第百六十五話:闇の女帝
地下街には一際華やかな場所があった。真っ赤な建物が並ぶ中華街、その中でも特に華やかな店こそ闇の女帝が君臨する場所である。
そしてその店の裏に作られている王の間に黒い人民服を着たアジア系マフィアの男が、彼女の座る王座の前で膝立ちになり深く一礼した。
「彩帆様、宮岡殿が面会を希望なさっておりますが」
「うむ、通せ」
「はっ!」
そして王座の扉が開かれると宮岡とおまけに森がくっついて来た。無理矢理駄々をこねてうるさいからとの理由だが……
「お久しぶりです、女王」
「うむ、久しぶりだな、宮岡」
客人を迎える笑みを女帝は浮かべて足を組み直すと、森は興奮を全面に出した。
「ウホ〜!! マジで美人で超グラマーな女王じゃねぇか! 女王様、是非今宵は僕と……!」
そう発した途端女帝の側近達が森に刃を向けた。どうやらそういった発言は命に関わるらしい。しかし、女帝は微笑を浮かべて宮岡に告げた。
「菅原財閥の御曹司は破滅的な馬鹿だと聞いてはいたが、どうやら噂以上だな」
「すみません、ご機嫌を損ねるような馬鹿なんで」
宮岡は深く謝罪した。どうしても早く会いたいと秀達より前に会わせたのは失敗だったのかもしれない。
「それより天宮兄弟に会わせよ。多くの権力者が手にしたいという兄弟に是非会ってみたい」
森の無礼な発言など気にも止めず、女帝は要求すると秀が王の間に入って来た。そして龍ならするであろう、初対面の挨拶を丁寧にする。
「初めまして、闇の女帝」
「ほう、噂通りの美貌だな、天宮秀」
「ありがとうございます。女王こそ思った以上の権力者だったので少し安心しましたよ」
「どういう意味だ?」
宮岡は内心焦った。しかし、やはり秀は秀である。
「GODの力を恐れているただの女だと思ってましたので」
「秀君!」
宮岡は何を言ってるのだと思うが、秀は女帝が座る王座の階段を上り彼女より少し目線の高い位置で止まる。
側近の者達が動こうとしたが、秀に軽く睨まれただけで動けなくなった。
「……妾を侮っているのか?」
「違いますよ。ただ僕達より立場が上だと思われたくないだけです」
僕達と言っているだけで話は見えた。彼のプライドの高さもだろうが、龍を見下すような真似は許さないという警告でもあった。それに気付いて女帝は口元を緩める。
「フフッ、ハハハハッ……! 面白い男だ。まあ、南天空太子ともあろうものが膝を折ることを潔しとするはずはなかろうな」
「ご理解頂けて光栄です」
どうやら彼女も天空記の内容を知っているらしい。さすがは闇の女帝ということか。
「だが、妾もこの地下街の女帝じゃ。何もなく妾が力を貸すと思うか?」
「マスターの友人なら貸してほしいですけどね」
苦笑しながら秀は先程手に入れた書類の数々を女帝に渡した。それを見て彼女は笑みを浮かべる。
「……なるほど、この情報は確かに高い。利用させてもらおう。だが、それでもまだ妾は満足せぬ。そうだな、首相の通帳ももらおうか」
「やれやれ、これは僕の私情で使わせてもらおうと思ってたんですけどね」
さっき暴れた時の戦利品を彼女は知り尽くしているようだ。肩を竦めて秀は通帳を差し出した。
「ですが、これ以上の礼は尽くしませんよ。まずは楢原首相の居所、教えていただきましょうか」
「楢原か、あの男は闇の闇にいる。GODの神という男も潜んでおるよ」
戦利品に満足したのか、女帝はあっさりと情報を提供してくれた。そして神という男が楢原の裏に潜んでいることも理解した。
「そうですか。では、現在この地下街に潜伏しているGODと楢原首相の戦力はどの程度です?」
「そうだな、二万はみておいた方がいい。神が取引場に来ていた時点で今日はそれ相応の組織が集っている。しかも今日は人間のオークションもあるからな」
それに秀は眉を潜める。裏の世界ではこういうことが平然として行われているのだ。
「相変わらず趣味の悪い……」
「妾もそう思うよ。だが、その主催者はGODだ。ぶち壊せる者はいないな」
「闇の女帝でも?」
