第二百二十話:規則正しい太陽
これからまたもう一騒動起こるというのに、どうしてこの一行はこの状況を楽しめるのかと一応この中で一番の常識人であるはずの龍は思う。
だが、その一行に悪の総大将とされているのも彼である……
「純君、走れるかい?」
「うん! いっぱい寝たから平気だよ」
「夢華ちゃんは?」
「頑張るよ!」
末っ子二人組は土屋と宮岡の背から下ろされると、頑張ろうねと手を繋いだ。そのほのぼのした光景にシスコンを除く全員が穏やかな表情になる。
「啓吾、いい加減シスコンは卒業したら?」
「あいつらがいて俺の人生は回るんだ! そう簡単にとられてたまるか!」
「へええ、じゃあ私はいなくても良さそうね」
「それもダメだ。お前は俺の女だろ」
そうあっさり答える啓吾に初めてその事実を知った妹達の反応は、実にそれぞれの性格を物語っていた。
「ええっ!? 本当なの兄さん!?」
「紗枝さんすみません、兄の頭がおかしくなったようで……」
「お兄ちゃん、嘘は付いちゃダメなんだよ?」
「おい……だからなんでそういう反応になるんだよ……」
「信用が薄いからじゃないですか?」
「黙れ次男坊」
またもや口論が勃発するかと思われたが、妹達の反応にシスコンは打ちひしがれる……
「だって……」
「兄さん、普段の行いから信じられる要素がないじゃないですか」
「お兄ちゃんだもんね!」
「夢華……笑顔で答えるな。へこみ度が上がるから……」
紗枝を背負ってなければ間違いなく小さくなっていただろうが、紗枝から見た啓吾は非常に寂しく見えた……
「あっ! だったら紗枝お姉ちゃんと森お兄ちゃんは本当のお姉ちゃん達になっちゃうの!?」
「そうだぞお嬢ちゃん! いやあ〜この可愛い妹が全部俺のもの……」
そう答えた瞬間に立ち込める殺気は一般人なら瞬時に泡をふいて生きてることを懺悔するもの。
そんなものを放つシスコンと腹黒は二人だけ……
「柳さん、例え殺人を犯しても僕のことを好きでいてくれますか?」
「えっ!? えっと……」
「紗枝、これからの幸せな未来のためにやってもいいよな」
「そりゃ世界の女性のためには構わないけど」
「あっさり答えんな紗枝!!」
「森、葬式に参列ぐらいしてやる」
「弔辞も読んでやるぞ」
「ふざけんな!! テメェら!!!」
そしてまた始まる騒ぎ……なんで本当にいつもこうなるんだと龍はがっくり肩を落とす。
「……主、大丈夫ですか?」
「いや、もうダメかもしれない……自信がなくなってきた……」
寧ろもう止める気力もなくなってきたと言わんばかりに脱力したところに、この騒ぎを聞き付けて駆け付けて来たであろう、州の警察官達が群れをなして部屋になだれ込んできた。
「動くな!! 手を上げろ!!」
「凶悪犯どもめ!! 逮捕してやる!!」
そう英語で彼等は叫ぶが、手を上げろぐらいしか聞き取れなかった翔は、目を輝かせてなだれ込んできた警察官に突っ込もうとした。
「よしっ! 正面突破だ!」
「翔、待て」
龍が一言命じるので全員がなんでだと思うが、さらに悪の総大将は続けた。
「後退するぞ」
「へっ?」
「時間の無駄だ」
そして後ろを振り返り壁を一蹴りして大きな穴をあけると、部屋の中に上空の冷たい風が入り込んできて無惨な姿となったテーマパークが一望できた。
つまり正面突破せず後退するとは彼等だからこそ出来る芸当である。
「桜姫、君はここから飛び降りることは可能か?」
「はい。主のお力を頂いておりますから」
さすがは天空王の従者ということか、自分一人舞うことぐらいなら可能らしい。
「三男坊と紫月は良二と淳行を抱えて飛べ」
「分かりました」
風の力を持つ二人は全く問題ないようである。だが、さすがに重力の力を持たない柳は少々一人で飛ぶのは恐いらしい。しかし、これ幸いといたずらな笑みを浮かべる青年は、
「失礼しますよ、柳さん」
「きゃっ!」
秀は軽々と柳を横抱きにすると彼女は真っ赤になった。それにまたシスコンは怒鳴る!
