽらん度が上がるのは妹として阻止したいんですよ」
そして終わったと告げられて鏡を渡される。相変わらず彼女の性格が出ているのか本当に綺麗に直してくれている。だが、最後の一言について翔は尋ねておく。
「前から思ってたけどさ、一体紫月にとって啓吾さんってどんな存在なんだよ……」
「気になります?」
「っていうか、蔑ろにしてるのにもな……」
啓吾自体はこれでもかってぐらいのシスコンを発揮しているわけで……
「そうですね、大切な兄には違いないんですけど、姉さんや夢華の教育に悪影響を与えない程度に行動してくれるならいうことはないんですけどね」
「ん〜、やっぱり啓吾さんって結構若い時に無茶してた?」
「ええ、その辺の遊び人も犯罪者も可愛く思える程度には」
そうきっぱり答える紫月に翔は渇いた笑いを発するが、そういえば隣室の末っ子組はどうしたのかと思う。
「純のやつまだ寝てんのか?」
「夢華もどうしたんでしょうか」
そして二人は隣室に入れば、出てこないはずだ、二人は天使の寝顔を浮かべて同じベッドですやすや眠っていたのである。
「……犯罪級の可愛さってこういうことですよね」
「いや……、っていうかお約束過ぎるというかな……」
「起こして良いんでしょうか……」
「う〜ん、秀兄貴じゃないから大丈夫だとは思うが秀兄貴の弟なんだよな……」
キレたらある意味大変なんじゃないかと高校生組はしばらく考え込むのだった。
一方、早くも食堂にいた男三人組と桜姫は、今後の行動の材料を取り揃えていた。
「やっぱり俺達は天下のお尋ね者か」
「天下じゃない。闇の世界の抹殺リストに全員の名前が刻まれただけだ。まっ、この懸賞金はGODが出してくれるみたいだけどな」
宮岡が表示してくれたパソコンの画面には、自分達を見事にお尋ね者にしてくれているサイトの管理者達の情報が映し出されていた。やはり繋がるところはGODには違いないのだが……
「桜姫君、GODには本拠地はあるのかい?」
「ええ、あるにはありますが……」
「なんだ? 異世界にでもトリップしろというのか?」
「バカ森、お前は黙ってろ」
間髪入れずに土屋は突っ込む。しかし、桜姫はそれを一部肯定した。
「いえ、淳将軍、確かに森将軍のおっしゃったことは一部間違いではありません」
「ほらみろ! やっぱり俺の推測は」
「根本は的外れもいいところですが」
「たまにきついな、桜姫……」
「恐れ入ります、良将軍」
あくまでも丁寧な物腰で桜姫は頭を下げる。
「私も実際に主上や神のいる場所に足を踏み入れたことはございません。主上はともかく、神は異空間を移動する力を持っているのは明らか。本当に彼等がどこにいるのか断言するのは難しいです」
「そうか、たしかにそれじゃ異世界に通じている可能性も捨てきれはしないか」
「ええ、彼等を一般的な括りに入れた考え方は後手を取ることにしかなりませんから」
なるほどなと三人は頷く。
「しかし、GODそのものの本拠地はこのアメリカにございます。あとは主の意見を頂戴して」
「ダメだ、お前達が行くことは許さん」
四人は声がした方を向いた。そこにはシュバルツ博士がいたのである。
はい、遅くなってすみません!
12月は本当に忙しい月ですね。
そして今回は高校生二人がちょっといい感じです。
互いの髪を触るってなんか甘い。
だけど話してる内容はやっぱりいつも通りですけど(笑)
それから今回のお約束的萌えはやはり末っ子組。
二人がベッドの上で仲良く眠ってるなんてありえないぐらい可愛い光景を想像してください(笑)
でも早起きしてる森達は朝から作戦会議。
桜姫の冷静且つ鋭いツッコミはさすがです。
だけどそこにシュバルツ博士が乱入!?