表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空記  作者: 緒俐
179/301

第百七十九話:従者

 洋館の中の空間が歪んでいた。その歪みを作っているのは二百代前、天空王と言われていた青年だ。


「最後の天、何故に覚醒を拒む」


 龍と対峙していた仮面を被った男はそう呟く。しかし、意識が現代にない龍がその問いに答えはしなかった。

 せめて近づければとも思うが、仮面男は完全に龍が支配する空間に体の自由を奪われており、さらには力まで押さえ付けられている。


「覚醒せよ、天空王。あの天を無に帰した力こそ、私が求めるもの……」



 そして意識のない龍は夢の中を漂っていた。二百代前、自分は平穏な時を好み、親しき者達と過ごせることが幸せだった。家族がいて、友人達がいて、愛しきものが笑ってくれて、それから……


「天空王様、浮かない顔をしていかがなさったのですか?」


 ふわりと薫る花の香とともに、青い衣と羽衣を身に纏う彼の従者が綺麗な笑みを浮かべて執務室に入って来た。


「……ああ、少し考え事をしていた。だが、気にしなくて構わないよ」


 そう言って笑う天空王の机の上に香草茶を差し出すのが彼女の役目だ。むろん、天空王の従者ともなればそれ以外にも大きな役目も多いが……


「あまりご無理をなさらないで下さい。主が悩んでいらっしゃると、秀太子や啓星様がその原因を探るためにどんな些細な事でも排除しに赴いてしまうのですから」

「ハハッ、確かにそれじゃあお前の仕事を増やしてしまうな」


 そして天空王は香草茶に口を付けるとほっと一息つく。沙南姫が訪れてくれるときは彼女のいれてくれる茶や料理に舌鼓を打ってはいるが、執務中には彼の従者がいれてくれる茶が気分を柔けてくれる。


 たまに彼の右腕である啓星がいれてくれるが、冗談なのか本気なのか酒が出て来るのでこの役目は目の前の従者に任せるのが一番だと天空王は思っていた。


「その件なのですが……主、私をしばらく主の従者の任から解いていただけないでしょうか?」

「どうしてだ?」

「敵地へ潜入するためです」


 真摯な目を向けてくる従者に天空王は眉を顰めた。


「やがてこの天界は間違いなく大きく荒れるに違いありません。実質、沙南姫様や紗枝様の力を狙うものはもちろんのこと、天空族を滅亡させようと暗躍する者達がここしばらく後を絶ちません。

 ですからその前にこの争いの源を根絶させるべきだと思います」


 そして彼の従者は膝を折り、手を合わせて頭を下げた。


「我が主、どうか私に御命令を。必ずやこの争いの災厄を暴き、そして主が守りたいものを命にかけてもお守り致します」

「ならぬ。そのような危険な任を大事な従者に就かせるわけにはいかぬ。

 今回の件はもっと慎重に動くべきだと思っている。お前まで」

「我が主、私の存在意義は主を守ることです。主にこの名と力を与えられ、主が私に居場所を与えてくれた。だからこそ主の役に立ちたい」


 何もなかった自分を救ってくれた。空っぽだった自分の世界をたった一つの空が生きる意味を教えてくれたのだ。


「天空王様、あなたに膝を折らせることを嫌う気持ちは私も啓星様と一緒です。天を統べる王が前を向いてくれるからこそ、私は主の従者でいられることを誇りに思います」


 そして花びらが彼女を包み込むと、彼女は青を基調とした装束に身を包んだ。それは戦場に出るときの正装。

 従者である彼女がそれを身につけたということは、それだけ強い意志をもって願い出てるということ。否定すれば、その場で自害する覚悟も彼女が持っていることは明らか。


 もう、止めることは出来ない……


 天空王は彼の従者に命じることしか出来なくなった。


「……天空王の名において命じる! 天空族を脅かす元凶を洗い出しそれを廃絶せよ!」

「はっ!」

「そして……!」


 天空王は彼の従者に酷く心配の色を帯びた表情を向けた。


「必ず戻れ、死ぬんじゃないぞ、−−!」


 自分の名を言ってくれた主に彼の従者は微笑んだ。


「はい、我が主」


 それが天空王にとって大きな後悔へと変わった……



 そして夢の場面が変わり、あの最後の戦場に天空王は敵に捕われた従者を助けたが、彼女は瀕死状態で天空王に詫びた。


「……申し…訳、ご、ざい…ませ…ん、主」

「すぐに治療する! 死ぬんじゃないぞ!」

「なり、ま…せ!!」


 彼女は天空王の装束を赤く染めていく。死にかけているのに自分の血で主の装束を赤く染めることを彼女は気にしていた。


「主、私を……殺し…奴を……!」

「しゃべるんじゃない! 従者一人救えぬような王が天を統べる資格などない!」

「主……!!」


 彼女は天空王の袖をぐっと掴んだ!


