第百六十九話:人間オークション会場乗っ取り
闇の闇、人間オークション会場控室。そこにいかにも怪しげな売人達が三人、美しい姫を連れて尋ねてくると、そこの責任者が目を輝かせて出て来た。
「おおっ! まさかその娘は……!」
「お目が高いな、旦那! 多くの権力者達が狙ってる沙南姫様だ!」
まさに二百代前と同じ恰好をしている沙南は、姫と呼ぶに相応しかった。秀が言ったようにおしとやかにするのも大変ねと、そう心の中で苦笑する。
「やはりそうか、よく連れて来てくれた! この娘なら億単位は下らないよ! なんせGODが必ず名乗りを上げてくるに違いないからね!」
沙南はピクリと反応する。どうやら自分はGODに狙われているのかと思う。ただ、二百代前は天空王と親しかったからだとは思うが……
「そうか、だったら前金を出しな。一億ぐらいあるだろう?」
「ああ、分かってるよ。ちょっと待っててくれ」
責任者はニッコリ微笑んで奥の部屋に入ると、いかにもマフィア風情の用心棒が売人達に銃を向けて来た。
「おいおい、何の真似だ?」
「分かるだろう? 沙南姫だけにしか用はないんだ。お前達には死んでもらうよ」
どうやら売人達に渡す金などなく全ての利益を奪う気らしい。まあ、上玉を連れ来たのが名も無き売人なら仕方がないだろうが。
「はっ、さすがは闇の闇。陰険だな」
「何とでも言え。どうせ死ぬんだからな」
次の瞬間、マフィア達は一瞬のうちに悶絶させられる。
「なっ!」
後ろを振り返った責任者も首筋を打たれて気絶した。
「さて、こんなもんか」
「十分ですよ。それにしても、人間オークション会場の主催者は弱いみたいですね」
やったのはもちろん天下無敵の三男坊殿である。
「さすが腕白小僧、絶妙なタイミングだな!」
「森兄ちゃん達も見事な演技だったよな!」
笑いながら言う翔に森達は少し微妙な表情を浮かべながらも、なんだかんだで楽しんではいるらしい。
「それで、末っ子組と柳君は?」
「ああ、多分もうすぐ戻ってくると思うが」
「翔兄さん!」
会場の外から末っ子組と柳が戻って来た。その表情から秀に与えられた任務を見事に遂行したらしい。
「おお、戻って来たか。そっちはどうだったんだ?」
「うん、変な人達がいたんだけどやっつけちゃった!」
「よしよし、さすが俺の弟だ。って、誰も怪我してねぇよな?」
「大丈夫だよ、柳お姉ちゃんは僕と夢華ちゃんで守ったんだから」
「うん! だって秀お兄ちゃんが傍にいないもんね!」
末っ子組は話がわかるなぁと翔はしみじみ思う。そして柳は二人にニッコリ笑って礼を述べた。
「さて、とりあえず主催者側を乗っ取ったんだからあとは乱闘騒ぎか」
「こら、秀君の作戦全て無視するんじゃない。こちらは沙南姫様がこのオークションに出て来るって情報を流して楢原とGODの重鎮をあぶり出さなきゃならないんだ。
それにあくまでもここは闇の闇だと言われてるんだからな、天宮兄弟レベルの化物が出てこないなんて言い切れないんだからな」
「そりゃゴメンだな」
特に龍と互角なんて化物だけは勘弁してほしいと思う。
そんな大人達の会話から少し離れて、紫月は部屋の中の書類を物色して読み耽っていた。
「何見てんだ、紫月」
「商品にされた人達のリストですよ。どうせやるなら徹底的に相手を叩いてやりたいでしょう?」
「あったり前!」
何なら今すぐにでも解放しに行きたいという表情を翔は浮かべている。
「そこでなんですけど、姉さん、本当に申し訳ないんですが姉さんもオークションに参加していただけませんか?」
「ちょっと待て、紫月! そんなことしたら秀兄貴が」
「もちろん反対ですよ」
「兄貴! もう片付いたのか!?」
一人でいろいろな作戦を遂行する秀が予定時間より早く一行に合流した。