「次男坊!!」
「こうなるのは必然的でしょう? 柳さん、しっかり抱き着いていてくださいね」
「ええっ!?」
「テメェ! たたき落とすぞ!!」
そして取り残された森は末っ子組に片方ずつの手を握られる。
「森お兄ちゃん大丈夫?」
「ああ、まあ、紐なしバンジーだと思えば良いんだが……」
「森さん高いところダメだっけ?」
「ダメだったら戦闘機なんて扱えねぇが……龍、頼むから重力操ってくれよ?」
「当然です。純達が一緒に飛ぶんですから」
「末っ子組! 死んでも手を離すな!!」
そんな日本語が警察官達に通じるはずもなく、痺れを切らした一人が叫んだ!
「おい! 何を騒いでいる!」
その声に気づくと、秀はニッコリ笑って流暢な英語で答えた。
「それでは皆さん、さようなら」
その瞬間、凶悪犯全員がホテルから飛び降りた!
「きゃあ〜〜!!」
「わ〜〜い!!」
「だあ〜〜!!」
「ひゃっほ〜〜!!」
実にそれぞれの心境が分かる叫び声である。そして一番最初に地上に降りた翔と紫月は、すぐに活路を開くため地上で待機していた警察官達に躍りかかった!
「そらよっと!!」
「どいてください!!」
「うわ〜〜!!」
「ぐあっ!!」
風の力が戻ってきていた紫月はやはり翔と戦えることが心地好いと改めて思う。たった数日離れていただけだというのに、どうやらそれがつまらないと感じていたらしい。いつもより技のキレが相手には気の毒だが良い。
「ガキども!!」
「させません!!」
「くっ!!」
銃を桜姫が放った銃弾にも劣らない威力の花びらが弾く! そして彼女はふわりと舞い上がりパトカーの上に立つと、さらに無数の花びらを散らしはじめた。
「うっ……!」
「睡魔が……」
次々とその場にいた者達は倒れていく。そしてこちらの騒ぎを聞いて応援に駆け付けてきた軍には、啓吾と秀の先程までのストレスの八つ当たりにされた。
「沈め!」
「消えなさい!」
「うわあ〜〜!!」
まさに一撃。テーマパークがさらに悲惨なことになった。
「はあ〜〜」
「どうしたの? 龍兄さん」
「ああ、頼むから二人は真っすぐ育ってくれよ? お手本になる大人がいなくて申し訳ないが……」
「そう? 皆かっこいいよ?」
「うん、夢華もお兄ちゃん達みたいになりたいな!」
実に無邪気に答える末っ子に龍はがくっと脱力するが、そばにあったパトカーへ末っ子組に乗るように指示を出し、沙南を助手席に座らせた。まだ意識を戻さないということは、相当力を使っているのだろう。
「龍兄貴! こっちも片付いたぞ!」
「よし、全員パトカーに乗れ! ここから離れるぞ!」
そう龍が指示を出したあと、一行はそれぞれパトカーに乗り込んで発進する。
ようやく、規則正しい太陽が昇りはじめていた……
はい、これにてようやく一騒動が集結しました。
本来ならここで決着を付ける方向も考えてましたが、
それじゃおもしろくないかなと(笑)
そしてパトカーを奪って一体彼等はどこに行くのか。
というより、アメリカ編本当に皆さんかなり無茶苦茶やってませんか?
そりゃ龍が泣きたくなるよ……
だけど沙南ちゃんの目がまだ覚めてくれません。
龍に会ったら告白すると言ってた沙南ちゃんですが、どうなることやら……
ますます恋愛面はそれぞれ盛り上がってきますよ!