第百九十九話:風の攻防戦
上空から急降下する末っ子組を無数の花びらが包み込んでクッションになる。間一髪という状況だったが、二人の寝顔に癒される女性二名。
「かっ、かわいい……!」
「はい、本当にご無事で良かったです」
天使の寝顔といっても過言ではない二人を紗枝と桜姫は堪能していたが、この状況はさすがにまずいのではないかと森は桜姫に上着を渡しながらいう。
覚醒後、当然二人とも衣服など身につけていない訳で……
「だけどよ、普通は十二歳って言えば一応思春期な訳でよ」
「純君の十二歳とバカ兄のただれた十二歳の時期を一緒にしないで」
「全くだな。北天空太子様に失礼なことこの上ない」
「無礼な発言は森将軍でも許しません」
「だそうだ」
森に容赦ない批難を浴びせながら、宮岡も上着を脱いで純に着せてやる。夢華もこの状況なら、あと最低二着は服を拝借しておく必要があるなと冷静に考えた。
「へっ、だったらお前らも俺と過ごしてる時点でただれた十二歳児だったってわけだ」
「ああ、人生をやり直せるなら生まれた時からやり直したい気分だ」
「そうだな。たまたま親が知り合いで、たまたま幼稚園から長い付き合いになって、大学でようやく縁が切れたかと思ってもお前は野垂れ死んでくれなかったばっかりに」
「おい、なんでそこまで話が大きくなるんだよっ!」
森は思いっきりつっこんだ。生まれた時から後悔されては本当にどうにもならない。
「だけど桜姫、純ちゃん達はまだいいとして、翔ちゃんや秀ちゃんの元に行くのは……」
「はい、さすがにお二人の戦いの場に近付くことは危険ですし、何より近付くことなど不可能。火と風の力を持つからこそ行ける場所には違いありません」
「だったらどうするんだ?」
「沙南姫様の元まで行きましょう。まだ沙南姫様が覚醒されていないことは確かですし、主が敵を動けなくしていることから考えてもそこが一番安全なはず。
何より沙南姫様を失い、主が暴走した時はどのみち世界は終わります。でしたら敵の中心部に乗り込んでも乗り込まなくても結末は同じですから」
そう告げて綺麗に笑う桜姫に一行は苦笑した。事態は最悪になるかもしれないのに、なぜか何とかなる気がして……
「まっ、操られてた落とし前は龍につけてもらうとして、俺達は八つ当たりでもしに行くか!」
「ああ。だが、今度は操られるなよ。いや、操られて龍の前に立ったら間違いなく今なら躊躇せずにやられるな……」
「ええ、その点に関しましては二百代前よりさらにひどくなったような気が……」
「えっ??」
桜姫がポツリと漏らした言葉に、一行はポカンとした表情を浮かべた。
ヘブンランド最大最速のジェットコースターのレール上で、翔と紫月は風の攻防戦を繰り広げていた。
風を操る二人にとって、いかに風の中でバランスを崩して相手を仕留めるかが鍵となっていたが、風を操る能力に関しては二人ともほぼ互角である。
「紫月!! お前俺を殺す気か!!」
「神に逆らうものはたとえ翔様であろうと死んでいただきます!!」
「くっ……!! 敵に回ると兄貴達と同じくらい厄介な! どわっ!!」
紫月が放ってきたかまいたちを避けると、煉瓦作りの塔がまるで大根のようにスッパリと切れた。それにはさすがの翔も真っ青になる。
「おいおい……、塔ってあんなスッパリ切れるもんかよ」
「よそ見している暇があるのですか?」
「やばっ!!」
振り下ろされてくる風を纏った蹴りは鉄のレールを切り、に地面にも爪痕を残した。
「……相変わらず容赦ない」
「遠慮せずかかって来てはいかがですか? もちろん出来ればの話ですが」
「できねぇから困ってんだよ! 紫月は大事な奴なんだ、それに怪我なんてさせたら啓吾さんだけじゃなくて龍兄貴や沙南ちゃんにまで怒られちまう……」
それだけは冗談じゃないという顔を紫月に向けると、彼女は一つ溜息をついた。
そして質の違う風が翔の頬を掠めた瞬間、紫月は白銀の目を光らせ二つの竜巻が発生させた!
