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天空記  作者: 緒俐
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第百九十二話:神からの招待

 生まれたての子供に異常がないか紗枝は調べる。聴診器から聞こえるトクントクンと雑音のない心臓の音。医者として何度も聞いてきたが、その強い心音に生命の凄さを改めて感じるのだった。


 そして産婆は椅子に腰掛けて一つ深い息を吐くと、桜姫がテーブルの上にコーヒーを置いてくれた。


「お疲れ様でした、主」

「ああ、ありがとう」


 無事に出産を終え、全ての処置を済ませた龍は声を張り上げていた所為もあるのか少々お疲れ気味である。

 コーヒーを飲みながら視線を弟達の方に向ければ、数分は同じ感想を彼等は漏らしていた。


「小せぇよなあ〜」

「小さいよね〜」


 その小さな生き物に二人の関心は引き付けられたままである。それは秀も同じらしいが、彼から出て来た言葉は相変わらずだ。


「翔君も泣きはしてましたけど、生まれた時だけは大人しかったんですけどねぇ」

「おい、そのあとずっと手がかかってるみたいなこというなよ」

「えっ!? 自覚ないんですか!?」

「何だよそのリアクション!」


 だが、秀の気持ちはわかる。確かに他の赤ん坊より百倍は元気だった翔の面倒を見るのは大変だっただろう。


 ならばと、翔はさらに上の兄に秀のことを尋ねた。


「龍兄貴! 秀兄貴だって面倒見るの大変だったんだろ?」

「僕だけじゃないですよ。兄さんは僕と沙南ちゃんの面倒見てたんですから」

「そりゃ大変そうだな」


 手易く龍が幼稚園児の時から気苦労していそうなイメージに啓吾は笑うと、懐かしさに龍は吹き出した。


「ああ、うちの人間のおむつは俺が変えることが結構あったからな」

「だ〜はっはっはっは!!! 次男坊がおむつ……!!」

「燃やしますよ啓吾さん」


 静かな殺気を放つがこればかりはどうにもならない。


「まっ、年長者の役目だよな」

「おう、俺も妹達のは全部かえてたし」

「いいわねぇ、私もそういう経験してみたかったな」


 下の兄弟がいない紗枝は確かに秀達を弟分として遊んでいたが、おしめをかえたりミルクを与えたりというような経験はなかった。

 なので少し下の兄弟を持つ龍や啓吾が羨ましくなる。


「何だ、紗枝は子供好き……に決まってるか」

「小児科医だもの、当たり前でしょ?」

「んじゃ、早くつく」

「私は当分仕事するから」


 啓吾が言おうとしたことを紗枝はあっさり遮った。


「桜姫は兄弟とかいるのか?」


 極自然に翔は尋ねる。もしかしたら気を使わなければならない質問なのかもしれないが、何も知らないことがさらに相手を傷つけることもある。


 それに桜姫は首を横に振って答えた。


「私には親も兄弟もございません。物心ついた頃にはGODにいましたから」

「そっか……」


 それ以上は翔は尋ねなかった。きっと聞いていいのは龍だけなんだろう。


「だけど数年経てば俺もおじさんかぁ。純、お前中学生でおじさんになったりしたらどうする?」

「えっ!? 中学生で!?」

「オウ、龍兄貴か秀兄貴の子供が出来たらそうなるだろ?」

「そっか! だけどそうなったら沙南ちゃんや柳さんがお嫁さんに来てくれるんでしょ!」

「だよな! そしたら俺達の食と文化的な生活は一生保障されっ!」


 重力をかけたげんこつが翔の頭上に落とされる!


「イテッ! 何すんだよ啓吾さん!」

「龍はともかく柳と次男坊の子供なんて……!!」

「嬉しいのか怒りたいのかはっきりしなさいよ」


 紗枝がそうつっこむのはもっとも。だが、シスコンが悶え苦しむのはどうにもならないらしい。


「紗枝! 柳に似た女の子なんて可愛すぎるに決まってるが、次男坊みたいなガキなんて最悪だぞ!」

「そうですね、僕も柳さんに似た女の子が欲しいですよ。だけど柳さんを妬かせないようにしなければなりませんねぇ」

「なにほのぼのライフ妄想してんだ!」

「数年後の現実ですよ! だけど良かったじゃないですか。紗枝さんに捨てられない限り将来煤けなくて」

「あっ、それ保障出来ないかも?」

「紗枝、テメェ!」


 騒々しくなる部屋に龍はすっと赤ん坊を抱き上げて避難することにした。このままでは間違いなく眠っている赤ん坊が泣き出してしまう。


 だが、ふと赤ん坊を抱き上げた龍に翔と純はキョトンとした目を向ける。


「何だ?」

「ああ、そのさ……」

「えっとね……」


 きっと言いたいことは二人とも一緒だ。桜姫もクスリと微笑を浮かべる。


「言いたいことがあるなら言え」


 そう龍に促されて二人は同じ単語を呟いた。


「父」

「言わなくてよろしい。とりあえず母親の元へいくぞ。我が子を待ってるはずだからな」


 だが、扉を開けた瞬間!


