第百九十話:自由時間
龍達が学会のために滞在していたホテルに辿り着いた沙南達は、森が御曹司扱いされていることに目を丸くした。
「森さんって一応お坊ちゃまだったのね……」
「沙南ちゃん、紗枝さんのお兄さんなんだから……」
「だけどどうしてあんな性格になったんですか?」
「でも、森お兄ちゃんおもしろいよ?」
女性陣の口々の評価に、土屋と宮岡はコクコクと頷きながら全くだと言わんばかりに返答する。
「確かに世界一御曹司らしくない御曹司だよな」
「寧ろよく今まで勘当されてないよな」
「オイッ! 聞こえてるからなっ! だがお前ら、その御曹司のおかげでしばらくこのホテルを基地に出来るんだから感謝しろよ」
「えっ!! 基地になるの!?」
夢華は目を輝かせて森に尋ねると、森はにっと笑って答えた。
「ああ、このホテル貸し切ったからな」
「えっ!?」
あまりの発言に一行は驚きを隠せない。このホテルは一泊数百万は飛んでいきそうな場所じゃないかと思うが……
「……森、そんな馬鹿な事して菅原財閥に迷惑かけてるんじゃないのか?」
「というより客にも迷惑かけてるだろ」
いかにも世界のVIP御用達のホテルで、当然宿泊客やこれから滞在予定の客もいたはずなのにそれを追い出して自分達の基地にしてしまうのはどうかと思う。
しかし、森は全く心配無用と笑って答えた。
「その辺は全く心配ねぇよ。客はGODに睨まれるのが嫌で全ていなくなってくれたからよ」
「ちょっと待て、だったら菅原財閥の経営状態が……!!」
「ああ、多少影響は出て来てる。だが、次男坊がこんなこともあろうかと予め事前策を打っていたことと、マスターや闇の女帝の影響力もあって潰れるまでには至ってねぇ。
何より、楢原首相を拉致って俺達がここ数日国の実権に近い奴らをブッ潰してたから、今日本で一番の権力者はうちの祖父さんだな」
「つまり菅原財閥は日本を手にしたと……」
「ああ。しかも秀が王子様を使って闇の女帝に頼んだらしい」
秀と名前が出て来ただけでとんでもなく黒く感じるのは、間違いなく最近の彼の行いの性に違いない……
「……因みに何て頼んだんだ?」
「僕達が日本に帰るまで菅原のお祖父さんを助けてあげて……」
「で、落ちたのか……」
純の澄んだ瞳でお願いされては、二百パーセントの確率で闇の女帝は陥落したに違いない。
「まっ、そういうことだから好きなように使っていいぞ」
「そうか、だったら仕事しやすい部屋を貸せ。ちょっと調べておきたいことがある」
「いいぜ。だが本当、良は仕事好きだよな」
「仕方ないだろ、アメリカでのGODに関する情報をまだ全て整理出来てないんだ。何よりノートパソコン一台で処理出来ないほどの膨大な情報が流れてるからな」
「ふ〜ん。んじゃ、酒がない部屋にでも荷物を運んでもらうとするか」
「ビール六缶ぐらい冷蔵庫に入れといてくれ」
ニヤリと笑って、宮岡は夕食には顔を出すとベルボーイに連れられてその場を離れていった。
「淳はどうするんだ?」
「とりあえず警視庁に連絡入れとく。まっ、俺の有能な部下が俺の分の仕事は熟してるだろうが」
「……婚約者って言わない辺りがマジでムカつくな」
「警視庁では部下だからな。荷物は良二の部屋の隣にでも運んでおいてくれ。もしかしたら俺も仕事しろと言われるかもしれないしな」
そして土屋は国際電話をかけに一行から離れた。
「ねぇ、森お兄ちゃん! このホテル探検してもいい!?」
「オウ! んじゃ、俺が案内してやるよ。踊り子も来るか?」
どうやら自分のあだ名は踊り子になってしまったらしい。
「はい、館内を完全に把握しておきたいですし」
「よしっ! 二人は部屋は同じでいいよな」
