第百八十話:天を翔るもの
アメリカへ向かうテロリスト一行はGODに関する情報を集めつつ、そして土屋の事情聴取を聞いていたが、何故こんなに相手に同情の念を抱いてしまうのかと思う。
「土屋の兄ちゃんって優しい顔して結構言ってること拷問だよな……」
「そりゃな……というよりこの歳で警視やってるんだ。あいつが取り調べた後はどんな凶悪犯でも全て吐いてるらしいぞ……」
「兄貴達とどっちが性質悪いのかなぁ?」
「翔君、いくら俺でも龍や秀君みたいに生きる気力を奪ったり、生まれたことすら後悔させるほどひどくはないぞ?」
確かに言われたらそうなのだろうが……しかし、楢原首相がぐったりしているのは確かである。
「まっ、とりあえず有効利用させてもらうよ。GODの力は少しでも削っておかないと俺達みたいな一般人は困るからね」
宮岡の発言に一行は納得するが、今日一日でどれだけの罪状を作ったか分からないテロリスト達に、一般人という言葉が当て嵌まるかは微妙なところである。
「それよりアメリカにはあとどれくらいで着くんだ?」
「数時間ってとこだね。何もなければ」
「何もなければってよ、不吉なこと言うんじゃねぇよ、淳」
「お前がいる時点で世界中の不吉がよって来てるんだ。変なもの呼び込んだらジェット機から飛び降りてもらうからな」
「淳行、だったら呼び寄せる前に飛んでもらったらどうだ? どんな死に方をしても世界中の女性に感謝されるぞ」
「そろもそうだな」
「納得すんな! そして笑うな高校生ども!」
実に賑やかになったところで末っ子組は二人同時に目が覚める。相変わらずこんなところまで一緒なんだなと紫月は優しく微笑んだ。
「夢華、純君、おはようございます」
「う……ん……紫月……姉…さま?」
どうやら夢華は二百代前の夢を見ていたらしい。現実と夢の区別が付かなくなることは紫月にもあるため、彼女はクスリと笑った。
「夢華、現代に戻って来て下さい。ここはジェット機の中ですよ」
「……紫月、お姉……ちゃん?」
「はい、おはようございます」
どうやら夢華の感覚は戻って来たようだ。眠たそうな眼を擦ると、紫月は彼女に紙パックのりんごジュースを差し出した。当然、闇の女帝が夢華のためにと用意させたものである。
「純、お前も現代に戻ってこい」
虚ろな目をしてる純も感覚が二百代前なのは確か。ぴとりと頬に冷たい紙パックを当てるが、全く反応がない。
「ん? まだ寝ぼけてんのか?」
「純君?」
一体どうしたのだと高校生組が純の顔を覗き込んだ瞬間、機体が大きく揺れてバランスを崩した!
「きゃっ!」
「あぶねぇ!」
危うくひじ掛けに後頭部を打ちそうだった紫月を翔は引き寄せてた。
「一体なんだよ、エンジントラブルか!?」
森と土屋はすぐに操縦室に行くと、目の前に群がっている化け物の数々に目を見開いた。
「君達、一体あれは何なんだね!」
「モンスター以外に何て答えりゃ良いんだよ」
機長の問いに森は即答した。ジェット機のおかげでスピードは断然こちらが速いものの、化け物の群れを全てかわすとなると相当厳しい。
すると数体の化け物がこちらに向かって来て体当たりしてまた機体を揺らす。
「くっ……!!」
さすがは最新型なのか機体に破損がないことだけは幸いだった。しかし、このまま攻撃されては危険に違いない。
「おい、操縦替われ!」
「何だと!?」
「いいからどけ!」
機長を無理矢理どかして森は操縦席に座ると、いつものふざけた表情が消えてジェット機を華麗なテクニックで操り始めた!