「ええ、闇の闇といっても、雑魚は所詮雑魚ですからね。ちょっと協力を頼んだら快く働いてくれましたよ」
彼の性格を知るものはぞっとした。おそらく彼のことだ、見事な脅迫という名の交渉をしたのだろう。
「それで紫月ちゃん、沙南ちゃんだけでもGODは引き付けられるかと思いますが、何故に柳さんまで?」
「ええ、これを見てください」
秀は紫月から書類を受け取るとみるみるうちに眉間にシワが寄ったかと思えば、なるほどなと紫月が提案した理由をさとる。
「はああ〜柳さんは僕のものだというのに……」
「えっ?」
いきなり何を言い出すんだと思えば、秀は柳をぎゅっと抱きしめた。
「ちょっと、秀さん!?」
「全く、二百代前は沙南姫様と柳泉の人気が相当高かったようですね。どこもかしこもお二人に惹かれるようで……」
「えっと、その……」
一体どういうことなのかと柳が秀を見上げると、彼はいかにも肩の荷がおりたような顔をしていた。
「はい、どうやら僕が考えてた以上に今回のオークションは単純なものだったということですよ」
「えっ?」
いまいち話が見えてこない。だが、次の一言で一行はさらに混乱する。
「簡単に言うと、これから集まる客全てがGODということです」
「はあっ!?」
「おいおい、そりゃどういうことだ!?」
世界中のトップクラスの権力者やらマフィアやらが集まるのに、それがGODという組織だとはとても思えない。
もちろん彼等とGODの繋がりはあるのかもしれないが。
「この書類に柳泉と書かれた女の子が何人かいましてね、彼女達はまずこのオークションでどこかの組織に買われ、最終的にGODに行き着いてるんですよ。
しかも今日この会場に足を運んでいるのが必ずGODに彼女達を回している組織。つまりどこの組織だろうとGODの首筋ぐらいに食らいつけるってわけですよ」
「なるほど、しかも本物の柳泉が出て来たとなれば自然とオークションの金額次第でどこの組織が一番GODに近いか分かり、うまくいけば楢原かGODの重鎮を引き当てられるってことか」
しかし、秀はあくまでも柳の気持ちを尊重しようと尋ねる。
「柳さん、確かに柳さんが出ていただければ助かりますし、うまくいけば沙南ちゃんを出さずとも相手を片付けることも可能です。だけど当初僕が考えていた作戦を実行するとしてもGODには近づけます。
答えてください、どちらを選ばれますか?」
「出るに決まってます、沙南ちゃんを守るのが私の役目ですから」
迷いなく柳は答えるが、沙南はそれに反対した。
「ダメよ柳ちゃん! 柳ちゃんはハワードにずっと狙われてたのにまた!!」
「沙南ちゃん、私は平気。親友だもの、沙南ちゃんのことは二百代前からずっと守りたいと思ってたから」
「だけど……!」
「沙南ちゃんは私が辛いときにはいつも近くにいてくれたのよ? だから今度は私がお返しする番。何事もなく龍さんと再会してほしいもの」
「柳ちゃん……」
その優しい気持ちに沙南の心は満たされる。さすがの秀も女の子の友情には敵わないらしい。
それから秀は部屋の中を物色し仮面を見つけて微笑む。相手をはめることが大好きな秀だ、すでに相手の未来まで読んでるのだろう。
「さて、神がここまで僕達の好きなようにされて天罰を下してこないのでしょうかね」
その答えはすぐに出されることになる。
はい、またもやテロリスト一行は闇の闇にある人間オークション会場の主催者側をあっさりと乗っ取りました(笑)
かなりまずい世界なはずなのに、
この一行、本当に仕事が早い……
っていうか状況に応じて秀が作戦をすぐに組み立てています。
いやぁ〜本当に黒いや。
闇の闇なんて彼の黒さに比べたらかわいいものです(笑)
そしていろんな下準備を皆にしてもらいながらいよいよ次回は大乱闘の予感。
さあ、暴れていただきますよ!