「うんっ!」
ならばと森は日本から届いていた二人の荷物を同じ部屋に運ぶように指示した。
「あと、お姫様。腕白小僧と王子様のスーツケースはこれか? ああ、このおまけのスポーツバックは腕白小僧のだな」
「ええ」
翔らしいスポーツバックはすぐに分かる。一体中身は何が入っているのかは分からないが。
「んじゃ、これはお嬢ちゃん達の隣の部屋だな。合流したら離れてる部屋より近い方がいいだろ?」
「うんっ!!」
ぱあっと笑顔になる夢華に沙南と柳はくすくす笑う。本当に純の事が好きなんだなと微笑ましい。
「踊り子は嬉しくないのか?」
「手がかかる事だけは確かですよ」
「おうおう、素直に好きだと言えないのも青春だなぁ」
「誰がですかっ!!」
少し赤くなって否定する紫月に沙南と柳は顔を見合わせる。しかし、さらにからかおうとした森を鋭い視線で射ぬき、おまけに手に風を集め始めて脅されては口を閉じるしかなくなった。
「じゃあ、あとはお姫様と柳嬢の荷物を除いたら秀のか……」
「秀さん何を持ち込んだのかしら……」
本人に聞けば間違いなく笑顔で着替えとパソコンぐらいだというのだろうが、何となく危険が漂っている気がする。
特に厳重に鍵が掛けられたアタッシュケースの中身なんて知らない方がいい気がする。いや、知ってはいけない!
「そういえば秀お兄ちゃん、薬の小鬢いくつか」
「夢華、それはきっと消毒液です! もしくは栄養剤です! きっといざという時のために持って来たんですよ!」
紫月は夢華の言葉を遮った。しかし、森と沙南は「毒薬」とか「激薬」とかとにかく危険物に違いないと思わされる。
だが、それに納得するのが夢華と柳である。柳に至っては麻酔薬の名前まで出て来てるに違いない。元々、天宮家には医薬品の数々が保管されているのだし。
「とりあえず、丁重に運んでもらうか……」
「お願い……」
「それと二人とも部屋は龍達が来るまでは一緒でいいか?」
「ええ、だけど何で龍さん達が来るまで?」
もっともな沙南の問いに森は少し青くなって答えた。
「忘れたのか? 秀はスウィートルーム用意しとけって言ってたのをよ……」
「あっ……」
確かにそんな事を言ってた気がする。そして二人の視線は柳に向けられた。
「どうしたの?」
「柳ちゃん、秀さんと合流したらすぐに隠れた方がいいかも……」
「えっ?」
「そうだな。特に離れてた時間分だけな……」
二人の言葉に柳は首を傾げる。どうやら状況が理解出来てないらしく、いかに彼女が無垢なのかと思わせる。秀はそれが堪らなくツボにはまってるのだろうけれど……
「とにかく、秀さんが柳ちゃんと合流したらそりゃもういつも以上に独占するに違いないんだから、解放してもらえないと思った方がいいわよ!」
「えっ!?」
そう沙南が告げてようやく柳は真っ赤になった。しかもなんだかいつも以上に茹蛸になってる気が……
「まっ、とりあえず夕食の時までゆっくりしろよ」
森がそう告げて一行は自由時間となった。
沙南ちゃん達は移動して、龍達が学会のために滞在していたホテルに到着!
きっとそのうち戻ってくるだろうとホテルを基地にしてしまいました(笑)
そして森、一応紗枝さんのお兄さんなので彼も御曹司という立場です(笑)
しかし、高校卒業と同時に軍に入っちゃって……
だけど普段は見事な馬鹿扱いをされていますが、
一応、龍が先輩といっている辺りで意外な事実が判明します。
森は聖蘭高校卒です(笑)
実は進学校だったりしています、この学校。(土屋さんが警視になるぐらいですからね)
そして今回一番気になるのが秀が日本から持ち込んだもの……
一体何を持ってきたやら……