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天空記  作者: 緒俐
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第二十話:互いの存在

 聖蘭小学校六年生の教室は本日も花と光とピンクのオーラが天使達から発せられていた。


 そのオーラは感じている者達にとっては心の癒しではあるが、夢華の転校初日からずっとこんな感じなので周りは思い切って尋ねてみることにした。


「ねぇ、夢華ちゃんって純君のこと好きなの?」

「うん! 純君大好きだよ!」


 満面の笑顔が非常に眩しい。しかもこうはっきり言われてしまうと、たとえ彼女の恋路を邪魔したい感情があったとしても引いてしまいそうだ。


「じゃあ、純君と付き合ってるの?」

「付き合う?」

「そうそう、恋人なのかなって」


 友人達の問いに夢華はう〜んと悩んだ。純のことは大好きなのだが、まだいまいち恋人と仲のいい友人という区別が彼女には出来なかった。ただ、いま言えることは一つ。


「……恋人じゃないよね?」

「じゃあ、付き合ってないんだよね?」

「でも一緒にはいたいんだけど……」

「キスしたことはある?」


 啓吾が聞いたら最近のガキは……、といかにも言い出しそうな発言である。


「お兄ちゃんが日本じゃキスはしちゃダメだって言ってた。文化の違いだからって」

「そうそう、それと純君と手を繋いで帰るのも恋人だって勘違いされちゃうよ?」


 そうなんだぁ、と夢華は思った。純が本当に自然に手を差し出してくれるので彼女は心のままにその手を掴んでいた。しかし、彼女はふと思い付く。


「ねえ、恋人って将来お嫁さんになる人のこと?」

「うん、なる人はなるんじゃないのかな」

「だったら夢華は純君のお嫁さんになるから大丈夫だよ! そしたら毎日一緒にいられるもん!」


 友人達は開いた口が塞がらなくなった。夢華の発想は恋人とかいう以前の問題だとようやく理解出来たのだ。そこにひょこりと純が現れる。


「夢華ちゃん、帰ろう!」

「うん!」


 嬉しそうに夢華は純の手を握った。それはもう溢れんばかりの笑顔で二人は手を振り、帰りの挨拶を告げて教室を出ていった。


 そして、呆然として取り残された友人達はいつもと同じ光景を見つつ、一つの定説が浮かび上がる。


「ねぇ、夢華ちゃんはアメリカ暮しで何となく日本で考えられる恋人に間違われる定義を分かってないんだろうけど、純君はどうなのかな?」


 もっともな疑問を女子生徒がポツリと零せば、同じような考えを持っていた男子生徒が話に加わる。


「あいつも分かってねぇよ。あいつの定義は好きな人と一緒に暮らすのは自然なことらしくて、実際にそれを見て育ってるから恋愛の感情なんて分からないらしい……」


 純が生まれたときから沙南はいて、「今日は龍さんとデートしてくる!」という言葉を当たり前のように聞いて育った結果が今だ。


「温かく見守ろうよ、来年も俺達は見るんだから……」

「そうだね……」


 クラスメート達が二人を公認した日になった……



 一方、今日も翔から課題で泣き付かれた紫月はもう当たり前のように翔と下校することになった。二人ともクラブには所属していないため、放課後の時間はわりかしたっぷりだ。


 ただ、この最近で大きく変化したことがある。それは女子達の羨望の眼差しが物語っていた。


「……紫月、最近お前やけに女子からモテてないか?」

「純君と不良をのしてしまったことが原因なんでしょう」


 自分の下駄箱に入れられている女子からのラブレターを紫月は鞄の中に入れた。


 不良を倒してしまったことは瞬く間に噂になり、おまけに調理実習でプロ級の腕まで披露した紫月は「お姉様」と女子から好感を寄せるようになってしまった。


 もちろん、翔のファンクラブの面々は彼女の強さを知った性か非常に大人しくなっている。


「まぁ、紫月が空手をやってたってことは聞いてたけどさ、悶絶させれるとまでは思ってなかった」

「あの手の輩は直線的ですから」


 相手にもならないと紫月は切り捨てた。あの現場を見ていない女子達は紫月がすごく強いとしか感心を寄せてない。


 だが、純の強さを知っている翔は小さな疑問を持ち始めていた。


「あのさ紫月、俺気になってた事があるんだけど、なんか俺に隠し事してないか?」

「……隠す必要があることなど人ならば沢山あると思いますが?」


 もっともである。しかし、翔はここでさらに核心を突いて来た。


「俺達の人質になれとか言う変な奴らはいなかったのかよ」


 真剣な目に鼓動が一つ強く打った。翔のいうことは確かに事実だったが、それを何故か翔に話す気になれなかった。もちろん、天宮家が少し変わっていると紫月自身も疑問を持ってはいるのだけど。


「紫月、俺達さ……」

「天宮〜! 今日も篠塚と下校か〜?」


 翔の言葉を遮ってクラスメート達がやって来た。翔の表情が一気にいつものように明るくなる。


「オウ! だって紫月がまた変なやつに絡まれたら嫌だし」

「くぅ〜!! なんでそんなに見せ付けるんだよ〜」

「だよなぁ、うらやましい〜!!」


 絶対自分達の関係が誤解されてる! 紫月は訂正しておきたかったが、じゃれあう男子の会話につっこむ隙はなさそうだ。


「んじゃ、俺達帰るからさ! いくぞ紫月」

「ちょっと翔君!」


 すでに名前で読んでるよ〜、とからかわれながら、翔は紫月の手を引っ張って自転車置場に早足で歩いていった。


「翔君、手を離していただけますか」


 強く握られた手に紫月は抗議するが翔は離しはしなかった。そして、紫月の方を向いてもう一度真剣な表情を向ける。


「紫月、俺は直感鋭いから気になってるんだけど、こういうことは俺より龍兄貴に報告した方が良いと思うから何かあったら必ず言ってくれよ? 紫月は大事な奴なんだからさ」


 知っている、この表情をずっと昔に向けられた気がする。そう思った瞬間、彼女は無意識に握られていた手を握り返した。


「……はい、おっしゃるとおりに致します」


 そう答えてどこか虚ろな目を翔に向ける。それに一瞬、翔は自分の中の何かが反応した気がするが、その正体は分からなかった。


 ただ、一つだけ確かなことがあるとするなら、まるで純が夢を見た後に見せる、あの不思議な目に似ていた……




今回は年少組の告白大会でしょうか(-.-;)

末っ子組はともかく、翔と紫月ちゃんも普通にからかわれても否定せず、手もしっかり握っています(笑)


だけど、翔も紫月ちゃんも恋愛とは全く別のところで感情が動いてるわけですが……




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