「なっ……!」
ベテランの機長ですらその操縦技術に言葉を失う。型破りな操縦なのはいつものことなのだが、どの道を通るのが最善なのかを見極める力と化け物を避ける動態視力は並ではない。
「ったく……! これだからこいつの操縦するジェットに乗りたくないんだよ……! 揺れも視界も半端じゃないんだからな……!」
この場合仕方がないとは分かっているが、悪態を突きたくなるのは森だからこそだ。
そして客室では揺れの性で眠っていたものは目を覚ました。
「ちょっと! 一体何なのこれ!?」
「森の操縦だ! だが周りは化け物だらけだからな、我慢してくれ!」
「我慢しろって……! おい、純! 立つんじゃない!」
虚ろな目をして純は立ち上がろうとするのを翔が止める。しかし、それでも純は翔の拘束を解いて動こうとする。
「おい! 本当にどうしちまったんだよ、純!」
「……!! 龍……兄、上が……!!」
「何だよ! 龍兄貴がどうし……!」
翔も言葉を失う。感じ始めたのだ、天空王の覚醒と自分達を呼ぶ声を……
「……この感じ、兄さんも覚醒したみたいですね……」
「うん、それに桜姫もいる……」
「桜姫?」
「忘れちゃったの? 天空王様にはお兄ちゃんと桜姫が仕えてたんだよ?」
夢華の記憶はだいぶクリアになっているようだ。天空王の傍らには常に啓星がいた。だが、影で天空王を守る従者が桜姫だった。花のように美しく強い天空王のもう一人の従者……
「ねぇ、だったら龍さんは……!」
「大丈夫ですよ、沙南ちゃん」
隣室で休んでいた秀は非常にすっきりした顔で客室に入って来た。その後ろに柳も続くが、どうやら彼女も夢をみていたのだろう、少し現実をさ迷っている感じがある。
「兄さんは天空王に覚醒していますが、僕達と違ってまだ理性が残っているのは確かです。この現代を滅ぼすことはない。ですが……」
秀は感じていた。この先にいるものの危険性を……おそらくそいつが最大の黒幕だということも……
「……行って」
「えっ?」
「龍さんの所に行ってあげて。秀さん達を呼んでるのでしょう?」
沙南の言葉に秀達は戸惑うが、沙南は強く言い放った。
「私のことは気にせずに行って! ここは現代なんだからまたすぐに会える。それに行かなくちゃいけないのでしょう?」
だから足枷にはなりたくない。天を統べる者達を縛ることより、自由に翔けて欲しいと願っていた。
それは二百代前も今も変わりはしない……
「翔君、行ってください。私はここに残って沙南さんを守りますから」
「だけど……」
「行きなさい! 突撃隊長が活路を開いてくれなければ困るんです! このジェット機が落ちたら翔君の性にしますよ!」
「なっ……! そりゃ言い掛かりにもほどがあるだろ!」
「だったらさっさと行きなさい! 必ず合流しますから」
心配無用という表情を向けてくる紫月に翔は決断した。紫月がいればきっとまた会えると思うから……
「分かった。んじゃ、合流したらうまいもの食わせてくれよ!」
「翔君の働き次第ですね」
「オウ! だったらご馳走間違いなしだ!」
にっと翔は笑みを浮かべた。
「翔お兄ちゃん」
「何だ、夢華」
「純君に頑張れって伝えてくれる?」
「ああ。まっ、夢華の声は届いてそうだけどな」
未だに意識が虚でも、何と無く夢華の声を純は聞いてる気がした。
「柳さん、沙南ちゃんのことよろしくお願いします」
「はい、安心していって来て下さい」
柳がふわりと微笑むと秀は額に口づけを一つ落とす。その反応は相変わらずすぐに頬を赤く染めてしまうが、いつものようにパニックにならないのは沙南を守らなければならない使命と、夢の感覚が抜け切れてない性だろう。
「沙南ちゃん、必ず兄さんと君を会わせますから、もう泣かないで待っていてくださいね」
「うん、よろしくね。いってらっしゃい!」
「いってきます!」
そして秀達はジェット機の扉を開けて天へと飛び出した!
……火、風、水の力が天を翔る。
天空太子達は天空王の元へと急ぐのだった……
はい、秀達は一足早く龍の元へ向かいます!
一体何が待ち受けているのか、第四章もクライマックスが近づいてきました!
そして相変わらずコントのような会話しかしていない一行。
少なくとも暫くの間は翔君と紫月ちゃんの応酬はおあずけです。
おまけに秀さんと柳ちゃんのラブラブっぷりも、末っ子組の仲の良さも見れないのか……
それがない天空記って一体どうなるんだろう……?
いや、でも恋愛面は啓吾兄さんが復活したから紗枝さんを口説くのかな??
それとも返り討ちに……
はい、次回こそ龍の活躍を書きましょう。