「ああ、仕掛けても良いが犠牲になるのは私の部下だ。ただでさえ売られて来たのに命を落とせとは命令出来ぬ」
そう真剣に答える女帝に、秀は意外そうな表情を浮かべた。
「……意外と心優しいところあるんですね」
「それはお前もだろう、天宮秀。篠塚柳といったか、裏であれほど暴れているお前がその娘には甘いと聞くよ」
「当然です。彼女を愛してますからね」
「フフッ、お前に惚れられては一生捕われの姫と同じだな」
「ええ、離す気なんて毛頭ありませんからね」
ニッコリ秀は笑うと女帝はくすくすと笑った。側近の者達は初めて会ったもので、ここまで女帝に笑みを浮かべさせられる来客者を見たことがなかった。
「天宮秀、気に入った。この地下街で妾の威光を使うがいい。闇の闇には通してもらえるよう手配しておく」
「ありがとうございます。でも闇の女帝の全権力を使い放題にしてもらいたいですね」
「それは調子が良すぎるな。この程度では足りぬよ」
「困りましたね〜。でもやっていただかないとうちの可愛い弟妹が悲しむでしょうね」
それにピクンと女帝は反応する。宮岡と森が心の中で「ビンゴ!」と親指を立てる。
しかし、全く表情を崩さず女帝は尋ねた。
「……弟妹とは?」
「会います? まだ小学生なんで少し幼い感じがするかと思いますが」
「ああ、構わぬ。是非会いたい」
女帝の目に輝きが満ちた瞬間、秀が黒く笑ったのを女帝以外の誰もが見逃さなかった。
だが、危険だと止める前に扉は開かれ、末っ子組が王の間に入り込んで来た瞬間、その側近達ですらハートを撃ち抜かれてしまった!
「闇の女帝様、こんにちは! 篠塚夢華ですっ!」
「初めまして、天宮純です!」
天使の羽を付けた純とネコミミのフードを被った夢華の破壊的な可愛らしさに、萌を感じない大人達はいなかった。
そして二人はぴょこぴょこと女帝の前まで走ってくると、秀がニッコリ笑って告げた。
「純君、夢華ちゃん、闇の女帝はと〜っても優しい人ですからね、僕達に何でも協力してくれるそうですよ!」
「本当!?」
「じゃあ、夢華のお願い聞いてくれるの!?」
二人が女帝の片方ずつの手を掴んでキラキラした目を向けた瞬間、彼女は快く答えた。
「ああ、そなた達の望みは全てこの彩帆が叶えよう」
「わ〜い! ありがとう、彩帆お姉ちゃん!」
「こら、そのような呼び方をするでない」
「ダメなの?」
眉を下げて首を傾げる夢華にノックアウトされた。
「か、構わぬっ! 天宮秀!」
「はい」
「純と夢華のためなら妾の力好きなように奮え」
「ありがとうございます」
結局最後は秀の一人勝ちである。だが、女帝は非常に満足していた。
「ああ、夢華、少し汚れておるな。一緒に湯浴みでもせぬか?」
「うんっ! あっ、お姉ちゃん達も汚れちゃったから一緒に入っていい?」
「構わぬ。純、そなたも一緒に入らぬか?」
「ダメです。純君は男の子ですから」
柳と一緒に風呂に入るなどいくら純でも許せないらしい。純も僕も男だからと断った。
「そうか、ではまた遊びに来た時の楽しみにしておこう。皆の者、湯浴みと食事の用意を致せ!」
「はっ!」
いつになく力の入る返事をして、女帝の部下達は動き出した。そして夢華と仲良く手を繋いで湯浴みに向かう女帝に森と宮岡が一言……
「……恐るべきロリコン」
「ああ、でも一番得してるのはやはり秀君か……」
いつもは気難しいのに……と宮岡は微妙な表情を浮かべるのだった……
昨日は更新しなくてすみませんm(__)m
今日が早起きしなくてはいけなかったので。
でも、毎月アクセス数が上がっていることはすごく嬉しい限り!感謝しています☆
さて、今回は闇の女帝に会いにいった一行ですが、またとんでもないことに……
なんと地下街の女帝の力使い放題になっちやったよ!
そうです、彼女はロリコンです!
末っ子組にお願いされて断れるはずなどないのです!
秀も最初は渋っていたらしいですが、結果的に黒い笑みが……(笑)
でも、やっぱり夢華ちゃんは最強なのかなぁ?
長男Sはもちろん、闇の女帝だけでなくその側近達まで陥落させちゃうなんて……
次回は一体どうなるやら……