第二百十六話:太陽の目覚め
風が吹いて紫月は目が覚めた。体がやけに重たくてだるい。それに力を使いきったのか戦闘のためには少々力を回復させなければならないところか……
「紫月様」
掛けられた声の方に視線を向けると、そこには初対面であろう美女が服を抱えてふんわりと微笑んでくれる。
しかし、紫月はその名前を知っていた。
「……桜姫」
「はい。どうぞ、翔様が目を覚ます前に」
「あっ!」
はっとして紫月は桜姫から受け取った服を身につける。少しだぼついてるのはどうしようもない。
まあ、翔が目を覚ます前で助かったが……
「桜姫さん、それより状況は?」
「はい、現在皆様は沙南姫様がいらっしゃるホテルを目指しております。天空王様がたどり着いてますのでおそらく神と対峙してるかと」
「そうですか、だったらさっさと翔君にも起きていただきましょうか」
そして能天気に寝ている翔の傍に立つと、風は纏わずそのまま拳を振り下ろした!
「いつまで寝てるんですか!!」
「だあっ!!」
殺気に気づいて翔は飛び起きると早々に抗議した!
「何しやがるんだよ!」
「こんなピンチの時に寝てる翔くんが悪いんです!」
「お前なぁ……さっき覚醒して元に戻さなくちゃいけなかったんだから疲れてるに決まってるだろ!」
「戻したのは西天空太子様です。現代の翔君は覚醒した私の前では全くといっていいほど歯が立たなかったのでしょう?」
「んなわけあるか! だいたい二百代前って言っても俺には違いない……」
そこでようやく翔は自分の身なりに気づいた。多少大きいのは仕方ないにしても服が着せられている。そして覚醒後とは服が弾け飛んでいるわけで……
「……あの、桜姫さん」
「はい、何でしょうか、翔様」
「俺って覚醒してたよな?」
「はい、おっしゃるとおりです」
「じゃあ、さっきまで服なんて着てなかったよな?」
「はい、そのとおりでございます」
「まさか……見た?」
そう尋ねるが桜姫は全く表情を崩さない。まあ、桜姫から見れば自分はまだ少年としか見られないのかもしれないが、一応翔も高校生ではあるわけで……
「翔君、桜姫さんにお礼ぐらい言ったらどうですか? 少なくとも私の前で露出なんてしたら兄さんに殺されてたんですから」
「そりゃそうだけど……」
確かに啓吾はまずいなと思った瞬間、紫月ははっとした!
「って、桜姫さん! 姉さんは!?」
「……申し訳ございません。私一人で啓吾様と秀様は……」
そう桜姫が言うのは仕方がない事なんだろう。翔と紫月は顔を見合わせると同じ意見に達した。
「紫月、秀兄貴と啓吾さんが揃ってれば問題ないよな」
「はい。それより沙南さんを助け出す方が先決ですし」
「そうだよな。俺達は優先事項を決めただけだよな」
「ええ、私達は間違ってないと思います」
そう互いに納得させようとするのは、これから起こるであろう大惨事に巻き込まれたくないからではないと言い聞かせる。
「そんじゃ、とりあえず紗枝ちゃん達と合流だ」
「はい」
三人は一斉に駆け出した。
一方、すっかり焼け野原になったテーマパークの片隅で秀は柳を抱きしめたまま倒れていたが、肌に直接当たる風に起こされた。
「ん……」
基本、寝起き最悪の秀だが腕の中にある温もりに目を細める。
「ああ……そうか。元に戻れたんですね……」
そっと髪を撫でてやるとくすぐったそうに、しかし、どこか幸せそうな表情を柳は浮かべる。そして起こるのはどうしようもない悪戯心なわけで……
「さて、このままの状態で起きて欲しいですが……」
寝顔もいいが起きて真っ赤になった表情も堪能したいと、いかにも柳が聞いたら倒れそうなことを秀は考えるが、やはりそう簡単に行くはずがない。
とんでもないスピードと形相を浮かべたシスコンがこちらに向かってきたのだ。
「次男坊〜〜!!!」
まさに危機迫るとはこのためにある言葉だ。秀は心の中で舌打ちしてストレートに言葉に出した。
「邪魔ですよ啓吾さん」
「ふざけんな!! テメェ今すぐ柳から離れろ!! 寧ろ殺す!!」
「だったらその服僕が着せますから貸してください。いくら兄といっても柳さんの裸体を見せたくないんで!」
「テメェに見られるよりマシだ!! いや、寧ろその目を潰してやる!!」
「焼殺されたいんですか、啓吾さん!」
そう口論しながら秀は柳を離さない。それがシスコンにとっては気に入らな過ぎるほど気に入らないので、ついには重力で柳を秀から引き離しはじめると、
「ん……」
体にかかる力に気付いて柳は意識を取り戻していく。
「あっ……秀…さん……?」
「おはようございます、柳さん」
にっこり秀が微笑むと柳は少し頬を赤く染めるが、自分の違和感に気付いて一気に覚醒した!
「えっ!? やっ!! 服は!?」
「柳! 目を閉じろ!!」
「ちょ! やだ!! 兄さんどっか行って!!」
「啓吾さん、さっさとその服置いてみんなのところにでも行ってください」
「行けるか!! 柳、早く服着ろ!!」
「分かったからあっち向いて!! それに秀さんも離してください!!」
「僕はもう少し君を堪能したいところですけど」
「秀さん!!」
「次男坊!!」
しばらくの間、このやりとりにパニックになっていたことは言うまでもない。
そして、この世の創造主こと主上と対峙していた龍は……
「お前が天空王へと覚醒したあの儀式で、私はこの世界のバランスを崩すものが生まれたことを悟った。
重力の力だけでなく、天を操るものが私以外に現れてしまうとは……」
しかも世界を創ったもの以上の力を天空王は得ていたというのだ。当然危険視されることも結果的に天界を滅ぼしてしまったのも二百代前の自分である。
「だがら神に唆されたというのか! だとしたら神の存在はお前の世界を奪うとは考えなかったのか!」
「それは私が天の属性を持たないから主上はそう考えなかったんだよ、天空王」
突然降ってきた声の方向を振り返れば、そこには神の横に立つ沙南の姿もあった。
「沙南ちゃん!!」
「……殿下」
その呼び方は紛れもなく二百代前の自分に対するもの。そして冷たい……
「天空王、君の弟達は無事に従者達を元に戻したみたいだけど、君はそれが出来るのかな?」
「なっ……!!」
「さあ、太陽の姫君は現代では天空王に殺されるのか、それとも天空王を殺すのか……」
次の瞬間、沙南の体は強烈な光りに包まれ龍はあまりの眩しさに目を閉じる!
「ゆっくり再会を味わってくれ。沙南姫様は君に会いたがってたからね」
「待て!!」
しかし、二人を捕らえることが出来ずその姿は消えていく。そして……
「……沙南…姫」
太陽の姫君は龍と対峙したのである。
ついに話は現代へ!
龍と沙南ちゃんが戦う羽目に!!
太陽の姫君を無事に元に戻せるのか!!
そして神と主上が逃亡……
今回、久しぶりの現代編でしたが、やっぱり二百代前と変わらない(笑)
特に秀と啓吾兄さんは二百代前からずっとこの調子ですからね。
だけどこれでようやく全員合流できるというわけなので、今回の騒動が落ち着いたら……
やっぱり龍は苦労する星の下にいるようですね……
そんなこんなで、龍と沙南ちゃんは一体どうなっちゃうの!?
そして二人の愛の行く末は!!