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天空記  作者: 緒俐
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第二百話:共に生きるもの

 灰色の球体が業火を食い止めている。それを作り出していたのは啓星。風と火が交わらないようにと結界を張っていたが、突然吹き荒れ始めた暴風に彼は舌打ちした。


「紫月……!」


 すぐにでも妹の傍に行ってやりたいが、彼はもう一人の妹の力を食い止めるだけで精一杯だった。


「早くしろ……! お前達が柳泉達を止めなければ誰が止めるんだ……!」


 お前達は自分達兄妹の主だろうと、特にこの業火の中で未だに柳泉を止められない秀に悪態を突く。

 しかし、球体の中で荒れ狂う業火は一向に治まる気配すら見せなかった……



 荒れ狂う風に翔はいくつもの切り傷を受けながらも、何度も紫月がいるだろう竜巻の中に飛び込もうとする。

 だが、暴走する力に弾かれを繰り返し近づくことはおろか、どんどん遠くに離されている気すら感じられた。


「くそっ……! あいつ大丈夫なのかよ……!」


 いつか話してくれた紫月達の力のことが翔の頭の中に流れる。


 力の解放はそれだけ体に負担をかけてしまうのだと紫月はそう話してくれた。もちろん、二百代前の姿に戻っているのだからいつもよりは多くの力を解放しても、現代の姿に戻ってしまえば多少休めば問題ないと数日前に体験している。


 しかし、力の暴走となってしまった場合、自分達ほど風を支配下に置いていない紫月がこの力に耐え切れるのかは分からないのだ。

 それに先程から自分の直感が早くこの力を止めなければ危険だと騒いでいる。


 二百代前の最後の戦、太陽の姫君が貫かれたあとに叫んだ自分に呼応して、彼女の力を暴走させたではないかともう一人の自分が告げてくる気もして……


「くっ……! 止まれよ紫月……!」


 一歩前に踏み出せば今度は額に切り傷が入り流血してくる。だが、それに構わず翔は自分の操れる風全てを身に纏って竜巻の中に突っ込んだ!


「止まれ紫月〜〜!!!」



 話は二百代前、最後の戦に遡る……


「どけぇ〜〜!! 邪魔するなあ!!!」

「うわあああ!!!」


 疾風迅雷の如く、西天空太子は戦場を駆け抜けていた。桜姫が敵に操られて天空王と戦い、戦場に飛び込んで来た沙南姫が神の手に堕ちたと聞いては、一刻も早くこの敵陣を突破するしか道はなかったのである。


 しかし、例え天下無敵の西天空太子といえども、全てを一瞬のうちに倒せるわけではない。


「西天空太子! 先日の怨み、今ここで晴らしてくれる!!」

「どけっ!! 化け物!!」


 先を急いでいた西天空太子の前に、夜天族の夜叉王子が傘下の民族の軍勢と神兵、さらにはグリフォンの群れを従えて彼の前に立ち塞がったのだ!


「通さぬ!! 貴様ら天空族を根絶やしにするために我らはここに集ったのだ!! そしてお前は私の手でその首を跳ねてくれる!!」

「邪魔だってんだろうが!!!」


 そう叫び襲い掛かってくるものを十数人単位で簡単に吹き飛ばしていくが、やはり一人ではとても瞬時に倒せる相手ではない。


 しかし、そこに彼の従者が天高くから舞い降りて来た!


「翔様っ!!」


 いつも以上のスピードで戦場を翔けていた主にようやく追い付いた紫月は、巨大な竜巻を発生させて一つの活路を切り開く。


「紫月!!」

「急いでください!! 天空王様が!!」

「分かってる!! 付いてこい紫月!!」

「通さぬと言ってるだろう!!」

「邪魔だと言ってる!!」


 西天空太子は剣を抜き、自分に襲い掛かってくるもの全てを一閃で斬り伏せて行き、最後に夜叉王子と刃を交える!


