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天空記  作者: 緒俐
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第百八十七話:意気投合する者達

 久しぶりに深く眠った気がする。


 もちろん医者という職業上、いつ急患が来るか分からないのでそこまで爆睡するわけにはいかないが、それでもここまで心地よい目覚めはあの日からなかったわけで……


「……やっぱお前はすごいよ」


 自分の腕を枕にして朝まで眠った女なんていないのになと苦笑する。そうさせてしまう紗枝の頬にもう片方の手でそっと触れたら少し身じろいで……


「これからどんだけ惚れさせてくれんのか……」


 恋だの愛だのと呼べるものをずっと遠ざけて生きてきたが、それすら全て取っ払って好きだと思わせる。


 もちろん、まだGODが滅びたわけではないので油断は出来ないが、心強い味方がいてくれれば守れる気がする。いや、守りたいと思う。


「啓……」

「ん? 何だ?」


 夢の中でも自分の名前を呼ばれるのは少しくすぐったい。穏やかな表情をして髪を優しく撫でると、


「変態……」

「……何でそうムードぶち壊すかなぁ」


 一つ溜息をついてやれやれと思う半面、起きたら覚えてろよと額に一つ口付けた。



 一方、なかなか起きてこない年長者達を差し置いて、翔と純は桜姫が作ってくれた朝食に舌鼓を打っていた。


「旨い!」

「本当、美味しいね!」

「ありがとうございます、翔太子、純太子」


 恭しく桜姫は頭を下げる。本当に謙虚で礼節を重んじていてさらに美女。その落ち着いた物腰は翔が知る女性達とはまた違った魅力だ。


 だが、ここは現代。太子といわれるのはどうも抵抗がある。


「桜姫、その太子っての現代ではなし! 俺のことは翔でいいからさ」

「かしこまりました、翔様」

「いや、だ〜か〜ら!!」


 あくまでも彼女は自分達に仕える従者としての立場を崩す気はないらしい。


「おはよう」

「はよっ! 龍兄貴!」

「おはよう、龍兄さん!」

「おはようございます、天空王様」


 やはり桜姫にとっては自分はいつの時代も主らしい。沙南と合流して許可が下れば名前で呼ぶとのことらしいが、沙南の性格上、そのままの方が面白いと言い出しかねないため苦笑いするしかない。


 まあ、高原といい神といい、誰かに仕えて来た彼女がそのスタイルを崩すことはないのかもしれないが。


「秀は?」

「はい、昨夜は夜通しお話させていただきましたのでまだお休みに」

「そうか」


 きっと秀のことだ、彼女の疑惑を全て聞き出したのだろう。しかし、それにしても桜姫は平然としており、眠ったのかどうかも怪しいが……


「ねぇ、龍兄さん」

「何だ?」

「啓吾さんと紗枝さんは?」


 純の発言に龍と翔は固まる。言ってることはもっともだが、大人の事情というものはあるわけで……


「うむ……あの二人も昨日は結構力を使ってるからな。起こしにいかなくていい」

「一緒に寝てるの?」

「純! 早く飯食って村の人達に御礼しに行こうぜ! 服も朝食も世話になったんだしさ!」

「うん!」


 これ以上突っ込んでやるなと翔は話を切り替えると、食事をかきこんで二人は外へと飛び出した。


 そしてこの手の話題に弱い悪の総大将の顔を見て、桜姫はくすくす笑いながら尋ねた。


「天空王様」

「……何だ?」

「コーヒーでも召し上がりますか?」

「ああ、頼む……」


 そして桜姫は手早く準備して龍に差し出す。何となく手つきが沙南みたいだなとふと思った。


 それから口を付けるとホッとしてしまう。味も似ている。


「……美味いな」

「恐れ入ります」


 桜姫は頭を下げる。しかし、天空王の負の力を宿している性なのか、それとも従者として仕えていた記憶の性なのか、桜姫は主の気持ちを汲み取った。


「……沙南姫様のことが気になりますか?」

「無事には違いないだろうけどね」


 龍は苦笑する。柳達や森達もいるのだ、無事には違いないとは思う。だが、何となく心配になる。悲しんで泣いている気がして……


「失礼ながら、主が思っていらっしゃるほど沙南姫様は強くはございません」

「……そうかもな」


 いつも元気で無敵の天宮家の主は、一般的な定義に当て嵌めれば強い女性になる。しかし、桜姫の言う通り、これだけのことが起こっているのに平然としていられるほど強くはないだろう。

