第百五十八話:二百代前の黒幕
化粧室で髪を直していたところに突如数人の黒スーツを来た男達が入り込んで来た。そして紗枝を拘束しようと襲い掛かって来たが、やはり護身術を身につけている彼女は相手の力の反動を利用して簡単にやっつけてしまう。
しかし、彼女はそのあと背後から薬をかがされてその場に崩れる。
そして夢を見るのだ。遠い二百代前、まだ彼女が自然界の女神だった頃の夢を……
真っ白な衣に身を包んで両腕は天井から下りている鎖付きの手枷に拘束されている。普通の女性ならば泣き崩れるなり、悲観的な考えしか浮かんでこないはずだろうが、生憎この女神は非常に機嫌が悪かった。
「あの馬鹿啓星……! 助けに来たら埋めてやる……!!」
悲しむどころかこの状況に陥ることになったきっかけを作った啓星に恐ろしいまでの怒りを覚えていた。
彼女は先日、天空王の力になってくれと頼みに来た啓星の言葉通りこの天界の統治者である神の元を訪れたのだが、訪れたらいきなり拘束されて揚げ句の果てには天空王をたぶらかした魔女になっていた。そしておまけに処刑対象にされて罪人の扱いを受けているわけである。
すると石造りの廊下を歩いてくる神兵達の声が聞こえて来た。
「おい、知ってるか? 今日この牢獄に上玉の罪人が捕らえられたんだってよ」
「へええ、そりゃ相手してもらいたいな。最近ろくな女がいなくてつまらなかったんだよ」
「そうそう、ちょっと殴ったぐらいですぐに泣くしよ。しかもこっちの欲求のはけ口にもならねぇし」
そして聞こえてくる笑い声に紗枝の機嫌はさらに悪くなった。本当に主上に仕えている神兵なのかと疑いたくなる。
「でもよ、沙南姫様か? 主が天空王からどんな手を使ってでも奪うって言ってるらしいぜ?」
「おいおい、自然界の女神様だけじゃもの足りねぇのか?」
「らしいな。というよりさ、とっくに汚れちまってるんだとよ。天空王の従者が手を出したらしくてさ」
「うわぁ〜女神に手を出すなんて本当天空族は上玉が好きだよなぁ。そりゃ主上も唆されるさ」
紗枝はピクリと反応した。自分が汚れているといった奴らは後から消滅させるとして、どうやら神を唆した者達がいるということは確かなようだ。
これが事実ならば早く天空王に伝えなければならない。
その時だ。自分の前に位の高そうな神兵達が彼女が捕まっている牢獄に入って来た。
「失礼致します、紗枝殿」
「失礼だと思うのならばさっさと私を解放しなさい」
凛とした視線で相手を射抜く。その態度にもっともその中で一番上の神兵隊長がすっと彼女の前で片膝立ちになった。
「申し訳ございませんが、数日後に処刑される女神を解放するわけには参りません」
「そっちの都合で勝手に殺されたんじゃ溜まらないわよ! 解放する気がないなら今すぐ私の前から消えなさい!」
目障りだというように彼女は碧の双眸を光らせた。しかし、いつもなら発動する力を押さえ付けられている状態ではどうにもならない。
「ハハッ、自然界の女神様も力が発動できなければただの女か」
「女神じゃなくても極上の女だと言ってくれた奴もいるわよ」
「ああ、紗枝殿をたぶらかした天空王の従者……確か……」
「……私がいつあの馬鹿にたぶらかされたことになってるのよ。ある意味最悪の侮辱だわ……」
「そう本人が遊び相手の女に触れ回っている。紗枝殿の元に通っているのも恋仲だからだと」
紗枝は怒りに震えて来たが啓星の策略は理解できる。おそらく彼は敵から自分を守るためにそう触れ回っていたのだろう。
だが、それなら天空族の戦力を利用しなさいよ!と文句ぐらい言ってやりたいが……
「しかし、我々の主は汚れた女神を愛人としてなら扱ってもいいとおっしゃられていますが」
「ふざけるな! 私を誰だと思っている!」
「今は立派な雌豚になれますよ」
神兵達はどっと吹き出した。紗枝はあまりの怒りに一度静かになる。
「まあ、主は沙南姫様を手に入れて全てを意のままにしたいとおっしゃっていらっしゃるのだ。あなたの利用価値は自然界を手中に収めることと愛人として扱うことを望まれているだけのこと。
ああ、あと天空王を呼び出す餌にもなりますか。あなたと天空王は親しき仲らしいですし」
「……失せよ」
「はい?」
「今すぐ私の前から失せよと命じている!」
その瞬間、紗枝を拘束していた手枷はさらさらとした砂へと変わり、石室の牢獄も砂へと変わっていく!