「あな、た……は、王で……しょ? 戦い……なさい!!」


 「あなたが本当に守らなければならないものは分かってるでしょう?」と、彼の従者は訴えてくる。


「出来ぬ! お前は主に従者を殺せというのか!」

「我が、主……なら、ば……この…記、憶を……封じ……て……」

「記憶を……?」

「……また、来…世、で……会え、ますか……ら」


 そう言って彼の従者は微笑む。また次の世で会えるなら、こんな辛い過去をなかったかのように封じてくれたらいいと、それで自分は救われるのだと……


「主……お願、い……もう……時間が!!」


 腕の中で彼の従者の力が再び膨れ上がってくる。体に激痛が走り始めたのだろう、彼女は苦悶に満ちた表情を浮かべた!


「天空王様!!」


 そう叫んだ次の瞬間だった。赤い花びらが戦場に舞い散る……


「あ……」


 目の前の視界が崩れていく。しかし、自分の主が涙を流してくれてることを感じる。彼女の命を終わらせてくれたのが、自分の主だったことに感謝する……


「……我が主、また……」


 ふわりと微笑んで彼女は散っていくと天空王はその場に膝を折る。


 だが、その一瞬を敵は見逃してはくれなかった。


「……天空王、その命を頂く」


 そして天空王は目にするのだ。自分を守るために飛び出し、刃に貫かれた沙南姫を……



「……また歪んだか」


 仮面を付けた男がそう呟いた瞬間、突如青い光りが洋館を包み込んだ!


「これは……!!」


 重力だけではない! 大気が、いや、天がこの目の前の青年に従い始めている! 仮面男は喜びに震え始めた。全てを無に帰した力が現代に蘇ろうとしている!


「目覚めよ! 最後の天! その力、我々が利用してくれる!!」


 仮面男は自分の力を全解放し龍を捕らえようと襲い掛かろうとしたその時!


「させません」


 龍の前に一人の女が飛び出しその力で仮面男を吹き飛ばす。


「……!! 何だと……!!」


 仮面男は目を見開いた。そして龍の体は強い光に包まれ覚醒する……!!



「……何故あの女が!!」


 森から上空を三國は見上げると信じられないというような表情を浮かべていた。だが、それに天空王の覚醒に引きずられた青年が答える。


「簡単なことだ。あいつは俺と同じ天空王の従者だったんだからな」

「……!! 啓星!!」


 ふわりと浮かび、微笑を浮かべて啓星は三國と対峙した。


「二百代の時を経てお前達が俺達に様々な雑念を抱いていたのとは別に、あいつは最後の天の覚醒を記憶がないにも関わらず強く望んでいた。

 それは私欲のためではない。天空王を守らなければならないと本能が告げていたんだ」


 そして啓星の視線の先にいる女は天空王の後ろで控え王の命を求める。


「主、御命令を」

「……目の前の悪鬼を任せられるか、桜姫」

「お任せを、我が主」


 天空王の後ろには二百代前の従者、桜姫が控えていたのだった。




何だこの妙な展開は!!

桜姫って敵じゃなかったのかとツッコミの嵐がきそうな……

はい、でも書いちゃったものは仕方ないので(笑)


まあ、今回の話のとおり桜姫は二百代前天空王の従者であり、

そして敵方に潜入していたとのこと。


しかし、最後の戦いで彼女は天空王に自分を殺すことと記憶を封じるように頼んだみたいです。

一体そこで何があったのかはまた詳しく書いていきますが……


だけど、自分の従者を殺してしまったことで天空王は戦意を失い、

そこを狙った敵から天空王を庇い、沙南が飛び出して来て刃に貫かれたとのこと。


さあ、このつづきはどうなるのか!?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