第百七十八話:近付く覚醒
森が生気に満ち溢れる。木々が、花が、生を受けたものが女神の降臨によって喜びを表現するかのようにざわめき、そして笑う。
その現象を起こしている女神は、碧眼を倒れている青年に向けるとその表情に悲しみの色を浮かべた。
「……いつの時代も、どうして私の心を乱す? 乱されるのは嫌いなのに……」
二百代前、何度も自分の心を苛立たせ、喜びを与え、苦しみを教え、そして切ない思いを共有した。だからこそ彼女は思いを言の葉に乗せる。
「だけど、もう二百代前のようにすれ違いたくなんてない……」
生気を宿した優しい光が啓吾を包み込む。届けと、生きてほしいと願うこの思いが届くようにと、ただそう思う……
そしてそれを見ていた三國はポツリと呟いた。
「二百代経ってもその力も美しさも変わらないか……」
いや、寧ろ二百代前よりその力が増してさえいるように思える。自然界の力を奮い、生と死を与える力を持っていた女神を二百代前、まだ三國は抑える事が出来た記憶を持っている。
しかし、先程自分の神通力を掻き消した力から推測すれば、彼女はこの現代で覚醒したことによってまるで新たな力を手に入れたように思える。
「紗枝殿、二百代ぶりの覚醒はいかがなものか?」
「……消えよ」
「そうはいかない。この現代で天空王に復讐するためにも自然界の女神の力は必要だ。我々にその力を捧げよ」
「……誰に向かって命じている?」
「絶対的な存在となる私の命が聞けぬのなら、またあの屈辱を与えるだけだが?」
紗枝の表情が歪む。二百代前、この目の前にいる男に力を抑えられ、屈辱を受けて力を失った。
その性で啓星とすれ違い、さらにあの最後の戦いで天空王に助力出来ずに天界を無に帰させる結末を負わせてしまったのだ。
「……二度とあのような事は起こさせはしない。今この場でお前に死を与える!」
紗枝の碧眼が光り、森は暴れ出した! 木々や蔓が三國を捕らえようと伸縮し、葉や花びらが目くらましを起こし、鳥や虫が彼を傷つけようと勇敢に立ち向かう。
しかし、三國も神の力を持つ者なのかそう簡単に捕まりはしない。二百代前、自然界の女神の力を抑え込んだ張本人なのだから。
「やはり力は上がってるか。二百代も時が経てばその力は回復するとは思ってはいたが、何がここまで力を上げているのか……」
啓星が死んで暴走したというわけではない。地の利はあるにしても力が増すわけでもない。ならば原因は一体……
「神の名を語る愚か者よ、死へと向かえ……」
「それは遠慮させてもらう」
三國は神通力を体に纏うと、紗枝が与えようとしている死の力を押し返し始めた。
「くっ……!!」
「神の力は神の力によって相殺できる。だが、主上の力を手にする私と自然界の女神ではやはり差があるな」
「ふざけるな!! 神族を……!! 主上を唆し、天空王から沙南姫を奪おうとしたお前になど……!!」
「だが主上、いや、この世の創造主が天空王を危険視していたことは紗枝殿も知っていただろう? そうでなければ私もこの力を与えられることはなかった。
そして予感は見事に的中した。天空王は全てを滅ぼす力を秘めていたではないか!」
「きゃあ!!」
力を跳ね返され、紗枝はその肌に傷を付ける。しかし、やはり地の利がある性か重傷を負う前に多くの生から守られた。
「天を統べる王など存在してはならなかったんだ。そして太陽の姫君があの男に恋い焦がれなければ……!」
突如三國の目が光り紗枝は地に押さえ付けられる! そしてそんな女神を守ろうと森が彼女の盾になろうとするが、
「消え去れ!」
神通力によって生あるものはその力を失っていった。
「紗枝殿、二百代前、一友人だった私からの最後の情けだ。その力を我々に捧げよ。捧げなければ二度と生まれ変われぬようその存在を消し去る」
「……!!」
「さあ、捧げると誓え。そうすれば……」
その時、紗枝は微笑を浮かべた。感じるのだ。二百代前と同じ、いや、少し力の質は違うようだが……
「最後の天を願うものがいる……」
「何を……」
「知ってた? 天空王には二人の従者がいたこと……」
ぴくりと三國は眉を顰る。一体この女神は何を言いたいのかが分からない。
「知らないわよね。お前は天界が無に帰す最後の戦前、啓星に倒されたんだから……」
「黙れ!!」
神通力に押されて紗枝の体に裂傷が走り始めた!
「神の力を司る私を侮辱することは許さん! 私は絶対的な天界の主となる存在だった! 沙南姫さえ私の手に入れば主上すら飲み込めたんだ! そして我が一族が全てを手にできたというのに……!!」
「ううっ……!!」
さらに力が紗枝を襲う。しかし、それでも彼女は必死に抵抗した。ここで首を盾に振ることも負けることもしたくはなかったからだ。
だからこそ願った。我が意志を感じよ、傍にいるのなら応えよ、お前が願っていたのは天空王の覚醒か、それとも……!
「さあ、どうする自然界の女神よ! 我々にその力を捧げるのか、それとも……!」
その時だ! 三國の体を叩き付けるような重力が空間を支配する!
「くっ……! 啓星か……!?」
三國は啓吾に視線を向けるが未だに啓吾は意識すら取り戻していない。当然紗枝が発しているものでもない。
「……一体何だと!!」
周りが瞬間、青く光った。その光りの発信源は洋館。重力の枷から外れたものが無数浮いており、形を留められないものまでが出て来ている。
「この現象……まさか……!!」
三國は空を見上げるといつもより空を近く感じた。そんな感覚を抱かせる力を持つ者など彼が知る限り一人しかいない!
「見てるのでしょう……? 早く、気付きなさい……あなたの、本当の主に……」
最後の天は覚醒に近づく……
さあ、紗枝さんが自然界の女神として覚醒しました。
生死を司る凄い女神様ですが、神の力の差ということでまだ三國が強い模様。
ただし、そんな三國も二百代前は啓星に倒されたようで……
そしていよいよなんでしょう、
周りが重力がおかしくなってさらに空が近くなって来たということは……!!
はい、こんな盛り上がって来た場面を作ったということは悪の総大将の見せ場が近づいて来たということです!
さらに紗枝さんがいってたもう一人の従者、勘のいい人にはもう分かっていそうですよね(笑)
まあ、明日をお楽しみに☆