第百五十六話:壊したくなる人
15禁です。
苦手な方は飛ばして読んでください。
朝。天宮家の一階で眠っていた末っ子組は同時に目を覚ます。小学生なのでラジオ体操に行かなくちゃと、二人は真面目な夏休みを送っていた。
「おはよう夢華ちゃん……」
「おはよう純君……」
二人はいかにも眠そうだが、リビングの外に出て顔を洗いにいくとシャワーを浴びて髪を乾かしていた沙南に会った。
「沙南ちゃんおはよう……」
「沙南お姉ちゃんおはよう……」
「おはよう。二人とも頭とか痛くない?」
「うん、でも眠たい……」
「僕も……」
間違いなく酒の性である。龍達にばれたらまずいなと、すでにテレビ電話で会話していた頃には酔い潰れていた沙南は長男達の苦悩を知らない。
とりあえず末っ子組は顔を洗うと、眠たそうに二階へと上がっていった。
そして沙南はドライヤーを止めて髪をさっと整え終わるとリビングに向かう。おそらく大人達が床にでも寝ているのだろうなと思いながら扉を開けると、やはり予想通りで……
「あ〜あ。これは片付けるの大変そうね……」
後片付けが全く出来ていない部屋に沙南は溜息をつく。缶ビールが零れて床に染みを作っていないだけマシかとゴミ袋を広げると、唯一昨日まともだった紫月もリビングに入って来た。
「おはようございます」
「おはよう、紫月ちゃん」
軽く挨拶を交わすと、紫月は眠っている者達を見て眉を吊り上げる。秀なら蹴り飛ばすぐらいやっていたかもしれない。
「さて、とりあえず片付けなくちゃね」
「ああ、沙南さんは朝食の支度を手伝ってください。ここの片付けは昨日末っ子組に飲酒させた大人達とまだ焼酎瓶片手に寝こけている翔君にやらせますから」
そう告げた後、紫月は手に風の力を集めて高速回転させる。周りに危害が及ばないのは彼女のコントロール力の高さ故だ。
そしてこれぐらいかと手に集めた力を翔目掛けて振り下ろした!
「起きなさい!!」」
「うわっ!!」
朝から見事な反応を見せて翔は紫月の攻撃を飛び上がって避け、宙で一回転して見事に着地した。
それに対して避けられたかと紫月はつまらないという表情を浮かべる。
「朝から殺す気か!!」
「ええ、否定はしません。それより早くこの部屋片付けてください。秀さんが起きるまでに片付けてなかったらそれこそ殺されますよ」
「秀兄貴……」
翔は見るみるうちに青ざめていく。秀が帰って来てるということは、間違いなく飲酒はばれているということで……
「因みに記憶にあるかどうかは分かりませんが、龍さんも相当怒ってましたから」
「なっ!?」
「テレビ電話だったので酔っ払って騒いでる翔君をばっちり目撃してると思いますよ」
「なんてこった!!」
二日酔い以上に翔の頭は重たくなった。龍が帰って来たら間違いなく説教フルコースに違いない。
「ほら、さっさと動く。それに片付くまで朝食は提供しませんから」
そう言われると翔はまずいと大人達を起こして片付けを始める。その光景をくすくす笑いながら沙南と紫月は朝食の準備に取り掛かった。
「そういえば姉さんはまだ寝てるんですか? それとも秀さんに捕まってるんですか?」
もはや選択肢が二つというのが当たり前になってきている。
「多分秀さんに捕まってるんじゃないのかな。ほら、昨日柳ちゃん可愛かったでしょ?」
悪戯っぽく沙南は笑うが、紫月はシスコンとドSのことを思い浮かべるととてもそうとは言えない。
「……兄さんや秀さんに全てばれたらここにいる男性陣は原形なんて失くなりますよ……」
そう言われると沙南も考え込んでしまう。純は許せるが、あとの者達は許せないというより消すとあの二人なら間違いなく行動に移す。
「う〜ん、秀さんが気が済むまで呼びに行かない方が身のため?」
「はい。なにより龍さんがいない間に天宮家を焼失させたなんてことするわけにはいきませんし……」
柳の身の無事を二人は心から願うのだった。
そして天宮家焼失を防ぐためにほぼ生贄状態にされていた柳はというと……
「う……ん」
暑さに目が覚めることもなく、寧ろいつもより心地よい温度が自分を包んでいる。目の前の藍色のランニングシャツをぎゅっと掴めば彼女の頭をふわりと抱え込んでくれる。
それが嬉しくて少し身をよじったところで何かがおかしいと彼女はようやく思い付く。
「えっ……?」
ぼんやりする意識の中で柳は頭を上げた瞬間一気に覚醒した!
