第百六十二話:誰が最強?
日本にいた悪の総大将の弟達は、荷物だけを先にアメリカの菅原財閥が管理するホテルに送った後、早速テロ行為を開始していた。
目的は楢原首相とバックにいるGODを叩きのめしておくこと、それが済めばアメリカにいる龍達と合流ということになっている。
だだし若干一名、朝の最高の時間を邪魔された仕返しのために暴れている現テロリスト集団の隊長はというと……
「楢原首相はどこに行ったんですか?」
「誰が!!」
そう言葉を発したと同時に彼の後ろでは大爆発が起こり、ありとあらゆるものが木端微塵に吹き飛んだ!
「あなたのような首相に飼われている犬はご主人様の居場所を吠えてれば良いんですよ。さあ、さっさと答えなさい。僕は今凄く機嫌が悪いですからね」
「ひっ……!!」
あまりに冷酷な表情に飼い犬は泡を吹いて気絶しそうになったが、秀は躊躇なくいい音をさせて頬を叩いた。
「時間が押してるんですよ。いい加減に答えなさい」
「うっ……、ち、地下街だっ!! しっ、しゅ、首相は……! 地下街に下りているっ……!!」
「分かりました」
秀は飼い犬の襟首をパッと話すと、その黒いオーラを一気に収めて彼の拷問を見ていた者達に振り返った。
先程まで末っ子組や柳に絶対見せてはいけない悲惨な光景と、精神が崩壊するような言葉がつらつらと発せられていたことは言うまでもない。
「……秀兄貴、なんで今日そこまで機嫌が悪いんだよ」
「翔君が飲酒したからですよ」
「うっ!」
「まあ、末っ子組や柳さんに飲ませた森さん達にもいろいろ聞きたいですが」
「秀君、俺は柳君から頬にキスされたが婚約者殿にしか恋愛感情は抱けないから許してくれないかい?」
土屋は素直に謝罪しておいた。下手に隠すより真実を告げておいた方が納得されることもある。
「そうですか。すみません、柳さんが困らせたみたいで」
「いいや。だけどあいつには黙っててくれよ? この程度のことでぐらつくような女じゃないが、心穏やかではいてほしいからね」
彼女持ちめと森と宮岡は上手く死の危機を切り抜けた土屋に悪態を突く。
「で、お二人はどうなんですか?」
秀の後ろから死神の鎌がチラリとのぞく。それに二人は悪寒を覚えるが、癒し組と彼を正常に戻す生贄が部屋の中に入って来た。
「秀さん、そっちは片付いた?」
「ええ、片付きましたよ」
天宮家の主である沙南には当然八つ当たりはおろか、逆らうことなんてまず出来はしない。理由は簡単、いくら秀でもキレた龍は怖いのである……
「秀兄さん、言われたもの持ってきたよ」
「ありがとう、純君は賢いですね」
そう言って純は数冊の書類を秀に手渡した。秀の顔を見る限り、日本を牛耳ることが出来そうな汚職の証拠書類というところだろう。
「それと秀さん、こちらもどうぞ。国民の税金を懐に入れてる貯金通帳です」
「紫月、それって犯罪じゃ……!」
人のお金を盗れば間違いなく窃盗罪である。しかし、紫月は平然として答えた。
「何を言ってるんですか。私達から税金を巻き上げるだけ巻き上げて自分の懐にしまい込んでる首相の方がよっぽどの悪党じゃないですか」
「そうだけどよ。でも、元を正せば国民の税金だろ?」
「翔君、この程度の金額は僕たちの迷惑料としていただきましょう。それに、全てが国民の税金だけではないみたいですしね」
秀は宮岡に通帳の中身を見せると、ぴゅーと口笛を吹いた。金額はもちろんだが、振込み主達にも感心がいく。
「なるほど、首相が地下街にいく理由はそういうことか」
「えっ? 地下街ってあの地下街ですか?」
紫月は噂程度に聞いたことがあるらしく反応を見せた。
「ええ、その通りですよ」
「何だ? 地下に街でも出来てるのか?」