「死ねっ! 天空王!!」

「くっ……!!」


 間一髪、龍は突然襲い掛かって来た男のナイフをかわすと、すぐに翔が反撃に転じた!


「オラッ!!」

「ぐはっ!!」


 男は顔面を蹴り飛ばされ、鼻血を噴いてその場で気絶した。


「秀! 翔!」

「はい!」

「見てくる!」


 二人はバンガローから飛び出すと、そこには催眠術にかかった村人達が武器を手にしてこちらを取り囲んで来た。


「おい、あの女の人……!」

「あの赤ん坊の母親まで操ってるんですか……!!」


 さすがの二人もそう簡単に動けなくなった。今までは敵と認識していたからこそ遠慮なく叩きのめして来たのだ。

 それがお世話になった村人や産後の母親、ましてや小さな子供まで叩きのめすわけにはいかない。


「くそっ……! どうすりゃいいんだよ……!」

「こうするしかないだろ」


 突如村人達に強い重力がかかったかと思うとその場で気絶する。やったのはもちろん啓吾だ。


「啓吾さん、助かった!」

「いいから早く村人を家の中へ運べ。それにこの村からさっさとはなれるぞ」

「えっ?」

「GODの奴らが本腰入れて動き始めやがった。それに柳達と離れてるんだ、いつあいつらにも牙を向いてくるか……」


 その時、村人の一人が白目を向いたままふわりと浮かび上がり、言葉を発し始めた。


「聞こえているかい、天空王」

「何だ!?」

「翔様、御静かに」


 桜姫は凛とした声で注意を促す。こんなことが出来るのは神通力を持つもののみ。そしてそれを使っているものに桜姫は勘づいた。


「それと桜姫もまだ生きてるのか。やっぱりあの程度の超能力者じゃ噛ませ犬にもならなかったか」


 村人を通して笑うもの。桜姫はその名を告げた。


「いつからあのような余興を楽しまれるようになったのです、神」

「ああ、やはり主の元に戻ったら敬称も付けてはくれないのか。少しさみしいものだよ」


 きっと微笑を浮かべているであろう神に、僅かばかり桜姫の柳眉は動く。


「それより天空王、いま君達がモンタナ州にいてくれて良かったよ。早くこちらの要塞に招待したかったからね」

「要塞だと?」

「そうだ。桜姫、君は知っているだろう? モンタナ州にもうすぐアメリカ最大のテーマパークが出来上がると」


 桜姫は龍の視線に気付き一つコクりと頷く。


「君達を無料でそこに招待しよう。だが、私は余興好きでね、沙南姫達はこちらの手中に収めさせてもらったよ」

「なに……!?」


 全員に戦慄が走る。しかし、神はその反応を楽しむかのようにさらに続けた。


「ハハッ、 沙南姫と聞いただけでその反応は相変わらずだな、天空王」

「黙れ。もし指一本でも触れてみろ、今度は二度と生まれ変われなくしてやる!」


 龍の殺気に崩れそうになった紗枝を啓吾が何とか支える。桜姫はその場に片膝立ちになり、秀達も冷や汗を流しながらギリギリ立っていられる状況だった。


「……君がそう告げると神の存在価値を卑下されてるように思うな」

「そんなことどうでもいい。俺が守らなければならないものに手を出すなら、神だろうがこの世の創造主だろうが全て叩きのめすまでだ」


 そう言い切ると、村人の体はドサッと地面に崩れた。


「兄さん……」

「秀、村人を早く家の中へ運べ。桜姫、神の要塞へ案内しろ」

「はっ!」


 物語は大きく動き始める……




さあ、いよいよ龍達も神の要塞へ向かいます!

今回の戦いの場はテーマパークとのこと。

一体何が飛び出してくるのか、そして沙南ちゃん達とは無事に再会できるのか!?


はい、ですが妹達と数日離れているだけで啓吾兄さんのシスコン度が……

しかも秀のいかにも現実になりそうな未来予想図にまで悶え苦しんでいます(笑)

だけど紗枝さんとの子供も欲しいらしいですね、啓吾兄さん(笑)


そして桜姫の過去も少し判明。

彼女には親も兄弟もいないらしく物心ついたときにはGODにいたようで……

彼女の事も少しずつ分かってきそうですね。


さあ、怒れる悪の総大将、一体どれだけの被害が出るやら……




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