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天空記  作者: 緒俐
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第百八十六話:切ないほど好き

 天宮の天空王の寝室で沙南姫は目を覚ました。体が重く下腹部の痛みを感じながらもそれを後悔することはない。


 ただ、この部屋の主はもう隣にはいないのだけれど……


「龍様……」


 真っ白なシーツが小さな肩からするりと流れ落ち、沙南は傍に置いてあった衣に袖を通して外に出る。


「あっ……」


 外に出れば空が真っ赤に燃え上がり、雷鳴が轟き、風がいつもより吹き荒れている。きっと激しい戦いが繰り広げられているのだろうとたやすく想像できた。


 そのとき、天宮に伝令がやって来てここの留守を任されている大臣に告げる。


「状況はどうなっている?」

「はっ、現在こちらが押されている模様です。桜姫様が神族の手に落ち、天空王様が自らその始末を付けるために前線に出たと……!」

「その話は本当なのですか!?」

「沙南姫様……!」

「詳しく教えなさい! 殿下は桜姫を殺そうというの!?」


 強く迫ってくる沙南に伝令は膝をつき、頭を下げて苦渋の表情を浮かべて答えた。


「……さようでございます。桜姫様は神に操られて天空軍に被害を与えており……重罰は免れることは……!」


 そう告げた瞬間沙南は瞬時にその場から飛び出す!


「沙南姫様!!」

「いかん! 沙南姫様を御止めするのじゃ!」


 沙南は天を翔けた。急がなければならなかった。桜姫のことも勿論だが、天空王に彼女を斬らせるようなことをさせたくなかったから。


 そして……行かなければ二度と会えなくなる気がした……



 森を抜けた沙南達はジープを乗り捨てた後、無事に小さなホテルに辿り着いていた。そのホテルは秀達がバイトしているマスターの息が掛かっているところであり、事情を話せば快く受け入れてもらえた。


