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天空記  作者: 緒俐
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第百四十九話:高校生組

 暑いなと思いながら本日デートの約束をしていた相手を翔は待っていた。しかし、デートといっても兄達のように女性のお供とかエスコートといった感じではない。

 寧ろ迷惑かけたお詫びと、折角の夏休みなんだから遊ばなくてどうするんだといういかにも学生らしい理由から成り立つデートである。


 だが、それを彼女の兄である啓吾が聞けばけっしていい顔はしないのだろうけど……


 するとパタパタとこちらに向かってかけてくる足音を耳にして翔はにっと微笑を浮かべた。


「すみません、少し遅くなりました」

「いや、俺も今来たとこだから」

「翔君がまともに来てれば二十分は待たせたかと思いますが?」

「なんでそういう返答になるかなぁ?」

「なんて言ってほしいんですか?」

「そういうときは男のさりげない優しさにくらっときて、翔君って優しいんですねとぐらい」

「さっ、確かに暑さで少し頭がおかしくなるぐらいは待たせたみたいなので早く行きましょうか」


 相手にするだけバカバカしいと紫月は目的地に向かって歩き出すと、翔は待てと追い掛けてくる。


 まともな会話さえしていれば周囲からカップルとぐらい見られるはずなのだが、どうも会話の内容がコントそのものなので姉に冷たくされている弟のような感じである。


 兄達のように背が高くて二枚目、おまけに女性に対するエスコートぐらい出来れば会話がコントでも幾分か高い評価は受けられるのだろう。

 しかし、二人はこの関係でいられることがとても心地良かった。



 それから十分ほど歩いて人通りの少ない場所にポツリと建っているケーキ屋を発見する。

 こんなところにも店があったのかと翔は感心した。


「紫月って結構あんまり目立たないような店知ってるよな」

「秀さんや宮岡さんが教えてくれるんですよ。あっ、スイーツは紗枝さんも詳しいですね」

「秀兄貴って聞いただけで、最近紫月がやけに裏の顔を持つようになったなぁってしみじみ思うんだが……」

「女性は少しぐらい秘密を持っていたほうが魅力が増すそうですよ?」


 悪戯っぽく紫月は笑う。おそらく紗枝から教えられたんだろうなと翔は笑った。


 そして店内に入ればいくつものケーキが陳列していて、成長期の少年は歓声を上げた。


「へぇ〜うまそうだな!」

「どれにしようか迷ってしまいますが……あっ、翔君、全部とか言わないで下さいね? 食い逃げとか嫌なんで」

「するかぁ!! それに俺だってこの日のために紗枝ちゃんのとこで昨日バイトしたんだぜ?」

「えっ!? 紗枝さんに迷惑かけたんですか!?」

「だからなんで秀兄貴と同じ反応なんだよ!」


 本気で拗ねるぞと翔が抗議するので、くすくす笑いながらも紫月は謝った。そして一通り注文を済ませた後、二人は日差しが柔らかな席に腰掛ける。


「それで、どんなバイトしてたんです?」

「用心棒兼荷物持ち」

「ああ、確かにそれなら翔君でも出来ますね」

「だけど大変だったんだぜ? 紗枝ちゃん買い物する量半端じゃなくってさ、洋服屋はともかく下着屋まで付き合わされて……」


 あれは拷問だと翔は本気でうなだれる。一応、翔も思春期の男子には違いないのだが、紗枝は弟を連れ回しているような感覚らしく全く羞恥心などないらしい。


 そして、それを聞いて紫月も非常に哀れだなという表情を翔に向けた。


「普通ならそれなりの批難の言葉をいうはずなんですが、翔君だと不敏にしか思えなくなりますね……」

「っていうか、医者になるとごく一般的な男女の境界線はなくなるのか?」

「たまたま龍さんと紗枝さんがそんな感じなだけじゃないんですか? 守るところを守ってさえいれば、兄さんほど文句は言わないでしょうし」


 あれはシスコンというだけではないかと翔は思うが……


「まあ、末っ子組がそれなりの良識をもって成長すれば、兄さん達は例えどれだけ周りが迷惑を被ろうと構うことはないと言い切りますよ」

「本当、兄貴達は末っ子組には甘いからなぁ」


 結論がそう行き着いてしまうのは互いが三番目という生まれだからだと思う。そして話は修正されていく。


「じゃあとりあえず資金はあるんですね?」

「まあ、ケーキ食うぐらいは」

「では遠慮なくいただきます。レアムースチーズケーキも気になってたんですよね」


 そういって笑う紫月は歳相応の少女のようで……


「紫月」

「なんですか?」

「紫月ってさ、なんだかんだ言っても柳姉ちゃんの妹で夢華の姉なんだよな」

「そんな当たり前なこと言ってどうしたんです?」

「いや? 紫月って啓吾さんに似てると思ってたけど、やっぱり柳姉ちゃん達に似てるなって思っただけ」

「そうですねぇ、だけど姉さんも夢華もふわふわしてますからあまり似るのもどうかと……」

「ふわふわした紫月……」


 二人は想像してすぐに思考を止めた。


「翔君、私は私のままがいいと思いませんか?」

「ああ、絶対今の紫月のままがいい。クールな柳姉ちゃんはまだ想像してかっこいいけど、紫月が変わるってのは勉強大好きだって言ってる俺ぐらい想像しない方がいい気がする」


 非常にわかりやすい例えである。そしてケーキが運ばれて来て、紫月はレアムースチーズケーキを追加注文してアイスティーを一口飲んだ。


「ですが……」

「ん?」

「龍さんみたいな医者になった翔君は見てみたいですね」

「そんなもん?」

「ええ、なっていただければ私の苦労も減りそうですし」

「おい……」


 結局そういうことかと翔はつっこみ紫月は笑う。しかし、これから成長していく翔を隣で見ていられる気がする。

 あれだけ素敵な兄を持つ弟なのだ。きっと彼らしさを残したまま素敵な青年にはなっていくのだろうと紫月は思っている。


「だけど紫月、俺が龍兄貴みたいになったらお前絶対俺に惚れるな!」

「なっ!」


 思わず紫月は赤くなる。それに満足そうな笑顔を翔は浮かべた。


「うんうん、じゃあこれからも出来るだけ紫月と一緒にいるようにしよう」

「ちょ、翔君!」

「だってさ、紫月だってこれからもっと料理上達たらさらにうまいもの食わせてくれるだろうし、勉強だって助けてくれるだろ? そんな彼女がいたら俺は毎日幸せだなって」

「結局そういう理由ですか!」


 一瞬のときめき分を返せといってやりたくなったが、その分は天宮家で待っている者達のお土産で償わせてやろうと紫月は思い直す。


 だが紫月の心の中を占める少年の割合が確かに増えているのは事実だった……




はい、翔君と紫月ちゃんの第三章で約束していたケーキ屋デートでしたが、相変わらずな二人です。


ちょっとした恋愛話が出てもコントに変わるのは二人ならでは!

龍さんと沙南ちゃんと同じくらいくっつけるのは難しい(笑)

まあ、まだ互いが気になってるけど一緒にいて飽きないのが高校生組の関係です。

先生と生徒にもなってますが(笑)


だけど第四章に入って恋愛話が多いこと……

まだパンチ一つ繰り出してないのは珍しい。

一番最初に喧嘩してくれるのは誰かなあ??




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