第百八十五話:欲しくなる痛み
15禁です。
苦手な方はスルーしてください。
カナダとの国境近くにある小さな村に、夜も更ける頃龍達はたどり着いた。そして今日の寝床を提供してくれるように頼めば、バンガローを提供してくれる。
キャンプ場も近い性か、時々龍達のような旅行者が寝床の提供を求めてやってくるらしく、村人はあっさりと一行を受け入れてくれた。
そして翔達が寝静まった後、近くの小川で龍は月を見上げて涼んでいたところ、からかい口調で啓吾が声をかけてくる。
「月明かりに照らされて絵になる男発見」
「啓吾……」
振り向けば楽しそうな笑みを浮かべて啓吾は岩の上に腰を下ろした。
「眠れないのか?」
「いや、もう少ししたら寝るさ」
「ふ〜ん、悩む家長って感じはしてたが?」
「悩みはいろんな意味で尽きないからな」
「さすがは悪の総大将だな」
そう言って啓吾はからからと笑う。自分が龍に掛けてる気苦労などお構いなしに笑うので、龍は一つ溜息をついた。
しかし、笑いやんだ啓吾はいつもより真剣な声で龍に告げる。
「龍」
「なんだ?」
「お前に謝っておくことがある」
何かあったかというような表情を浮かべる青年に、やっぱりそういう顔するのかと啓吾は思う。
だが、これはけじめだ。啓吾は全てを打ち明けた。
「俺はお前達を利用するために日本へ来たんだ」
「……してたのか?」
「いや、し損ねた」
「だったら謝る必要なんてないだろう?」
間違いなくそう思っているだろう青年に啓吾は頬杖を付いて言う。本当にどこまで自分を信用してるのかと言いたくなるぐらいにだ。
「だが、結果的にGODの標的にされただろ」
「どのみちなったんじゃないのか?」
「お前って何でそう全て受け入れんだよ……」
「それくらいどってことないからな。むしろ秀の過激さとか翔の無茶ぶりとかの方がよっぽど手に負えん」
そこで眉間にシワを寄せる辺りこの青年は本当に気苦労性である。
「……龍、聞いてくれるか、俺のこれまでの過去」
「……ああ」
優しい表情を向けてくれる青年に、幾分か気持ちを楽にさせられて啓吾は語り始めた。
「俺の両親は夢華が生まれた後すぐにGODに殺された」
龍は驚きを顔に出さず静かに聞く。
「そしてアメリカに連れていかれて二年間実験材料として扱われて……柳が犯されかけて研究所そのものを破壊した。師匠に助けられたのはその時だった」
「……そうか」
「だけどGODはそう簡単に俺達を逃してくれなくて……俺はただ自由になるためにGODの創主をこの手で殺したんだ……」
その選択肢しかあの当時は選べなかった。そう告げる啓吾に龍は目を閉じてまた静かに聞く。
「でも、そいつに辿り着くまでにも多くの人間を殺したし、そいつを殺した後もいろんな連中が俺達を狙ってた。
だけど柳達や師匠だけは守りたくて……お前達を利用すれば本気で自由になれると思って日本に来たんだ」
GODに唯一対抗できるかもしれないと龍達のことを知ったとき、それだけの力を手にする龍を利用すればGODの戦力の大半は消せると踏んで啓吾は日本に来たのだ。
しかし、出会った瞬間に引き付けられて、妹達までその弟達と親しくなるなんて思いもしなかったのだ。
「だが、まさか利用しようと思ってたお前がこれほどのお人よしだったのは想定外だったな……」
「……褒め言葉ととっていいか」
「おお、とっとけ」
何となく微妙な表情を浮かべる龍に啓吾はニヤリと笑う。
「それにいざとなったらGODに売ろうとしてた女に本気で惚れるとは思わなかった……」
一番の誤算はきっとそこだ。恋愛感情なんか絶対持たないと思ってた女に惚れてしまったのだから……
「……紗枝ちゃんにそのことは?」
「利用しようと思ってたことは言ったけどな。まっ、深くはいわねぇよ。全部あいつも受け入れてくれそうだけど、いまは守りたいって思ってるのに荒波立てんの面倒だし」
「ああ、それならいいよ」
「やっぱその辺は怒るか?」
「まあね。俺は紗枝ちゃんの兄貴分だし、お前の親友だからな」
そりゃ怖いなと啓吾は肩を竦めてすっと立ち上がった。
「……龍」
「ん?」
「サンキュ」
「ああ……」
穏やかに笑ってくれる龍の存在が本当に有り難いと思うが、次に啓吾から出て来る言葉はやはり彼らしい。
「さてと、そんじゃ夜ばいに行くか」
「へっ?」
間の抜けた返事をする龍に啓吾は色気たっぷりの笑顔を向ける。
「どうせ桜姫は次男坊と夜通し話すんだろうから部屋には帰らないだろうし、何より俺はお前と違って手が早いから」
「なっ……!」
「まっ、そういうことだから邪魔すんなよ」
そう言ってヒラヒラ手を振ってバンガローに戻っていく啓吾に、やはり龍は真っ赤になるのだった。