 特に、二百代前の事が深く関わり出している今の状況では……


「ですが、主でしたら沙南姫様を支えることが出来ます。主、二百代前も現代も沙南姫様を愛していらっしゃいますか?」


 その問いに龍は少し考えて答えようとしたが、悪の総大将は勘も鋭かった。


「……そうだな、天空王が沙南姫を大切に思っていたのは認めるが」


 龍は部屋の入口を睨み付けると少し怒りを含んだ声で告げた。


「そこの三人、面白がってないで出て来たらどうだ?」


 どうやらばれたらしい。秀と啓吾、そして紗枝が笑いながら入って来た。


「アハハ……ばれてましたか?」

「お前達三人の気配ぐらい分かる」

「ちっ、せっかく沙南お嬢さんへの愛の告白を聞けると思ったのによ」

「啓吾、何だそのつまらなそうな顔は」

「残念ね、龍ちゃんの愛の告白を知ったらすぐに知らせてあげようと思ってたのに……」

「紗枝ちゃん……楽しまないでくれ……」


 何でこう人をからかって遊ぶのが好きなんだと龍は頭を抱えるが、ふと、穏やかな笑みを浮かべる従者に尋ねる。


「桜姫」

「はい、なんでしょうか、我が主」

「まさか今の一件にお前まで関わってないよな?」


 嫌な予感がした。しかし、秀と目が合うと彼女はくすりと笑う。


「……桜姫、まさか」

「我が主、従者は主の望みを叶える手伝いをするのが役目でございます。そして秀様の警戒心を解くようにと命じられておりましたので」

「兄さん、桜姫さんとはすっかり意気投合しましたからもう心配いりませんよ。それに話によると、二百代前も僕達は協力関係にあったみたいですし」


 いや、確かに命じた。そう命じはしたのだが、何が一夜にして二人をここまで意気投合させたのだと思う。


「まっ、龍と沙南お嬢さんをくっつけるのは再会のときまでにきっちり計画練ればいいさ」

「それもそうね。桜姫、うまくいったら沙南ちゃんの白無垢選ぶの付き合ってくれない?」

「はい、かしこまりました」

「あっ、桜姫さん、後から今後についていろいろ話し合いたいことがありますので、知恵を貸していただけると」

「はい、お手伝いさせていただきます」


 何で啓吾や紗枝ともここまで打ち解けてるのかと思うが、二百代前にこのような一場面を見ていた気がする。それも頭を抱える要因の一つだったような……


「主、どうなさいましたか?」

「龍、頭痛いなら診てやる……あっ!?」

「あら……」

「おいおい……」


 医者達はアメリカに来た本来の目的をようやく思い出す。


「学会……どうする?」


 龍はさらに頭を抱え込むのだった……




くぅ〜! 啓吾兄さんの腕枕とは〜!!

何だか最近色気づいてるぞ、啓吾兄さん!

だけど本当大人の男を演出してくれてます。

普段はシスコンでちゃらんぽらんなのに(笑)


でも、きっと柳ちゃん達と再会したら秀と荒れに荒れた喧嘩を繰り広げてくれることでしょう(笑)


そして桜姫。

いたって穏やかな物腰を崩さない和風美女という感じですが、

すっかりSのメンバーと意気投合模様。

というより、秀が「桜姫さん」と呼ぶぐらい親しくなるなんて……

本当、この二人の間にどんな取引……(えっ!?)


最後に……龍、本当ガンバレ……




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