「馬鹿な!」
「まずい! 女神を捕まえろ!!」
「種の起源へと帰れ、愚か者が!!」
紗枝の双眸がさらに光り神兵達の持っていた矛や着ていた鎧も死んでいく。
「うわあっ!! 皮膚が……!!」
「水! 水を……!!」
ついにその力は神兵達の身の危険にまで及ぶ。しかし、それを止める人物が現れた。
「自然界の女神よ、その怒りを収めよ」
「そなたは……」
紗枝は彼女を止めた人物の名を呼ぶと彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「先代も怒りやすかったが紗枝殿はそれ以上だな」
「……比べるでない」
紗枝は怒りをおさめると砂と化してしまった地面の上に降り立つ。
「さて、とりあえずこの者達の治療はしよう。主の命で動いて死にかけては可哀相だ。なにより、この神兵隊長は紗枝殿を崇拝するほど恋い焦がれていたからね」
「……それで雌豚呼ばわり?」
「男の性だと思ってやってくれ」
「弁護にしても最悪だわ」
「おや、啓星は君をどう扱っているのかな」
「そなたまで申すか……」
あれはただの酒を飲み交わすだけの仲で、よく人を不快にする元凶だと言うと青年は微笑を浮かべた。
「そうか、やはり啓星は君とは交わってなどいなかったか」
「えっ!?」
次の瞬間、紗枝は強力な力に膝を折り青年が復活させた神兵に拘束される!
「何をする!」
「ああ、私は彼等の主でやがて全てを手にする者だ。紗枝殿を利用するだけしようとも思っているが、汚れてないのは太陽の姫君だけでいい。だからまずはその力を二度と発動できないほど彼等に犯されてもらいたい」
「何を!?」
突然の宣告に紗枝は目を見開く!
「天空族に太陽の姫君が荷担しているだけでも厄介なのに、自然界の女神様まで彼等に味方されてはさすがに神の力を利用してもこちらのリスクは高いからね。
ならば紗枝殿を力が発動できない状況で私の元に置けば天空族も自然界も簡単には手を出せない」
「思い通りになど!!」
地に押さえ付けられ、青年は腰を低くして紗枝を見下した。
「……啓星の偽りを肯定しておけば良かったのに」
「何故……!!」
「気付いていないのかい? 君は啓星を愛しているのだろう?」
そう告げられて夢は終わった……
今回は二百代前の自然界の女神こと紗枝さんが捕らえられた後の話。
神兵に捕まっても相変わらず逞しい女神様だったようで……
しかもやはり強い……
っていうか最強なんじゃないですか!?
まあ、これほどの力をお持ちの女神様だったので、敵にとっては彼女は相当厄介な存在だったのでしょう。
でもそんな彼女を利用されないように啓星は紗枝さんは自分と恋仲だと触れ回っていたようで……
なんせ彼女は変な輩からも女性としても狙われていたそうですから。
だけど黒幕は太陽の姫君こと沙南姫を手中におさめたいとのこと。
全てを手に入れるために、そして天空族を滅ぼすために沙南姫が必要らしいですが……
はい、そんな夢を見てる頃、現代の長男組は何をしているのでしょうか??