第百七十一話:爆破
神が消えたことによって一時オークション会場は静寂に包まれた。
「大丈夫? 沙南ちゃん」
「うん、だけど情けないな。ちょっと立てないかも?」
そう言って苦笑するが、神から告げられた二百代前の自分の最期を思い出そうとすると、どうしても震えが止まらなくて……
そんな沙南の傍に龍がいればまだ彼女も強くいられたのだろうが。
「だけど兄貴、一体何だったんだよあの神野郎」
「さあ? GODの中でもかなりの力を持ってるものだとは思いますが……」
「ん? 神なんて言ってたんだからボスキャラじゃないのか?」
森の問いはもっともだった。しかし、何故か神という男がトップに立っているようには思えなかったのである。
「とりあえずそれは後から話しましょう。どのみち面倒な置き土産してくれたんですからね」
観客席に目を向けると、さっきまで意識を失っていた者達が起き出した。しかし、目の焦点が定まってないのは明らか。こんな状態を昨日見た彼等は、今から何が起こるのか知っている。
「翔君、純君、紫月ちゃん、こいつらに遠慮はいりません。一撃で相手をたたきのめすつもりで攻撃してください」
「了解!」
「うん!」
「はい!」
三人は好戦的な笑みを浮かべた。遠慮せずに喧嘩出来ることは嬉しくて仕方ないのだ。
「柳さんと夢華ちゃんは沙南ちゃんを守ってあげてください」
「分かりました」
「任せて!」
二人はさっと沙南の前に立つ。こちらは一瞬の気も抜くつもりはないらしい。
「先輩方も手筈通り外部の敵をお願いします」
「ああ、任せとけ!」
森達はたっぷりと銃火器類を持ってステージ裏から外へ出た。
「では!」
それぞれが秀の声を合図に散る!
「おっらあああ!!」
「ぐはっ!!」
「うおっ!!」
いつもより速く、力強く、翔は真っ先にマフィア達の群れの中に突っ込んだ! まるで電光石火の如く、相手の首筋を叩き、腹部を蹴り飛ばし、足払いを掛けた後に後頭部に回し蹴りが決まる。
「雑魚は引っ込んでろ!」
「ぐわっ!」
頬をおもいっきり殴り付けられると、その男は会場の壁を突き破るほど飛ばされた!
「鬼さんこちら! あれ? ゾンビかな?」
純はそんな疑問を持ちながらも、いつもより強い力で相手を叩きのめしていく。翔と同じように身軽な動きが出来るので、観客席の椅子の上を軽々と飛んで移動し、その小さな体を捕まえようとする腕をするりとよけた。
「死ね……!」
「嫌だよ!」
後ろからナイフを振り下ろして来た怪しげな仮面を被ったものの手からナイフを弾くと、宙に高く飛んで脳天に踵落しを決めた。
「へへっ、兄さん達みたいなことやってみたかったんだ」
相変わらず無邪気な発言に龍がいたらあまり真似をしないようにと、一言ぐらい忠告が入っていたことだろう。
「さて、外部も少し気になりますから一気に片付けさせてもらいますよ」
とても本気を出しているように見えない秀は、相変わらず最悪な倒し方で敵を悶絶させていく。
ただし、龍に比べたらマシだと言ってのけるが。
「紫月ちゃん! この一帯に風を!」
「はい!」
そして彼女は風を放った後すぐに純を抱えて飛び上がった。秀の思惑は間違いなく……
「消え去りなさい……」
冷酷な一言の後、風に彼が放った火球が一気にオークション会場を半壊させるのだった……
そして突如会場が半分吹き飛んだので、外にいた森達は呆気に取られる。
「……おい、秀の奴この辺り一帯火の海にするつもりかよ」
「闇の女帝が後から消火活動に当たるといってたから問題ないんじゃないのか……」
それにしてもやり過ぎなのではと思うが……
「だけど今のでさらに集まってきやがったなぁ」
「そりゃそうだろ。土屋警視、こいつら全員逮捕したら何階級ぐらい昇進できるんだ?」
「警察庁に呼ばれるね」
「そりゃ大出世だ」
まあ、手錠がいくらあっても足りそうにはないがと心の中で土屋は呟く。
「おい、そこに沙南姫がいるんだろ? さっさとどけ」
「お前らこそどけ!」
そう告げて森は秀から預かっていた起爆装置のボタンを押した瞬間、辺りからこれでもかというぐらい無数の爆発が起こった!
