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天空記  作者: 緒俐
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第二百五話:東天空太子

 それは悠久の時を約束された場所、名を天界。天人と呼ばれる者達が住む優雅な世界だ……



 それは天界でまだ争いが大きくなる前のある平穏な日。天空王がまだ東天空太子だった頃の話だ。


「はっ!」

「うわっ!!」


 勝負は一瞬。たったの一撃相手の首筋に入っただけで東天空太子の勝ちが決まる。それを見ていた者達はあまりの勝敗の早さに唖然としたり、黄色い声が飛んだりと反応は様々だ。


 その日、太陽宮の武道場で幾民族もの太子や武芸に秀でた者達と手合わせをしに訪れていた東天空太子は、手合わせする相手が可哀相だというほどの身のこなしを披露していた。


 それを武道場の二階から見下ろしていた三人の青年は自分の主の勇姿に満足そうだ。


「さすが龍太子だな」

「いや、あれは相手が弱すぎるだけだろ」

「そうでもない。天界の太子の中でも武術に長けている方だ」


 東天空太子の護衛について来ていた森、淳、良の三将軍は龍の相手をして泡を吹いているものに簡単な評価を付けた。


 まぁ、自分達三人が束になってかかっても勝ち目などない強さの持ち主に、少し武術の心得がある程度の者など相手にもならないのは明白だが。


「だが、うちの従者殿もたまには向かってくる奴を相手にしてやればいいのにな」

「啓星は面倒なことは嫌いだからな」


 龍の従者という立場上、ついて行かない訳にもいかないというより、この行事のあとに振る舞われる酒が飲みたくてついてきている啓星は、壁に寄り掛かって今にも寝るのではないかという様子である。


 もちろん、護衛の立場でもあるため、主に無礼を働くものでも出てくればその腕前を披露してくれるのだろうけど。


「だけどこの前さ、啓星に熱を上げていた女神が自分に振り向いてくれないからって逆恨みした奴が圧死しかけたってよ」

「ん? 俺は柳泉を拝みたいといってきた奴を天から地上スレスレまでダイブさせたと聞いたが……」

「二人ともその情報は古いぞ。昨日は紗枝殿に手を出そうとしたバカの精神を砕いたようだ」

「いや、それ砕いたのは紗枝だろ……」


 森の妹である自然界の女神と交流の深い啓星は、おそらく彼女に頼まれて楽しんでそのバカと呼ばれた人物を痛ぶったに違いない。


「まっ、いいじゃないか。龍太子が他の民族の太子より優れていると知れ渡ることは仕える身としても光栄なことだしな」

「ああ、それに龍太子の恩恵にあやかって美女達が俺にも……」

「まず近づいてくるわけがないだろう。啓星と秀太子がいる時点でお前には誰も寄って来るはずがない」

「というよりそれだけ女に飢えてるなら地獄にでもいったらどうだ? 命懸けで追いかけてくると思うぞ?」

「死ぬだろうがっ!!」


 だいたい俺にも好みはあると森はそう主張していると、淳が視線を下に向けるように促した。


「おいおい、うちの大将に喧嘩売るバカが出てきやがったか……」


 三人はいつでも動けるように構えた。


「これは何の真似だ?」


 自分を取り囲み刃を向けてくる者達に龍は威圧感たっぷりに尋ねた。とても一太子と思えない風格に彼を取り囲んでいた者達は一歩後退するが、人数はこちらの方が上だと吠えてくる。


「東天空太子っ! 前からお前達天空族は気に食わなかったんだ! 二度と太陽宮に訪れられないように叩きのめしてやる!!」

「それだけでは納得できない。それにただ気に食わないからという理由だけで仕掛けてくるのならこちらも礼は払わないぞ?」

「その態度が気に食わないんだよ!!」

「太陽宮に来ているのだ。光帝の下にいる身でありながら礼節一つ守らないわけにはいかない。それにこのような騒動を起こす君の態度の方がよっぽど」

「黙れ、東天空太子っ!!」


 龍の話を遮って取り囲んでいた一人が切り掛かってくる前に啓星がその動きを封じた。


「なっ! 体が……!」

「啓星……」


 全くお前は……、とでも言いたそうな表情を向けると、青い目をした青年は楽しそうに笑った。


「まあまあ、一応お前の従者なんだからよ、これくらいはやらねぇと妹達に怒られる」

「うっ……!」


 龍を取り囲んでいた者達は重力に押さえ付けられ、その場に膝を付いた。


「うちの大将に刃を向けるなど身分不相応もいいところだ。それにどうせお前ら沙南姫様や紗枝、おまけに天界中の女神や女仙が天空族に興味を示してるのが気に入らないんだろ?」


 啓星の言葉は見事図星だった。この太陽宮の道場に来る者は光帝と親密になりたいか、または沙南姫を狙ってくるかのどちらかである。


 しかし、光帝も沙南姫も天空族贔屓というぐらい龍を気に入っているので、他の者達から見ればおもしろくないとしか言えないのである。


「まっ、同じ男としては同情ぐらいしてやりたいが、うちの大将にこれ以上危害を加えるつもりなら」

「ぐっ……!」

「天空族の敵となる前に圧死させるぞ?」


 さっきまで笑っていた目が本気で殺気を帯びる。それに気付いた龍は啓星を止めた。


「啓星、太陽宮で無礼な振る舞いをするな。光帝に顔向け出来なくなるだろう」

「いや、寧ろ手を叩いて声援ぐらい送ってくれるんじゃ……」

「いいからやめろ」


 否定しないのはまさにその通りだと思うところが龍にもあるわけで……


 そして命令なら仕方ないかと、啓星は相手に掛けていた重力の枷をはずしてやり相変わらずな主に意見した。


「ったく、本当にお前は甘いんだからよ」

「お前が秀と一緒でやりすぎるからだ」

「おいおい、俺はあそこまで黒くないぞ?」

「それでも常識の範囲内で考えろ。お前は充分過ぎるほど相手に対して容赦しないだろう」

「当たり前だ。自分の主に刃向かうものに容赦しないのが従者だ。もうすぐ天空王になる男が他民族のバカどものために手を煩わせるわけにはいかないだろ?」

「……俺はその度に気苦労を背負う羽目になるんだが」

「部下の不祥事は主が片付けてくれるからな」


 啓星はニヤリと笑い、龍は肩をがっくり落として深い溜息をつく。


 この頃からすでに龍はかなりの気苦労を負っていたのであった……



ついに二百代前のお話スタートです!


龍が天空王になる前の太子時代、すでに啓星は従者だった模様。

というより、普通に友人として接していますね(笑)

まあ龍の性格上、啓星に従者として接してもらうのは好きじゃないだろうけど……


そして太陽宮ということで、龍達はいま沙南姫様の宮殿にいるみたいです。

結構太子時代はお邪魔していたみたいで(笑)


話はもう少し平穏な感じで続きます。

次回もお楽しみに☆




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