第百五十七話:テロリストの宣戦布告
翔と紫月が朝早くからの来客者を簡単に吹き飛ばしていく。服装からはどこかの組織に属しているであろう特殊部隊かと思われるが、特に何のマークも見受けられないためとりあえず襲ってくるから叩きのめしているところだ。
そしてもともと身軽だったが、風の力を手にした翔の動きはさらに軽やかになり捕まえることがより困難になった。
宙に浮かんで相変わらず油断しているに違いないセリフを高らかに発する。
「風の申し子の秘技、しかと見よ!」
「調子に乗るな!」
何発も銃弾を翔に撃ち込んでくるが、翔が身に纏う風が簡単に弾道を逸らす。もともと銃弾を受けても無傷ではいられるが、服は無事ではないため逸らすだけ逸らしている。
「腕白小僧! あんまり相手に銃弾使わせるな! 勿体ない!」
森が下から叫ぶと、翔は了解と風を切って相手に拳打を叩き込んでいく。紫月はそれを見て、相変わらず集中という面以外では風をうまく味方に付けている翔に内心で溜息を付いた。
「器用なんだか不器用何だか……」
「小娘!!」
「近寄らないで下さい!」
「うわあ!!」
相手が紫月に襲い掛かる前に簡単に吹き飛ばされる。やはり彼女は実に器用な戦い方をしているなと見ているものを安心させた。
「同じ風でも使い手一つでこんなにも違うのか」
「何だ、淳。妙に納得したような顔して」
「ああ。翔君と紫月君の性格が滲み出てると思ってね」
「性格?」
「そうだ。翔君は台風の目って感じだが、紫月君は風の踊り子という感じだね」
「言われたらそうだな」
「だが、台風に付き合える踊り子だから凄いが」
銃弾が飛び交っているのに実に一行は穏やかである。だが、そんな空気を一気に史上最低温度の悪寒を感じさせる天宮家の次男坊がぶち壊した。
「秀……」
「森さん、殺されたくなかったら僕の機嫌が良くなるまで声を出さないで下さい」
発した瞬間に蒸発させると言わんばかりに秀は銃弾のなかをゆっくり歩く。流れ弾は彼に届く前に融解して地面に落ちていく……
「翔君、紫月ちゃん、一旦下がりなさい。こいつらを焼却する前にまずは生き地獄を見せなくてはならないので」
「えっ〜!! まだ俺喧嘩……」
秀の形相を見た瞬間、翔は宙から舞い降り兄に全てを譲った。逆らってはいけないというレベルではない。彼の前に立っただけで灰にされる!
そして敵も秀がいま大将だと認めたようで特殊部隊の隊長格が出て来た。
「君は」
「口を開かず僕の質問にだけ答えなさい。僕はいま機嫌が最高潮に悪いんですよ。せっかく最高の睡眠と最高の目覚めを満喫していたのに邪魔されたんですからね」
それで大人達は全て納得がいく。最高の時間を満喫していたのに邪魔された秀の機嫌が最悪にならないわけがないのだ。
「何を」
「うわあああ!!」
反論する前に彼等が乗って来ていた車両の一台が大破して炎上する! やったのはもちろん天宮家の次男坊である。
「これ以上僕に逆らえば次はあなた達があの車と同じ運命を辿りますよ」
味方ですら最悪だと思う。龍は威圧して気絶させるか最悪の場合重傷で止めているが、秀は原形を留めるつもりはないらしい。
特殊部隊の面々は真っ青になって立ち尽くした。
「まず朝からあなた達に僕の最高の目覚めを邪魔させた首謀者は誰なんですか?」
「首相……!! 楢原首相だ!!」
楢原という名に聞き覚えのあった翔は小声で紫月に尋ねた。
「紫月、楢原って紗枝ちゃんに惚れてた奴何だろ? 首相になったのか?」
「違いますよ。楢原の父親が首相になったんですよ。この前高原の後釜達を政界から締め出した結果ではありますが……」
まだ他にも彼の後ろでいろいろな権力がうごめいていることは伏せておく。
「そうですか。やはり楢原首相でしたか。だったら帰って伝えなさい。史上最悪のテロリストがあなたを消しに行きますから、今のうちにあなたの後ろ盾にでも泣き付いておきなさいとね」
