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天空記  作者: 緒俐
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第百八十一話:天を従える王

 天空記に次の一節がある。


『東の天を治める太子、重力を操り全ての天を従える王となる。その姿全てを圧倒し他者を引き付ける。そして天界を無に帰す力を有す』と……



 仮面男を倒すように命じられた桜姫はすっと主の前に立つ。青い装束を身につけ、彼女を取り巻く花びらは仮面男の出方を待っていた。


「桜姫、この現代で神に救われた恩を仇で返すつもりか?」


 そう尋ねてくる仮面男に桜姫は少し表情を曇らせる。彼女は天空王が覚醒したにも関わらず、意識を二百代前に全部引っ張られているわけではなかった。

 目の色が普段と変わっているわけではないことからそのことが読み取れる。


「……あなたのおっしゃるとおり、私をこの現代で救ったのは神様に違いありません。ですが記憶が戻った今、神様を我が主と呼ぶわけには参りません。

 二百代前も現代も、私が膝を折るべき主は天空王様なのですから……」


 天空記を読み返すたびにいつも最後の天の覚醒を求めずにはいられなかった。


 なぜ自分がこの現代にこんな力を持って生まれて来たのか、そして敵だと教えられている天空王がどうしてこのような力を与えたのか、記憶にもやがかかっていて答えは見つからなかった。


 しかし、天空王が覚醒した瞬間、脳裏に響いたのだ。『我が声に応えよ、お前の立つべき場所はここにある』と……


「そうか……、ならば二百代前と同じようにまた天空王を殺す人形となるがいい!」


 刃を振り下ろして来た仮面男の攻撃を無数の花びらが受けて弾く!


「我が主の前で二度とそのような罪は重ねはしません。そしてこの現代でも神様、いえ、神の操り人形と化しているあなたをここで……!」


 花びらが仮面男に襲い掛かる! 天空王が与えた力は彼が覚醒したと同時にいつも以上の鋭さを持っていた。これが二百代前、天空王の従者だった桜姫の力かと仮面男は舌打ちする。


「欝陶しき花よ……!」


 仮面男は神通力を刃に纏わせて花びらを塵へと変えた。そして桜姫に斬り掛かり、彼女は再度無数の花びらで刃を受ける。


「二百代前のように神の人形のままでいればよかったものの……!」

「ただ天空王様を憎んでいるために人形と化している悪鬼に、これ以上主の心を痛めさせるわけには参りません!」


 桜姫はさらに力を上げて仮面男の刃を押し返し、それに仮面男はぐらつく。


 しかし、その戦いをただ悠然と見ている天空王に気付いて仮面男は苛つき始めた。


 幾度生まれ変わっても沙南姫を守れずに苦しんでいた男が天空王に覚醒した途端、まるで自分を見下している感覚にさせるのだから……


「たかが一民族の王が……!!」


 突如、仮面男は桜姫を猛スピードで横切り、力を増幅させて天空王に突っ込んでいった!!


「貴様は何度も自分の無力さを痛感しろ!! 天界を滅ぼした罪を永劫償え!!」


 まるで狂気に満ちた叫びを上げて天空王に刃を振り下ろすが、その刹那、桜姫は仮面男を花びらで切り刻んだ!


「なっ……!」

「……散りなさい」

「うわああああ!!!」


 花びらが仮面男を包み込むと、その姿は上空から消え去った……



 一方、森の中から覚醒した主を啓星は柔らかな表情で見上げる。いつの時代も自分を惹き付けてやまない青年の姿は、相変わらず凛として絶対的な風格を醸し出している。

 纏った青き衣も、全てを見据えているだろう黄金の目も、ただ他者を圧倒するばかりだ。


「とりあえず上空は片付いたか。それより……」


 啓星はふわりと重力を操ると、紗枝を自分の元に引き寄せた。そして彼女は目元に涙を溜める。二百代ぶりに出会えた思いが込み上げて溢れ出してくるのだ。


「啓星……、やっと……」

「相変わらず俺が傍にいるとお前はボロボロになってるな……」


 三國につけられた裂傷の数が痛々しい。しかし、紗枝は首を横に振った。どれだけ傷付いてもまた巡り逢えたことが嬉しいと思う気持ちの方が遥かに強かった。


「だが、二百代の時を経たんだ。もうそれは終わらせる」


 そして、啓星は未だ天空王の重力の枷に縛られている三國を見下ろした。


「啓星……!!」

「お前に最終章の参戦権は与えない。二百代前と同じように俺が葬り去る」


 怒りに満ちた目がさらに青く光り、啓星は相手の呼吸を奪うほどの重力をかけた!