そして明日の生気を養うためと今日は早くベッドの中に入っていた紗枝は、突然感じた重みに起こされた。
何だと思えば俯せになって啓吾の半身が彼女の上に乗り、片腕は遠慮なく胸部に乗っている。
多少起こされたことに不機嫌になりそうだったが、自分に体重をかけてくる青年の空気がいつもと少し違うことに気付く。その表情は見せてくれないが……
「……何よ」
「夜ばい」
「……実際のところは?」
「甘えに来た」
そういいながらも自分の頭を撫でてくれる手が優しい。きっとこいつは人に甘えたことなんてないんだろうなと紗枝は思う。
「……龍ちゃんに話したの?」
「ああ。相変わらず全部あっさり受け入れやがった」
「龍ちゃんだからね」
「その程度の問題でもないってのに……」
「仕方ないわよ。いい男なんだから」
「全くだ……」
啓吾は苦笑する。本当に空みたいにでかい男だなと思わされて仕方ない。
そして啓吾は紗枝に顔を向けた。笑ってはいるが、何となく悲しい顔だと思う。
「紗枝……」
「なに?」
「お前、俺のこと好きか?」
尋ねられた問いに少し胸は締め付けられる。切ない痛みだと思うが、紗枝は彼女らしく返した。
「……何て言ってほしい?」
「そりゃまあ……」
「それは言わないわよ」
「へいへい、相変わらず勘の鋭い」
すぐにいつものやり取りに戻るが、俯せになって髪を撫でてくる手も、頬に擦り寄せてくる頭も、そして半分しかかけてこない体の重みも……全て不器用な啓吾そのものだ。
それに紗枝はくすくすと笑った。
「でも、甘えてくる啓吾って不器用で可愛いわね」
「か、可愛い!?」
「ええ、滅多に見れそうにないし、なんか啓吾の弱み握ったみたいで楽しいわよ?」
何だよと睨み付けてくる顔に紗枝はまたくすくす笑う。少し拗ねているような表情も可愛いなんて言ったらきっと怒るのだろうなと思って。
「まっ、こんな啓吾、秀ちゃん達に話したくなるわよね〜」
「おい……お前脅す気かよ……」
「そりゃね。美味しい思いはしたいし?」
いたずらな笑顔はやはり彼女らしい。
「あっ、でも私って甘えられるのも結構好きなのよね〜。純ちゃんと夢華ちゃんに迫って来られたら嫌だって言えないもの」
あの二人は本当に可愛いものね〜と告げると、耳元で溜息を聞いて啓吾の顔が至近距離に近づいて来た。
思わず声を失う。
「……少しぐらい余裕なくなれ」
「えっ?」
あっという間に呼吸は奪われる。もう何度目のキスなんだろうと冷静に思う自分と、頭の奥がじんと痺れて流されてしまえと思う自分がいる。
そしてそっと唇は離れると、互いの視線は絡まって思考が熱を帯びてくる。
「……啓、吾?」
「紗枝、余裕ねぇからもう一度しか聞かねぇ。お前は俺が好きか?」
色っぽい表情に囚われる。もう分かってるのでしょうと言ってやりたいが、少し視線を外して彼女は小声で答えた。
「……逃がしてくれない癖に」
「ん?」
「悔しいから言いたくないって言ったの!」
それに啓吾は目を丸くすると、笑いを必死に堪えて苦しそうに体を震わせる。きっと真っ赤になってるのだろうと、自分の頬に熱を感じながら紗枝は抗議した。
「……何よ!」
「ああ、悪い! だけどお前可愛いわ!」
「啓吾に言われるとムカつく!」
「仕方ないだろ、そう思わせるんだからな! あ〜、やっぱお前いい女だ!」
そう言って声をあげて笑い始める啓吾を悔しいと思いながら、ポカリと一発殴るが止まりそうにない。
そして、それにだんだん腹が立って来てもう知らないとそっぽを向こうとした瞬間、それをさせないと頬を固定されて先ほどより深い口付けが落とされる。
まるでもう逃さないと、今度は彼女の全てを奪おうとするようなキスだ……
それが離れると彼女は痺れた感覚を覚えながらも名を呼ぼうとする。
「……啓」
「もう黙れ……そして降参しろ……」
視線も、呼吸も、鼓動も、そして身体に感じる重みも……
欲しくなる痛みがあって、それが切なくて愛おしくなる……
優しい月明かりと夜風が部屋の中に入り込んだ……
だあ〜っ!!
書きたくなって書いた結果がこんな話に!!
まあ、啓吾兄さんは手が早いって自分で言ってましたからね、うん(笑)
とりあえず、龍に謝罪してすっきりしたようです。
やっぱり自分のことでGODが関わって来たのは気にしてた模様。
でも、龍はあっさり受け入れてますが。
そんなことより秀達の方が気苦労の種とは……
悪の総大将は大変です(笑)
そして啓吾兄さんと紗枝さん……
甘い……んだよね、多分(笑)
18禁になればもう少し踏み込めそうですが、生憎書けないので(笑)
まあ、もう少し切なく甘い恋愛話も書けるようになりたいですね。
なんせ必ずコントが絡むので、この小説(笑)