「なっ……しゅ……!!」
言葉にならないほど柳は慌てふためくと、腕の中で暴れている少女に秀も夢の中から現実へと戻って来た。
寝起きの後は少しぼっとしている青年なので、柳がジタバタしているのにもあまり意識がいってなかったが、彼女が腕の中にいると分かればそれは穏やかに微笑んだ。
「……おはようございます」
「どっ……!!」
どうして私がここで寝ているのかと言いたいのだろうが、声など出ないほど彼女はパニックに陥っていた。
「そうですね……啓吾さんがいない間くらい最高の睡眠と目覚めを追求したくて……」
「ひゃっ!!」
そう告げて額に口付けを一つ落とす。もう本気で解放してくれと思うが、秀が自分の目的を達成するまで柳を離すことなどまず有り得ない。
秀はようやく頭が回転してくると柳を抱いたまま上体を起こし、それはとんでもなく悪戯な笑みを浮かべる。
「それより、昨日は相当酔っていたそうですね。柳さんは酔うとキス魔になると」
「えっ!? うっ……!!」
自分が酔うとどうなるかは啓吾に聞かされているため、きっと周りに多大な迷惑をかけたのだろうと思う。
もしかしたらこの部屋で眠っていたのもその性じゃないかと、秀の黒さを理解していない柳は素直に謝った。
「ごめんなさい……記憶がなくて……もしかして秀さんにもご迷惑を?」
「いいえ、柳さんからならいくらでも大歓迎ですが、他の誰かにしたんじゃないかと思うともやもやして仕方ないんですよ」
すると秀はすっと柳の顎に指をかけてにっこり微笑み、さらに爆弾を落とした。
「柳さん、キスしていただけますか?」
「なっ!?」
「それぐらいしていただかないと僕の気が晴れませんし」
完全に柳の思考はショートした。それを見て実に楽しそうに秀は笑っているが、間違いなく満足いくまで解放しないという空気を纏っているのは確かだ。
このままでは本気でまずいと柳はおもいっきり秀の胸を突き飛ばした。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「おっと」
少しぐらついたがすぐに柳を閉じ込めてしまう。完璧に柳は逃げられなくなった。
「当然逃がしませんよ?」
「うっ……!! 秀さ〜ん!!」
「そんな顔してもダメです。この条件でもかなり譲歩してますからね。まあ、どうしても無理ならそれはそれで僕の自由にやりますが」
寧ろそっちの方が楽しいとでも言わんばかりに、秀はにっこり微笑む。それこそ本気でゴメンだと柳は涙目になりながら腹を括るしかなかった。
「うっ……!! で、でしたら目を閉じてください……」
「いいですよ」
柳を離さないまま秀は目を閉じる。むろん、ここで逃げようなどとしたらどうなるかなど想像したくもない。
そして意を決したように柳は頬に口付けを一つ落とす。それだけでも爆発してしまいそうだったが、秀がそれで許すはずがない。
「……柳さん、やり直し」
「えっ?」
「恋人なんですからここにしてください」
秀は自分の唇に指をあてると柳はくらくらして来た。もうこのまま気絶してしまいたいと思う。いや、いっそのことそうしようかと思うと至近距離まで秀の顔が近づいて来た。
「あっ……!」
「……したくなるでしょう? こんなに愛おしいんですから」
頭がじんとする。親指ですっと唇に触れられたあとは無意識だった。誘われるかのように唇を重ねる。ただ触れたいとそう心から思ったことだけは事実で……
それに秀は満足した笑みを浮かべると啄むかのようにキスを繰り返す。だが、互いの視線が絡まると秀は唇を離した。
「秀さん……?」
恥ずかしさの限界を超えていた柳は目が潤み、酔ったように頬を赤く染めて思考が停止しているようだ。
「……まずいですね」
「えっ? きゃっ!」
秀は柳を押し倒して上に覆いかぶさる。そして柳は初めて見る秀の表情に心臓が跳ね上がった。本当に熱っぽい……男の顔だ……
「秀……さ」
「柳、抱いてもいいですか?」
「えっ……」
顔が近づいてくる。秀の指が妖しく柳の髪に絡められる。鼓動は収まらない……
「壊したいと……そう思っていますが……」
「あっ……」
震えている。髪に差し込まれている指から振動が伝わる。そこからどれだけ自分を思ってくれてるのかが伝わってくるようで……
「……秀……さん」
震えながらも柳は秀の首筋に腕を回した瞬間、激しい口付けが柳の呼吸を奪った。脳髄から犯されているような感覚に陥る。
だが、そこまでだ。
「うわあ〜!!」
「この野郎!!」
「くたばれザコども!!」
突如下から聞こえて来た怒声やら銃声やらテロリスト達の暴動が甘い空気を払拭する。
「秀さ……ん」
「……ちょっと消しに行ってきます」
かつてないほど、秀はどす黒いオーラを放つのだった……
うぎゃあ〜〜!!
やっぱり秀は秀だったぁ〜!!
うん、もういろんな方面から苦情なりツッコミなり受けそうですが、あくまでもこの話は15禁です(笑)
だけどある意味ようやくって感じがしている作者です。
啓吾兄さんほどではないでしょうが、秀ならこれぐらいのことは言うかなぁと。
「壊したいほど愛してる」って気持ちが秀らしいかなぁと。(ドSだし)
啓吾兄さんはガタガタぬかすなっ!って感じで書きましたからね(笑)
とりあえず秀の気が晴れそうだったところに敵がやって来てますので、次回は……
さあ、日本に残ったテロリスト達の活躍を楽しみにしていてください(笑)