第百六十四話:神の名を持つ者
地下街に入るなり早速騒動を起こしたものの、やはりこのテロリスト達は余裕で勝利をおさめていた。
その余裕度も土屋が末っ子組に地下街の歩き方を教えているほどだ。
「純君、夢華君、この地下街で優しい声をかけてくる人には付いていったらいけないよ?」
「どうして?」
「うん、そういう人達はね、君達にひどいことをしようとするからなんだ。優しい声をかけてくるのに人を騙すなんてひどいだろう?」
「うん、ひどいよね」
「龍兄さんだったらすっごく怒るよね」
うんうんと素直に末っ子組は頷く。こういうところは龍や啓吾の教育の良さを感じられるが、とても同じ兄から教育を受けたとは思えない弟が一名。
「鬼だ……!」
「悪魔だ……!」
「最悪だ……!」
地下街でもそんな評価を受ける冷徹非道で腹黒、おまけにドSで世界で一番最悪の報復をする次男坊は彼しかいない。
「失礼な人達ですね。僕はれっきとした一般人ですよ」
誰もが「どこがだぁ!」と心の中で叫ぶ。綺麗な顔した青年は相変わらず涼しい顔をしてやることは過激だ。すでに体も心も生と死を味わっているものが続出している。
「さて、あなた達にこんな愚かな命令を下したのは楢原ですか? それともどこかの組織的自由業者ですか? まっ、あなた達自身の意志ならすぐに気絶ぐらいさせてあげますよ」
「俺達の意志です! がへっ!」
答えた男は歯を折られ鼻血を噴いて倒れた。
「次に嘘をついたらこの程度ではすませません。誰に頼まれたのですか?」
ニッコリ笑って秀は尋ねる。彼の尋問は龍ほどひどくないにしても、世間一般レベルでは間違いなく最悪である。
「秀、そんな下っ端締め上げたって仕方ないんじゃないのか?」
「いや、そうでもないぞ?」
森の問いに宮岡は冷静に答えた。
「この地下街ではどんな情報も飛び交ういわば世の中の情報の源みたいなもんでな、下っ端といっても結構価値ある情報を持ってるもんだ」
「んじゃ、この地下街で一番いい女を尋ねてみるかな」
「それは闇の女帝だ」
宮岡はあっさり答えると森は興味を示した。
「何だ、そんなにいい女なのか?」
「ああ、超グラマーで危険な香を醸し出すいい女だよ。彼女にかかれば楢原の居場所なんて一発だろうな」
「へええ、それは是非一夜を過ごしてもらいたいな」
「ああ、まず無理だ。女帝は結構気難しい性格でね、俺もマスターの知り合いだっていってようやく口を聞いてもらえたぐらいだ」
「うんうん、そういうお高くとまっていられるほどのグラマーなら大歓迎だ」
「その言葉覚えとけよ?」
宮岡はニヤリと笑った。彼女のことをよく知らない森は非常にワクワクしているらしい。
「さあ、一体誰が頼んだんですか?」
ニッコリ笑って襟首を掴んで男の足は宙に浮く。そしてそのまま秀はビルの端に立った。
「ヒイイ〜!!」
「すみませんが僕は重力は扱えないのでこの腕を離したらあなたの人生は終わりますね」
そこまで言うかと森は思う。だが、たかが殺人未遂とこの次男坊なら言い切る。
「答えなさい。誰の命令なんですか?」
「……!! 神だ!! 神がこの地下街に来たんだ!!」
「……GODという組織ではなく?」
「違う! あの男は間違いなく神なんだ!! 神じゃなければ化け物だ!!」
「……そうですか、情報提供ご苦労様」
「カハッ……!」
少し強く首を絞めて状況を提供してくれた男を気絶させた後、最後に呆然としていた無法者を森と宮岡は殴って気絶させた。
「……地下街に神、ですか」
「みたいだな、さぞ闇の女帝の機嫌は悪くなってそうだ」
「大丈夫でしょう。女帝が不機嫌になってる原因を知り、おまけにいろんなお土産をもって訪問するんです。
それにこの前マスターに聞いたんですけど、彼女って結構女性らしいみたいなんですよ」
「おいおい、何か勝算があるのかい?」
「ええ。ただ……ちょっと兄さん達に微妙な顔をさせるかもしれないですが……」
目的のためならいくらでも卑怯なことも他人を売ることも出来る青年が苦笑いを浮かべてしまっている。ただ、彼女の権力や情報力は利用したいのだ。
「さて、さっきいい感じの洋服屋がありましたからちょっと貸してもらいましょうか」
「服?」
「はい、ただ……末っ子組に力を貸してもらわなければならないのが心苦しいのですが……」
さすがの秀も末っ子組には甘い。しかし、やってもらわなければ困るのだ。
「……秀君、まさか闇の女帝って」
「……はい、まだ本当かどうかは分かりませんが」
宮岡はなんとなく察したらしい。だが、可能性というものはどれだけの爆発力を生むか分からないからこそ恐ろしいもので……
「まあ、あの二人ならなぁ」
「ええ、下手したらこの地下街最強の権力を手にしますよ……」
そう言って秀は深いため息をついた。
その頃、雲隠れしていた楢原首相は……
「天宮兄弟がこの地下街に来た!?」
息子とは全く正反対の容姿をもつ、肩幅ががっちりとしたどこかの傲慢な社長といったイメージを受ける男は驚きの声を上げた。
「ええ、ですが慌てることもない。おそらく彼等は闇の女帝と接触するでしょうが私の前では小さな力だ。簡単に捻り潰せる」
「神様……」
楢原は目の前にいるものをそう呼ぶ。
「それより楢原首相、あなた達親子を何度も救ってきたのにはこちらも下心があるからなんですよ」
「はっ、何でも命じてくださいませ」
楢原は深々と頭を下げる。すると神は穏やかな笑みを浮かべた。
「天空記最終章、天空王の覚醒はアメリカにいる者がやってくれるが折原沙南、彼女も同時に覚醒させてもらいたい」
「沙南といいますと……」
「そう、太陽の姫君。私はね、二百代前の再現をもう一度したいのですよ」
「はあ……ですが私は神兵の総帥だったという記憶はなくて……」
「ええ、ですが天宮兄弟や沙南姫を見てもやもやするでしょう?」
そう問い掛けた瞬間、楢原の目は焦点がなくなった。
「……はい、お任せ下さいませ、我が主」
楢原首相はそう答えるとすっと立ち上がる。
「さて、どの神が一番最初に覚醒させられるか……」
神は微笑を浮かべるとその場から消えるのだった……
さあ、とこもここも大変です。
アメリカの龍は仮面男に苦戦中、啓吾兄さんと紗枝さんはVS三國、そして日本組は楢原首相と神と名乗るものが仕掛けてきそうです。
でも、このメンバーなら何とかなるはず!
早く合流出来るように頑張ってもらおう。
そして、次回はこの地下街の闇の女帝が出て来る模様。
彼女がもたらしてくれる情報はどれほどの価値があるのか……
気難しい性格らしいですが、末っ子組の頑張り次第でいくらでも話してくれるとの情報があるぞ(笑)