「ならば死ぬだけです!」
「いや、それはマジで勘弁!!」
触れるだけで全てを破壊しそうな竜巻から翔は逃げようとしたが、近くで聞こえる秀と柳泉の戦いに気付いて逃げるわけにはいかなくなった。
風は火の勢いを煽る、さらに先程の戦いで生きた水源達が意識を失っているとなれば被害は甚大だ。
「クソッ! あの腹黒兄貴め! 早く柳姉ちゃんを気絶させろってんだ!」
そういえば間違いなく自分はどうなんだとつっこまれ、さらには今の腹黒発言の報復ぐらい秀はしてきそうだ。
しかし、大火災を起こしてここにいる者達を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
「止まれぇ!!!」
翔は風を身に纏って一つの竜巻に飛び込み、その風を自分の支配下へと治めていく。しかし、そのままもう一つの竜巻に飛び込もうとした瞬間を狙って風の踊り子はふわりと翔の背後に立つ。
「えっ?」
「その甘さも油断に繋がるんですよ、翔様」
「うわっ!!」
振り返ってかまいたちが胸を掠めたあと、爆風が翔を吹き飛ばしてジェットコースターのレールを支える鉄柱に叩き付けられる。
「ぐっ……!!」
「御覚悟を!!」
「やられるかよっ!!」
「きゃっ!!」
そう叫んで突っ込んで来た紫月を吹き飛ばし、彼女の体はサーカスのテントの屋根に突っ込み、テントそのものが崩れた。
「痛っ〜!! って、やべ!! 紫月っ!!」
つい本気で反撃してしまったなんて彼女が正気に戻った時に言えば、言い訳無用と様々な方面から批難を受けることは間違いないなと思いながらも、彼女の安否を確かめるために翔はテントまで下りる。
「紫月、生きてるか!」
「……生きてますよ」
聞こえて来た声に安堵するが、すぐに風は吹き始める。いや、この風はそんな優しいものではない!!
「紫月!!」
「……!! 離れて下さいっ!!」
「うわああああ!!!」
翔が常人だったらおそらく風に体を切り刻まれていただろう、無数の風の刃が翔の肌を切り付ける!!
「紫月っ!!」
叫ぶが声は完全に掻き消される! いや、音そのものが紫月に支配され始めている!
「紫月〜〜〜!!!」
しかし、その声は届かなかった……
その頃、沙南が捕まっていたホテルに辿り着いていた龍は自分を取り囲んでいた者達を簡単に叩きのめし、ある人物と対峙していた。
「……二百代前と変わらない力を持ち、また私の前に立ったか」
「……二百代前ならきっと礼を払い貴方に膝をついていた。だが、いま貴方の前に立ってもかつての忠誠心など湧いてなどこない」
龍は爛々と怒りに満ちた目を相手に向ける。この目の前にいる人物の前に立った瞬間、話さずとも全てが龍の脳裏に流れ込んで来たからだ。
「この世の創造主がなぜ神になど力を貸すんだ?」
龍の前に現れた人物こそこの世の創造主、そして二百代前、龍達天空族が膝を折っていた主上だった……
さあ、今回は翔と紫月ちゃんのバトルです!
二人は味方同士だと本当に敵なしの状態ですが、
敵になるとやっぱり紫月ちゃんの容赦なしのところは変わらず……
まあ、翔が紫月ちゃんに怪我させたとなれば、間違いなくあのシスコンが怒り狂いますから(笑)
だけど紫月ちゃんも力が暴走させられたみたいでピンチに!?
さあ、ここで翔がちゃんと兄達に負けないくらいカッコイイところを見せられるか!?
一応最終章なんだから頑張ってよ?
そして龍も沙南ちゃんが捕まってるホテルにたどり着きました。
そこで待っていたのは神ではなくこの世の創造主こと、
二百代前天空王達が仕えていた主上。
今のところ分かっているのは、柳ちゃん達の力を引き上げて暴走させている人物ですが……