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天空記  作者: 緒俐
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第二百十三話:恋仲の二人

 上等な絹をふんだんに使った青い衣には金、銀糸がさりげなく施されている。しかし、まだ頭に冠をつけていないのは力の解放の儀式が終わった後に授けられるからだ。


 だが、それだけでも充分人を魅了するだけの王であることには変わりがないため、傍にいた啓星と紗枝はまじまじと龍を見た。


「へええ」

「ほう」


 感嘆の声が上がる。しかし、友人達の視線に龍は罰の悪そうな顔をした。


「あまりジロジロ見ないでもらえないか……」

「いや、それは無理」

「本当。啓星の十万倍はいい男だもの」

「おい……どんだけ差を付けたいんだよ……」

「一億光年と言わないだけ感謝してもらいたいわね」


 先日の啓星がとった所業の数々にまだ紗枝は怒りが静まってはいないらしい。しかし、今日この場で暴れないのはめでたい式典であるからこそ龍に余計な気苦労をかけないためである。


「だけど龍太子、力の解放は大丈夫なの? 最近かなり力が上がってきてるのでしょう?」

「ああ、その辺は大丈夫だ。全解放すれば確かに危険だが、主上の前で披露する程度なら問題ない」

「そう、ならいいんだけど……」


 少し不安そうな表情を紗枝は浮かべる。しかし、何かあれば同じ質の力を持つ啓星が支えてくれるだろうし、主上より上の力を超えることなどありえないだろうと龍は思っていた。


 何より、王になる資質を判断されるために力を解放するのだ。周りを巻き込んで大惨事を起こすためではない。


「それより龍、今宵は宴にするか? それとも沙南姫様を迎えるために婚礼の儀を」

「啓星っ!!」


 すぐに真っ赤になるあたりはこれからも変わらないのだろうなと思う。しかし、このSコンビはこういうときは意気投合する。


「えっ! やっと沙南姫を迎える決心が付いたの!?」

「そりゃな。まあ、龍は固いからちゃんと王になった後にって」

「だからなんでそうなるんだ!!」

「良いじゃない。どのみち好きな事には変わりないでしょ」

「いや、だから紗枝殿、それは……!」

「龍、沙南姫がもう少し大人になったら何て言ってたら間違いなくどっかの男に持ってかれるぞ?