「くっ……!」

「邪魔だと言っている! この翔にまた斬られたいのか!」


 夜叉王子の巨体がよろめくと、主の援護にと紫月がかまいたちを放ちそれは夜叉王子の右肩を掠める。


「どきなさい! お前になど費やしてる時間などない!」

「小娘が!! 柳泉のように大人しくしておれば良いものを!!」

「お前のようなものが姉上の名を軽々しく口にするな! 姉上が汚れてしまう!」

「ぬかすな! どのみちお前達天空族が滅びれば柳泉も沙南姫も全て俺のものだ! いや、訂正する。沙南姫は既にいただいたがな……!」


 卑猥な笑みが夜叉王子を歪めると、翔の放った風の矢が夜叉王子の手足を貫いた!


「うぎゃあああ!!!」

「嘘を抜かすな!! それ以上の虚言をほざけば今度はその口を貫く!!」

「ククッ……!! 嘘ではない。だが残念だった、まさか天空王と交わっていたとはな」


 それは紛れも無い事実だと、翔は夜叉王子が沙南姫にしたことに怒りをあらわにして斬り付けようとしたが、それより早く紫月の攻撃が早かった!


「翔様!! 伏せてください!!」


 風の大鎌が夜叉王子の胸を切り裂き、その場に崩れると二人は一気に加速した!


 だが、天空王を見付けたとき、彼はすでに戦意を失って膝をおっていて、それを庇うために沙南姫が貫かれていたのである。


「……沙南姫?」

「沙南姫様……!」


 刃が抜き取られると彼女の血が天空王の頬に飛び散り、その体は崩れ落ちた。


「あっ……うわあああああ!!!」

「くっ……!! 翔様!!!」


 そう叫ぶなり翔の力は暴走し、その影響を受けて紫月も自分の力を抑え切れなくなったのだった。


 そのあとだった、天界の全てが無に帰したのは……



「あの時、俺は兄者を支えることはおろか、暴走した俺の力で紫月を苦しめたんだ……」

『ならば繰り返すな、もう繰り返してはならない』


 翔の脳裏に流れてくるのは西天空太子の声。あの最後の戦で自分が紫月に与えた苦しみを彼は悔いていたのだと知る。


 しかし、現代の彼はだからこそ思うことがあるのだ。


「ああ、だけどやっとまた一緒にいられるんだ。ずっと同じ風を感じて過ごしていける大切な奴と」


 背中を守って戦えること、冷静に突っ込んでくるところ、料理がうまくて面倒見がいいところ、そして時々照れた表情を見せてくれると何だがこちらの笑みが零れてくる。


 そんな彼女だからこそ、ずっとこれからもともにあると、そして守りたいのだと思う。


『……ならば掴み取れ、そして守り抜け! 共に生きたいと願うものを……!』


 そして意識はのまれる……



「……風がかわったか」


 啓星は呟く。ただ、先程まで吹き荒れることしかなかった風が風を従える太子の力によって少しずつ治まり始めてきたのだ。


「あの分なら何とかなるだろうが……」


 啓星は自分が作り出している結界の中に視線を向ける。


「……やはり従者としては見れないか、秀!」


 業火に包まれている世界は、さらに苛烈さだけを増しているのだった……




ついに二百話です!

いや〜よく頑張ったよ!

そしてこの話はまだまだ続きます。


さて、今回は翔の二百代前の最後の戦視点を書きました。

現代で「龍が夜叉王子を斬るべきだ」と言ってた理由は、書いてた内容から察してください。


そして、ついに現代で翔も覚醒してくれます!

彼はどんな助け方をしてくれるのでしょうか?


でも、あの秀さんが柳泉相手に相当大変な模様。

啓星が「従者としては見れないのか」と言っていますが……


でも秀が普段返す言葉なら間違いなく「愛してるんだから一人の女性としてでしか見れません!」

と、即答してくれそうですけどね(笑)




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