「かっ……!!」

「二百代前も現代もお前は俺の大切な者を奪おうとしただけでなく、俺の主から沙南姫まで奪おうとした。いまここで、全ての罪を主の前で償ってもらう」


 三國の体は地面の中に埋まり始めた。二百代前、三國は啓星の重力に押し潰されて死んだのだ。それをもう一度再現することに啓星は何の躊躇いもない。


「くっ……!!」


 さらに体が埋まり始めた時、上空から天空王が急降下してきて桜姫もその後ろに控える。


「啓星、そこまでだ」


 何故だと問いたいが、その前に膝を付くことを余儀なくされた。この現代で殺すことは許さないとその目が語っていたからだ。


 そして、天空王は倒れている三國を見下ろし問う。


「聞きたいことがある。主上はどこにいる」


 啓星と桜姫はぴくりと眉を顰めた。まだ自分達を滅ぼそうとしたものを主上と呼ぶのかと言いたげな顔だ。


「……!! また二百代前と同じようにこの世界の創造主を敵に回すつもりか……!!」

「否、敵に回すのは主上だけではない。敵に回すべき存在は主上もお前達も人形として操っている悪神だ。

 そして二百代前、紗枝殿の力を奪うように命じ、桜姫を殺戮の人形に変え、天界全ての民族を戦いへと誘い」

「君の前で沙南姫を殺した」


 聞こえて来た声に啓星と桜姫は天空王と紗枝の前に立つ。


 天空王達の前に現れたのは、日本で秀達と遭遇していた神だった。


「神様……」

「三國、もう戻ってて構わないよ。今こちらに向かって来てる天空太子達まで出て来たら無駄死にしてしまうだろうしね」


 そう言ってパチンと指を鳴らすと三國はその場所から消える。


「さて、桜姫がそちらにいるということは記憶が戻ってしまったのか。君が仕えてくれた事でこの現代でも結構楽しめたんだけどな」

「っつ……!!」


 桜姫の顔が苦渋に歪む。記憶がなかったにしても、神を主だと思い動いて来たのは事実だったから……


「だけど一応聞いておこうかな。君は二百代前と同じように天空記の最終章を迎えるかい? それとも今度は天空王の従者として戦ってみるかい?」


 楽しそうに尋ねてくる神に桜姫は見えない力に押し潰されそうになる。しかし、そんな彼女を庇うかのように天空王は前に進み出た。


「桜姫は私の従者だ。二百代前と同じ運命を辿らせないのが主の役目だ。そして」


 次の瞬間、火と風と水の力が神に襲い掛かり、神は上空に飛び上がって口笛を吹いた。


「逃がさん!」


 天空王が刃を抜くと神は見えない力でそれを受ける!


「危ないなぁ、天空王。それに天空太子達も思ってた以上に早く来たみたいだね」


 神は微笑を浮かべて一旦天空王から距離をとった。そして、自分に敵意を向けてくる者達にまるで歓迎するかのように告げる。


「四つの天が目覚めたこと心より嬉しく思うよ。ついに天空記最終章が幕を開ける」

「幕を開けるんじゃない。今この場で俺は全てを終わらせる」


 空が動き始める。全ての天を従える王だからこそ空は応える。


「……まずいな、予想以上に天は主が目覚めたことを歓迎してるのか」


 そう呟きながらも神は口元に笑みを浮かべた。


「無に帰せ、悪神よ……」


 そう低い声で天空王は告げると、空が神を飲み込むのだった……




さあ、次で第四章も最終になりそうです。


そして一応整理しておきましょう。

桜姫は二百代前、敵に捕まった後神の操られて殺戮の人形になってしまったとのこと。天空王が彼女を殺したのはそのためです。


さらに現代で記憶がなかった桜姫は神に仕えていた模様。

それは今までの話でお分かりのように、ちらほら桜姫は出てきましたからね。

でも、天空王が覚醒して封じられていた記憶が戻ったようです。


だけどそんな敵の神は、天空王が「主上」と呼んでいる世界の創造主を操っているとのことですが……?

それは第五章で明らかになりますので待っててください。


さあ、弟達も合流して天空王も空を落とすというような凄技を神にしているわけですが……


一体結末はどうなるのかな??




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