翔の純粋な質問に秀は笑った。女子大生達や末っ子組も首を傾げている。
「そうですね、当たらずも遠からずってところでしょうか」
「まっ、一般人は絶対近寄らないもんな」
秀や大人達は笑った。そして勿体ぶるなよと翔が催促すると秀は簡単に説明し始めた。
「はいはい、では簡単に説明すると世界に通じる裏日本の街というところですよ。まあ、雰囲気としてはマフィアとかギャングといった類が平然とうろついてる場所になります。
当然犯罪の類は日常茶飯事、ついでに一度入り込んだら最後とまで言われている日の当たらない街、だから地下街と呼ばれているんですよ」
「おいおい……そんなところで首相が何やってるんだよ……」
「取引ですよ」
秀はあっさりと答えた。
「地下街では勝手に人身売買も行われているみたいですからね、首相が僕達を世界一の権力者に売り飛ばせば通常の交渉よりあの街ならさらに大儲けできますからね」
「そうだな、この通帳の振込人がGODの管理する銀行なら間違いない。まあ、それにしても首相は随分GODと仲がいいな」
「そうですね、だけど神の鉄槌の前にまずは僕が絞めますけどね」
それって最悪なんじゃ……と言える勇気あるものは誰もいなかった。
「だが秀君、地下街に行くなら女子大生や末っ子組は少し危険なんじゃないかな」
土屋の言うことはもっとも。治安の悪さからとても行ってほしい場所とは言えない。龍達がいたら絶対に近寄らせないだろうが、現在は秀が隊長だとなると話は違ってくる。
「ええ、でも皆行きたいのでしょう?」
「僕は行くよ!」
「夢華も!」
さすが末っ子組、だてに兄達から育てられているわけではない。
「柳さんはどうされますか? もちろん僕としては安全な場所にいてほしいですけど……」
「そ、その……!」
頬に触れられただけで真っ赤になってしまう。周りはいつものことだという反応と柳への同情がほぼ占められている表情で二人を見ると、柳は自分の意志だけははっきり伝えた。
「い、行きます……! 私も守りたいですから!」
「はい、分かりました。ですが大切な身体なんですからちゃんと僕に守られてくださいね?」
「秀さん……!」
甘すぎる空気に本当に啓吾がいなくて本当によかったな、と一行は思う。
「ですが沙南ちゃんは……」
「行くわよ! 私だけ連れていかない何て言ったら地下街そのものを破壊してやるんだから!」
「ハハハ……、分かってますよ。だけど絶対一人で行動しないで下さい。僕には兄さんに沙南ちゃんと無事に対面させる義務があるんですから」
「う〜ん、掠われたら龍さんが颯爽と助けに来てくれるっていうのも女の子の憧れではあるんだけどな」
「……本気で掠われないで下さいね」
末っ子組までもが深く頷く。確かに龍は助けに行くだろうが、白馬の王子様というより悪の総大将なので世界全てを破壊して助けてくれるタイプである。
「なぁ、淳」
「何だ?」
「この一行の中でなんでお姫様が一番最強に思えるんだろうな……」
森の問いにさすがの土屋も考え込んだ。間違いなく的を得た質問である。
「……そうだな、あの龍を従えてるからとしか言えん」
一行は地下街へと向かう……
秀さん相変わらずまだ機嫌が直っていない様子。
でも、最高の時を邪魔されたならば仕方ないですね(笑)
そしてまずは不法侵入、脅迫、傷害、器物破損、放火、窃盗といかにも軽く数個の罪を重ねているテロリスト一行。
でも殺人未遂までしか犯さないのが彼等の気をつけているところ(気をつけてるか!?)
次回はいよいよバトルしに地下街へ!
龍が間違いなく頭を抱えてしまうような戦いっぷり、そして危険な香も含んでくれるといいなと思います。