「うわあ〜!!」
「み、水〜!!」
「まずい! 店が倒れてくるぞ!」
「うわあ〜!! こっちにくるなぁ!!」
周囲は一気に騒々しくなる。三人は森が押した起爆装置に視線を落とす。
「おい、さすがにこれを龍が知ったらまずいんじゃねぇか……」
「ああ、普通に爆弾テロだよな今の……」
「淳、捕まるのは俺か? それとも冷徹非道の参謀殿か?」
「……見なかったことにしてやるから絶対龍にはばらすな。じゃないと俺達が消される」
あの参謀に……と三人は思う。しかし、それでもまだ爆破を避けてこちらに近づいてくる者達がいるようだ。
「外部の人数は相当多いみたいですね」
ビクリと三人は反応すると、ニッコリ笑った秀が森の手から起爆装置を取り、証拠隠滅とそれを手でバラバラに砕いた。
「おお……中は片付いたのか?」
「ええ、軽くね。それより翔君、ちょっと下りていらっしゃい」
「このバカ兄! 俺まで爆発に巻き込んで殺す気か!」
秀が起こした爆発をかろうじてよけた翔は、オークション会場の崩れかけた屋根の上から飛び降りるなり秀に抗議する。
「すみません、翔君ならよけられると思ってましたからね。それより、はい」
秀は翔にいかにも怪しげな起爆装置のボタンを渡した。
「何だこれ」
「押してください」
「ああ」
言われるがまま翔は押すと、豪快な爆音と共にピンク色の煙が至る所から噴き出した! しかし、今度は絶叫する者達の声は聞こえてこない。
「……おい、今のって」
「ああ、心配しないでください。闇の女帝が今爆発した近辺に住むものは避難させてますから」
「いや、でも今のって……」
「大丈夫ですよ。ちょっと僕が調合しておいた薬が爆発しただけですから。人体に障害が残るようなものではありませんし、死に至るものでもありませんから」
「じゃあ何で俺に押させたんだよ!」
「兄さんに怒られるのが嫌だからですよ」
「平然と言ってんじゃねぇよ!」
龍に怒られるということは死に至らなくともそれなりの代物ということなのだろう。どんな効果なのかは敢えて聞くのをやめておくことにした。
「さて、とりあえず今のでだいぶ数は減らせたでしょうからね。後は首相を捕らえてテロリストらしい事でもしましょうか」
『まだやるのか……!?』
三人の男達は心の底からそう突っ込むが、翔はまだ暴れ足りない性かキラキラした表情に変わった。
「えっ! 何やるんだ!」
「翔君、目を輝かせないで下さい」
中にいた紫月達も外に出て来た。純に沙南がおぶわれているのを見れば、彼女はまだ本調子というわけではないようだ。
「沙南ちゃん」
「少し休めば動けるから闇の女帝のところで休んでろ何て言ったら秀さんのご飯作ってあげないからね!」
そう一息で言い切る主に秀は苦笑した。さすがは自分の意見など御見通しである。
「ハハッ、それは困りますね。ですがもうここまで来たら置いていくわけにはいかないんですよ。
なんせ今から僕達は首相を利用してアメリカに行くんですからね」
「利用するって……うちのプライベート機使えば首相を締め上げるだけでも」
「だったら最初からそうしてますよ。でも森さんも気になってるでしょう? 十年前に僕達の父と森さんのお母さんが事故で殺された真相」
全員がその一言で何も言えなくなる。
「兄さん達は何も教えてくれる気がないなら自分達でその答えを得るまで。全てはっきりさせにいきましょう」
そして一行は真相にたどり着く道をいく……
爆弾テロ……
まさか本気でやるとは……
いや、もう、秀……
一体あなたはどこまで黒いんですか……
でも日本勢もいよいよアメリカに出発できそうな感じになってきました。
あと数話ぐらいかな?
そして十年前、天宮家の父と紗枝さんのお母さんが亡くなった事件の裏側を秀達も知ることになりそうです。
今まで分かってることは、紗枝さんのお父さんを狙って二人が巻き込まれたとの事ですが……?
さあ、天空記はどんどん盛り上がっていきますよ!