 何より大人になる前の沙南姫を傍におくことも男として悪くは」


 さすがは自然界の女神、どこからか巨大な丸太を出して啓星の頭を殴って沈める。


「あんたの動機は何でいつもそういう方面にいっちゃうのよ!」

「いや……男のロマンだろ……自分の女として育てるような」

「今すぐ自然に帰れ!!」


 そんな二人の会話に龍はハテと少し頭を傾げた。


「啓星、沙南姫様は充分な教養を持っていると思うが?」

「……いや、そういう意味じゃなくて」

「ああ、医学の面は指導してほしいといってたか」

「いや、龍太子……それも啓星が言ってる意味と違うんだけど……」

「龍、沙南姫が毎日傍にいる新婚生活を思い浮かべてみろ。夫婦なら……」

「それと育てるが何の関係がある」


 全く意味がわからんと、いくらこれから王になろうというものでも啓星が伝えたいであろう夫婦の営みについては考えに至らないようである。


 まあ、結婚という時点で頭が混乱する龍にそれ以上のことを言ってもどうにもならないのかもしれないが……


「とにかく龍、悪いことは言わないからさっさと沙南姫を娶れ。沙南姫が他の男の手に落ちて沈むお前なんか見たくない」

「私も。失恋のやけ酒なんて付き合ってもいいけどあまり美酒を味わえなさそうだし……」

「だから何でそうなる上にそこまで憐れむような顔になるんだ……」


 その時、扉がノックされ部屋の中に秀と柳泉が入ってくる。


「失礼します、兄上」

「失礼致します、東天空太子様」

「ああ」


 そして二人は龍の姿を見るなり穏やかな笑みを浮かべた。だが、言うことはやはり啓星と一緒である。


「やっと沙」

「秀、さっき俺がそれ聞いたから」


 尋ねる前に啓星がそれを遮る。


「なんだ、慌てる兄上を堪能したかったんですけどね」

「いや、絶対お前でも憐れむと思うぞ……」


 その理由を悟れという表情をされては秀も尋ねることは出来なかった。


「それより沙南姫は来てないの? てっきり気軽に尋ねて来てくれると思ってたけど」

「来てるには来てるんですけど……すみません、ちょっとフリーズしてまして……」


 というよりさせた張本人だとその場にいた者達は言うに違いない。柳泉が本当に大丈夫なのかと思いながらも沙南姫を龍の前に連れて来ると、ぼやけた視界の中に入り込んできた王の姿にようやく彼女の思考は廻り始めた。


「殿下……」

「沙南姫、大丈夫ですか?」


 何となくボーッとしている沙南姫に龍が近づくと沙南姫は一気に赤くなった。


「沙南姫?」

「なっ、なんでもない! それより殿下、おめでとう! あっ、天空王様って呼ばなくちゃね! うん、そうよそうよ」


 明らかに見事な動揺を見せる沙南姫に、啓星はその原因を作ったであろう秀に低い声で尋ねる。


「おい、何やった?」

「別にやってませんよ? ただあるべき未来を公表しただけですからね」

「してるじゃねぇか……」

「おや、天空王の従者としての意見を聞きたいところですが?」

「お前を褒めたくはない」

「素直じゃないですね」


 同意見になることも相手を褒め讃えることも互いの精神衛生を保つためにしないらしい。


「二人とも、少しは気を利かせなさい」


 楽しそうに紗枝に言われて苦笑しながら部屋を出る。きっと進みはしないだろうがとは思いながら……


 そして二人きりになった部屋で沙南姫は少し落ち着きを取り戻して改めて挨拶する。


「えっと……天空王様、本日は御即位心よりお祝い申し上げます」

「ありがとうございます、太陽の姫君。これからも我々天空族は沙南姫様をお守り致します」


 やはり予測通りである。どうも恋仲とは思えない会話と進まない距離があるようだ。しかし、それを破る言葉を龍が告げたのだ。


「沙南姫」

「なに?」

「その……大変失礼だとは思うのだが……」


 本当に言いにくそうに龍は口ごもる。若干顔が赤くなっているのはここ数日、せめてこれぐらいは言えと啓星に言われていたことがあるから。


「どうしたの?」

「そのだ……」

「殿下、私と殿下の中なんだもの、どんなことでも聞いてあげるから言って」

「えっと……」

「あっ、まさかプロポーズ!? それだったらもっとロマンチックな場所がいいな。あっ、でもせっかくオシャレしてるからここでも悪くないのかしら!?」


 そう言って気持ちを紛らわせようとしてくれているのだと、いつもなら沙南姫の冗談だと取れただろう。しかし、本日はなかなか的を得ていた。


「……そのことなんだが」

「えっ?」


 今度は沙南姫が止まる。そして龍は口を開いた。


「沙南姫、儀式が終了したら……一度天宮へ。その時にちゃんと伝えるから……」

「……はい」


 二人ともほんのりと頬を赤く染める。互いの顔を見る余裕があれば気付くだろうにと、いかにも初々しい恋仲の二人がいた。


 しかし、その時の龍の気持ちはその日告げられなかったのである……




はい、風邪をひいてるので更新遅くなりました!

しばらくの間、こんな感じで更新が遅くなりそうですが、できるだけ書きますので!

というか、番外編を考えてる性で余計遅く……


そして、相変わらずからかわれてる龍。

これから儀式だと言うのに全く緊張感のかけらすらない一行です(笑)


だけど、何だか龍が本気でプロポーズしようとしたような気配が!?

まあ、すぐに言い出せないあたりが優柔不断なのか純情過ぎるのか微妙ですが……


さあ、次回はようやく事件発生編。

力の解放の儀式でどんな思惑とドラマが繰り広げられていたのでしょうか……




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