第百九十三話:太陽と神
モンタナ州に建設された世界最大のテーマパークはアトラクション系統は全て完成したものの、まだオープンまでは一ヶ月かかるとの報道の性か客は訪れていない。
しかし、その中に建設されたホテルにはこのテーマパークを創ったオーナーが、初の来客者を迎えていたのである。
だだし、その来客者は非常に不機嫌そうだが……
「そんなに不機嫌そうな顔をしないでほしいね、沙南姫」
クスクス笑いながら神は沙南に告げるが、それと真逆の表情を来客者である沙南は向ける。
「拉致された上に皆と引き離されて、おまけに大嫌いなあなたと話さなくちゃいけないのに不機嫌にならないと思う?」
一息に沙南は言い切った。前回会ったときはその視線に射ぬかれて立てなくなったが、今回は心を折られまいと彼女は全く隙を見せるつもりはなかった。
それに龍達は必ず来てくれるのだ。それまでぐらい堪えようと思う。
「そういわないでもらいたいな。もし天空王がこのゲームに負けたら君は三國の妻、つまり僕とは親戚になるのだから」
「三國? 誰よそれ」
「三國弘世。現代では心臓外科医になってるけど知らないかな?」
「知らないわ。そんなわけの分からない人のお嫁さんになる気なんてさらさらないわよ!
だいたい、私は物心ついたときから龍さんのお嫁さんになるって決めてるのよ? 今更どんな相手を押し付けられてもお断りよ!」
ここまで沙南に言い切られるとは思ってはいなかったのだろう、神は目を丸くした後苦笑した。
「ハハッ、二百代前もそうやって求婚者達を蹴散らしてたけど、現代でも同じみたいだね」
「当たり前! 私は二百代前から龍さんのことが好きなんだもの! 簡単に心変わりするわけがないでしょ!」
ほぼやけくそだった。さすがの沙南でもここまで自分の気持ちを赤の他人にぶちまけたことはない。もし本人に聞かれたりなんかしたら、柳以上に茹蛸になる自信がある。
「ハハッ!! いや、さすがは太陽の姫君だ! 君にそんなことを言われたらさすがの天空王も焦がされるのかな」
「失礼な事言わないで! 龍さんは天空王なんだから太陽一つぐらい簡単に受け入れてくれるわよ!」
「うん、だから困るんだ」
「えっ?」
「さっ、とりあえず座って。立ち話には少し長くなるからね」
つい勢い余って立ち上がってしまった沙南は少し恥ずかしいなと思いながらも、それを表情に出す事なく椅子に腰掛けた。
「さて、沙南姫。君は天空記の内容はどれだけ知っている?」
「最後の戦いで私があなたに殺されたところまでバッチリ知ってるわよ」
「じゃあ天空王が主上、いや、この世の創造主以上の力を秘めていたことは覚えてるかい?」
そう尋ねられて沙南の脳裏に二百代前の映像が流れてくる。
東天空太子が天空王へとなる儀式の時に暴走した力を自分は目の当たりにしたのだ。その力が善とも悪ともなる力だったことを確かに自分は感じていた。
「……それが何の関係があるの?」
「うん、神族にとって天空族はずっと仕えてくれる存在だったんだけどね、君が天空王に恋い焦がれてしまった時から、この世の創造主はいつか自分の立場が危ぶまれると考え始めたんだ」
「どうして?」
「沙南姫、例えばこの地球に太陽が落ちたらどうなると思う?」
「落ちる前に大きさが違うんだから地球そのものが消え……」
沙南は言葉を失った。つまり結論は一つだ。
「太陽の力を司る君が天を統べる王に恋をするということは、世界そのものを滅ぼす力を天空王が手にするということにも繋がるんだよ。
ただ君が世界を照らす太陽のままなら、そして空の中に小さくあるままなら構わなかった。
しかし、主上より強い力を秘めた天空王が君の力を利用し始めれば世界の調和が崩れる。だからこそ天空族を滅ぼすために神族は動き始めたんだ」
「だけど天空王はそんなこと……!!」
「だが、君を失った天空王は天界そのものを無に帰しただろう?」
沙南はすぐに言い返すことが出来なかった。神のいうことは史実だったから……
「……でも、だからと言ってどうして現代でみんなにひどいことばかりするのよ……!」
「沙南姫、君が二百代前からずっと天空王に恋い焦がれてると言ったように、天空王に滅ぼされた民族の生まれ変わり達もまた怨みを抱いている。
そして天空記にはこの現代で雌雄は決すると予言されてるぐらいだ。天空王には今度こそ報復させてもらうよ」
そう言って踵を返した神を沙南は呼び止める。
「……待ちなさい!」
そして神は振り返ると、そこには沙南の意識を乗っ取ったのだろう、沙南姫がいた。
「一つだけ答えなさい。それは現代に生きるものの意志か、それとも二百代前に全てを利用しようとした悪神の意志か!」
「……まだ覚醒には早いな、沙南姫」
「くっ……!」
力を押さえ付けられ、沙南はその場に倒れる。そして神はふわりと沙南を宙に浮かせて瞬時にこの部屋から沙南の姿が消えた。
「三國、そこにいるか?」
「はい、神様」
すっと三國の姿が部屋の中に現れる。
「主上の力を使ってもらえ。この前のように無様な負け方はしないだろう」
「くっ……!」
三國は言い返すことが出来ない。二百代前も現代もこの神と名乗る男の力に届かないのだから……
「それに今回はさすがの天空太子達もそう簡単に殺せはしないだろうな」
「神様……」
部屋の中にふわりと紅い衣を身に纏った従者が姿を現したかと思うと、同じように白と黒の衣に身を包んだ少女達も姿を現し膝をつく。
「柳泉、紫月、夢華、各々の主の命を奪い私の前にその首を並べよ。ただし、天空王だけは殺すな。奴には更なる絶望を与えて私が手を下す」
「はい……」
すっと三人はその場から姿を消す。
「三國、いや、月の太子。お前には三将軍の指揮権もやろう。将軍達の二百代前の力は覚醒させてあるんだ、桜姫と啓星ぐらいなら足止めぐらいにはなるだろうからな」
「……はっ」
三國は頭を下げその場から姿を消す。そして神は窓際に立つと光り輝くテーマパークを見下ろす。
「さあ、このゲームどちらが勝つか……」
神は微笑を浮かべた……
いよいよ次回からバトルに入りそうです。
でも、柳ちゃん達が操られてるようで流石の天宮兄弟もピンチ!?
そして、今回神からまた二百代前の背景が語られました。
太陽の姫君だった沙南が天空王に惹かれるということは、
ただでさえも強い力を持っていた天空王が全てを滅ぼす力を手にするらしく、
それを危険だと思った主上を神が唆して天空族を滅ぼそうとしたとの事。
そりゃただでさえ空を落とす力の持ち主ですからね、
危険だと思うなというのも無理な話かもしれませんが……
だけど沙南ちゃんがどれだけ龍を好きなのか、改めて作者もビックリです(笑)
いや〜物心ついた頃には龍のお嫁さんになるって決めてたんだなぁ、沙南ちゃん。