第二百十話:天宮の朝
15禁内容を含みます。
ご注意下さい。
翔達年少の太子達は朝からよくそれだけ食べれるなというほどの食欲を見せるのがいつものことなのだが……
「うう〜! 頭痛〜い!」
「お酒なんか飲んだりするからですよ!」
「紫月、ごめんなさい……」
「純太子も控えてくださいね」
「紫月……」
「翔様、二日酔いなんて自業自得なんですからね。ですが溜めてた執務は全て終わらせていただきますから!」
とはいいながらも、三人に二日酔いのための特製ドリンクを作ってくれるあたり紫月は優しい。
「紫月姉様、やっぱり兄様も怒ってる?」
夢華がそう尋ねると紫月はくすくす笑いながら答えた。
「夢華と純太子はまだ大丈夫ですよ。二人の傍に酒を置いてた将軍達にも責任はありますからね。まあ、翔様は東天空太子様と南天空太子様のお説教を兄上が笑いながら見ていそうですが」
「朝から死刑宣告するなよ!」
「心構えくらいはしておいたほうが……」
「そんなもんしたくもないやっ……!!」
叫んだ性か二日酔いが頭に響く。それで涙目になる翔に三人は笑った。
「だけど兄様達まだ寝てるのかな?」
「東天空太子様は既に執務に取り掛かっていらっしゃいますが、まあ、兄上と南天空太子様は宴の後はいつもゆっくりですからね」
「柳泉姉様もまだ起きて来てないよ?」
「それは姉様は極端にお酒に弱いですから。まあ、宴の後はいつもゆっくりして構わないと主が言ってるんですから問題ないですよ」
「だったら」
「翔様はダメです。これ以上私に余計な仕事をさせるようなら東天空太子様に言い付けますよ」
翔の言おうとしていることなど全てお見通しだと言わんばかりに、紫月はぴしゃりと主の意見を却下した。
「紫月……最近やけに容赦なくないか?」
「執務をサボることしか考えない翔様が悪いんです。従者として主の執務の監督をするのは当然でしょう?」
「だけど主扱いされてない気も……」
「書類をためる翔様を主扱いしてる場合ですか!」
本気で龍に言い付けると言われ翔は小さくなった。
そんな姉達のいつものやりとりを末っ子組はくすくす笑いながら見守って、二人仲良くごちそうさまと手をあわせると席を立つ。
「じゃあ、今日は夢華が兄上と南天空太子様を起こしに行ってくる!」
「夢華、私もいくよ」
「うん! 行こう純様!」
「待った!! その必要はない!!」
末っ子組を翔は瞬時に止めた。それに二人は首を傾げる。
「何で?」
「秀兄者が最悪の低血圧なのは分かってるだろ! 死地に二人を送り込むわけにはいかん!」
「そっか、そういえば龍兄上も同じこと言ってたっけ」
それは危ないねと二人は納得する。しかし、理由はそれだけではないことを翔は弟妹達には言わないが……
「でも兄様は平気なんじゃ」
「ダメです。あの部屋の朝と夜はお二人の教育に悪い光景しか広がっていません。これは東天空太子様の命令ですから行かせるわけにはいかないのです」
龍の命令といわれてしまえば、例え何があろうと納得しなければならない。だが、これは事実であるため二人は頷くしかなかった。
「じゃあ夢華、龍兄上のところに行こう。何かお手伝いできるかもしれないし」
「うん!」
そして二人は龍の部屋へと向かうのだった。
「……はあ〜、なんで俺が兄貴達のフォローしなくちゃいけないんだよ」
「三番目だからですよ」
「もっともなこと言うなよ……」
翔はこの日一番の溜息をつくのだった……
天宮の啓星の寝室は執務室とは名ばかりの本に埋もれた部屋と併設されている。一応、妹達や侍女達が片付けに来ているため寝室だけは片付いているのだが、三日もほって置けばベッドの下に本の山が出来ていることもしばしばだ。
そんな主の部屋に、少しだけ枯れかけていた観葉植物が生気を取り戻している。そんな力をもつ女神がこの部屋にいる性だ。
「ん……」
差し込む朝日がいつもより優しく眩しい。それで自分が天宮にいるのだと思うが、その朝日を浴びる啓星の寝顔が目の前にある。
なんだかんだ言いつつ、この青年は美形の部類に入るのだなとぼんやり思っていると、ゆっくりと彼は目を開いた。
「よお、起きたか……」
すっと腕が上がって優しく髪を撫でられる。その夢心地に酔ってしまいそうになるが、ふと肩に当たる朝の風と普通の女性なら見惚れてしまいそうな上半身を目にした途端、彼女の意識は覚醒した!
「なっ……!」
慌てて飛び起きようとしたが、完全に寝ぼけているのかまたは確信犯なのか、啓星は自分の胸板に紗枝を抱き寄せる。
「動くな。やりたくなる……」
甘い声には違いない。いや、寧ろいつもの気の抜けた感じのかけらすらないのだが、わなわなと紗枝は怒りに拳を震わせた!
「だったら御望みどおり殺ってあげるわよっ!!」
朝から啓星の部屋は樹海となったのだった……
一方、もう一人寝坊しているものは……
「ん……」
「ああ、柳泉起きましたか」
「あっ、秀様……」
ぼんやりとした意識の中に入ってくる主の姿は部屋着。宴の後の朝は急務でもない限りゆっくりする、寧ろ邪魔した者は消すと言ってのける主の機嫌はかなり良さそうだ。
「柳泉、昨日ははしゃいでましたけど気分は悪くないですか?」
「はい……ですが記憶が……」
そう言った瞬間彼女はフリーズした。
いま彼女がいる部屋は秀の寝室、しかも彼のベッドの中。おまけにちゃんと寝間着になっていて自分の衣はきちっとかけられていて……
「し、しゅ、秀様! 申し訳ございません! 私は!!」
「ああ、気にしないでください。キス魔になる君を堪能することが私の宴の楽しみなんですし」
「なっ!!」
「何より従者にあれだけ迫られるのも主冥利に尽きますね。ほら、首筋にあとが」
「す、すみませんっ!!」
柳泉は頭を下げ倒すが秀のいたずらモードがこの程度で終わるはずもない。
「いいえ、謝る必要なんて全くないですよ。可愛い君が付けてくれたあとなら大歓迎です。それに私も付けましたから」
「えっ?」
そう告げられて満面の笑顔で手鏡を渡される。
「首筋のところにね」
「なっ……!!」
柳泉は爆発するほど真っ赤になった。その期待通りの反応に秀はさらに満足する。
「やっぱり主従関係ですからね。同じ場所につけてると絆を感じますよね〜」
「うっ……!」
「だけどやっぱり唇に少しぐらいあとが残って欲しいものですが」
心底残念そうに告げる秀の言葉に柳泉は完全に撃沈するのだった……
恋愛において二百代前の啓吾兄さんと秀ってなんでこう……
今回の話、二人とも(特に秀)かなり欲望のままに動いてます(笑)
まあ、秀が柳泉にぞっこんでからかい倒してたのは現代と変わりませんが、
啓吾兄さんこと啓星の行動一つ一つが自分の利益と何より龍や紗枝のことを考えて動いています。
龍が真っすぐ進むタイプなので、その補佐となる啓星は結構その障害物を片付けていた模様。
次回はそれも語られる話となるでしょう。
それから年少組もやっぱり現代と変わりませんね(笑)