「ひっ……!!」
そう秀が告げると特殊部隊の面々はすぐさまその場から消えた。いたら間違いなく消されるという考えは正しい。
「さて。森さん、菅原会長にアメリカに行くんでいい宿泊施設を用意していただくよう連絡してください」
「はっ? アメリカ!?」
「ええ、楢原首相が動いて来たということはGODの力も今まで以上に働いてくるということ。ならば直接彼等の本拠地に赴いて叩きのめしてやるのが一番早い」
「分かった。ちなみに柳嬢と同じ部屋にするのか?」
「当然です。いっときますけど、スウィートぐらいにはしてくださいよ」
「へいへい」
そして森は携帯を掛け始める。いつもなら誰かが末っ子の教育に悪い発言は控えろというが、今日はそんな勇者はいない。
「ですが宮岡さん達はどうされますか? 下手をすれば日本にはいられなくなりますが……」
秀はもっともな事を聞く。今から喧嘩を吹っ掛けるのは世界一の権力者を後ろ盾に持つ日本の首相だ。そして秀が提案しようとしていることは間違いなくテロ行為なわけで……
しかし宮岡は今更だろと微笑を浮かべた。
「ああ、俺は構わないさ。新聞記者からフリーのジャーナリストにでも転身すればいいだけの話だからな。
それに天宮家に付き合った方がいい情報が手に入るし。まあ、もっともこんなことになるだろうと昨日マスターにいろいろ頼んで来たんでね」
それを聞いて秀は苦笑した。さすがは情報屋、仕事は早い。
「それに淳行も付き合うつもりだろ?」
「ああ、せっかくだから付き合うさ。例え今の職を失っても、やっていけるからね」
「だけど土屋の兄ちゃん、兄ちゃん婚約者いるのに俺達に付き合ったりしたら……」
「ああ、それは問題ないよ。俺の婚約者殿はかなり出来た女だからね、どうしても女になりたくなったら追ってくるさ」
沙南と末っ子組はカッコイイ〜と目をキラキラさせると土屋はありがとうと笑みを浮かべる。
「あれが大人の恋愛なんですね」
「ああ。うちの兄貴達に見習わせてやりたいよな」
「うちの兄さんにもですよ」
「なんで? 啓吾さんは恋愛に関しちゃ大人って感じがするけど?」
「……私達に対してあれだけの愛情見せてるのに、特定の相手なんか出来たらどうなるかなんて想像もしたくないですよ」
それに根の部分は秀と同質なのだからと、二人が聞いたらさぞ争いが勃発しそうな事を紫月は思う。
「森さんは」
「行くに決まってるだろ!?」
「いえ、来ないで下さい」
「何でだよ!?」
「邪魔だからに決まってるでしょう? 翔君一人でも手に余るのにこれ以上兄さんに気苦労させる種を作りたくなんてないんですよ」
確かに龍が苦労するだろうなと良識あるもの達は思う。
だが、土屋はふと思い付いたかのように秀の肩に手を置いた。
「秀君、今回は森も同行させてやってくれないか?」
「おっ、言ってやれ淳!」
「啓吾君がいないんだ。こいつなら盾にして死んでも誰も悲しまないだろ?」
「ああ〜」
「淳!!!」
やはりそういう役目にされるのが森である。
「じゃあ旅行用の荷物は菅原財閥のホテルにでも送ってもらって、僕達はまず日本でテロ活動と行きましょうか」
「オオ〜!!」
日本にいる弟妹達は、龍が聞いたら真っ青になるような行動を起こすことになる……
さあ、日本組もテロ活動開始!
まず相手は楢原首相ということで、三章でなかなかひどい目にあった楢原の父親です。
当然バッグにはGODの存在がありますので、きっといつも以上に派手なアクションになるかと思います。
だって、龍がいないから止める人が誰もいない……
そして意外な事実。
土屋さんには婚約者がいたらしい。
出来た女性だと言ってるぐらいなので、本当に素敵な人なんでしょう。(浮気しても許してくれそうな人とか?)
高校生組が言うように、兄達には本当にいろんな意味で見習ってほしいですね(笑)
次回はアメリカの医者達に視点は戻りますよ〜☆