 しかし、どこか怪しげなホテルだなという感じを女性陣は覚えていたが、外で寝るよりは百倍マシだと一晩そこで明かすことにする。


 とはいっても、土屋と宮岡が夢華の教育に悪そうなものは全て片付けてから部屋の中に通されたので、いたって健全な寝室となっていた。


「このベットふかふかだね、紫月お姉ちゃん!」

「ええ、ただこの部屋の香があまり好きではありませんが」


 薔薇の香りかなと首を傾げる夢華に、そうでしょうねと紫月は答える。


「だけどお腹すいたなぁ。ルームサービス頼んでもいい?」

「そうですね。姉さんと沙南さんも何か食べますか?」

「そうね、サンドイッチとオレンジジュース頼んでくれる?」

「えっ? 柳ちゃん飲まないの?」


 悪戯な笑顔を向けてくる親友に柳は困ったような表情を浮かべた。


「姉さん、構いませんよ? 少しぐらい飲んでいただいても」

「そういうわけにはいかないわよ。油断して危険な目にあったらいけないでしょう?」

「そっちの方がいいかもしれないわよ? 柳ちゃんに何かあったら、秀さんが飛んで来てくれるからすぐに合流出来そうだし」

「それもそうですね、龍さんには申し訳ないですが」

「沙南ちゃん、紫月……」


 しかし、そうかもなぁと夢華が思ってるあたり、一刻も早く合流したければ捕まるのが一番なのかもしれない。

 だが、そんなことを望んでやったとすれば間違いなく龍が頭を抱えることだろう。


 その時、部屋の扉がノックされた。


「は〜い!」


 ぴょこんと夢華がベットから下りて扉を開けると、森達が宴会でも開くのかというほどの食糧と酒を持ち込んで来た。


「邪魔するぞ、麗しいお姫様方」

「あら、森さんいいの? こんな夜に女の子の寝室に入ったなんてバレたら秀さんと啓吾さんに怒られちゃうわよ?」


 半分冗談ではないが、それに宮岡があっさり返した。


「沙南ちゃん、その点は心配いらないよ。死ぬのは森だけだから」

「あっ、そっか」

「コラ、そこで納得すんなよお姫様」


 そして沙南にビールを差し出すと、彼女は礼を言ってグイッと喉に流し込んだ。


「ほい、お嬢ちゃんにはフルーツジュース」

「わ〜い! ありがとう、森お兄ちゃん!」

「森さん、まさかお酒じゃないですよね?」


 前科のある森に紫月は鋭く切り込むが、森は苦笑して答えた。


「ああ、今日のは本気でジュースだ。さすがに何回も飲ますと啓の奴から潰されるしな」

「心配しなくても、もし飲ませたりしてたら今日は私が切り刻んでましたよ」

「紫月君、別に今すぐ切り刻んでも構わないぞ?」

「そうだな、アメリカの女性のためになるだろうし」

「へっ、好きなだけ言ってろ。お前達が止めても俺は自由の国で好きなように愛を満喫するんだからよ」

「愛を満喫?」

「ああ、つまりだ」


 首を傾げる夢華に悪影響を及ぼす発言をしようとした森に、クッションとビールの缶が同タイミングで直撃する。

 ビールに至ってはまだ詮があいておらず、結構鈍い音がした。


「ちっ、やり損ねたか」

「淳! てめぇ警察の癖して人を殺す気か!」

「何が人だ。お前は変態だろ、どこに人って文字が使われてる」

「ついでに馬鹿だな。確かに人って文字はないな」

「良! テメェもか!!」


 他に客がいればさぞや迷惑な騒ぎだが、このホテルはちゃんと防音になっているらしく、どれだけ声を上げても問題ないらしい。


 夢華は未だに首を傾げて「愛を満喫するって何?」と紫月にとって来たので、彼女は「秀みたいなものだ」と答えておいた。


「そっか、秀お兄ちゃんみたいな感じなんだね!」

「ええ、ですがそれを秀さんや兄さんの前では言わないで下さい」

「ほえ? 何で??」


 秀は凄く柳を大切に思っていて、毎日すごく楽しそうなのにと夢華から見ればそう写っているわけだが、紫月は苦笑しながら答えるしかなかった。


「兄さんは秀さんに姉さんをとられると荒れますよね?」

「あっ、そっか! お兄ちゃんすっごく不機嫌になっちゃうもんね!」


 啓吾のシスコン度を知る夢華もそれには納得する。


「でも秀お兄ちゃんは?」

「それは姉さんが可哀相に……いえ、秀さんにそれを言うと今以上に姉さんにべったりして、それで兄さんと喧嘩になって龍さんが気苦労しますから……」


 間違ったことは言っていない。夢華も龍が大変だと理解すると言ってはいけないと思うようだ。


「うん、じゃあ内緒にする」

「はい、平和のためにそうしてあげてくださいね」


 そして数時間、寝室は宴会騒ぎになった。



 それからどれぐらい経ったのだろうか、柳は目を醒ますと森達はちゃんと部屋に戻ったらしくていなかったが、ベットが一つ空になっていた。


「……沙南ちゃん?」


 どうしたのだろうかと部屋の外に出てロビーにつくと、ベンチに腰掛けて窓の外の月を眺めている沙南を見つけた。


 何だか少し寂しそうなその表情に、柳も切なくなってくる。いつもは明朗快活な美少女も月明かりに照らされると何だか憂いを帯びた感じがして……


 まるで二百代前、天空王が戦に出てその無事を祈っていた沙南姫のようだ……


「沙南ちゃん、眠れないの?」

「柳ちゃん……」


 一瞬、泣いているように見えたがすぐに彼女らしい笑顔が自分に向けられた。


「そうね、ちょっと最近暴れすぎてたから目が冴えちゃったのかも」


 ちょっとというレベルなのかどうかは非常に怪しい。しかし、眠れないのは確かでどうにもならないのだ。


「沙南ちゃん、話を聞くことぐらいしか出来ないかもしれないけど、良かったら聞かせて?」

「ありがとう、やっぱり柳ちゃん好きよ。秀さんにとられちゃったら困っちゃうな」

「沙南ちゃんっ!」


 くすくす笑いながら抱き着いてくる沙南に柳は真っ赤になるが、ふと沙南が大人しくなる。


「沙南ちゃん?」

「……柳ちゃん、夢を見たの」

「夢?」


 沙南はさらにギュッと柳に抱き着いてその表情を隠す。


「……柳ちゃん、私……龍さんにずっと恋してきたけど、こんなに苦しくなったことなんてなかった。

 きっと二百代前の影響もあるんだと思うけど……」


 痛い、辛い、だけど愛しい……自分にそんな声が響いてくる。


「龍さんが好き過ぎてパンクしちゃいそう……それに、会いたいよ……」


 いつもそんな風には見えない天宮家の主はその思いを切なく吐き出す。


 あんな夢を見なければ良かった、二百代前にあれほど惹かれなければ良かった。


 だからこそ……好きで堪らなくなる……




今回は宴会と沙南ちゃんの恋模様。


二百代前の最後の戦前、天空王と沙南姫は思いを通わせてますが……


しかし、沙南姫様が目覚めたときにはすでに戦は激化していて、

桜姫が操られて天空王がそれを止めるために彼女を殺してしまったという話にはなっていますが……

沙南姫様もそれを止めるために戦場へ赴いていってしまったようです。


そしてやはり沙南ちゃんがどれだけ強かろうと恋する乙女でもあります。

沙南姫の夢を見たことと、神と出会ったことがいつもの彼女の強さをちょっと揺さぶってる模様。


こんな沙南ちゃんと再会したら、さすがの龍でもちょっとは動いてくれないかな??




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