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天空記  作者: 緒俐
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第百四十三話:再会

 夕闇が落ちて来て、本日のディナーのために渡されたチケットをもって二人はホテルの入口までやってきた途端に立ち止まった。

 外装はまだ高級ホテルという感じだったが、内装が異次元空間にでも迷い込んだのではないかというぐらい王侯御用達の造りだったのである。


「……すっごく高そうよね」

「ああ……チケットには絶景のレストランみたいに書いてあったけど……」


 この恰好で足を踏み入れていいものかとすら感じられる。もちろん、菅原会長から貰ったチケットだといえばそれ相応の応対はされるのだろうけど。


「どうしよう……」

「行き先変更するかい?」


 そう話していると、ふくよかなマダムがぶつかって沙南が転んでホテルの自動扉が開く。


「ごめんあそばせ」


 マダムはそう告げてどんどん奥に入っていく。


「沙南ちゃん大丈夫かい?」

「ええ、ありがとう」


 差し出された手を掴んだ瞬間、館内はいきなり賑やかになった。くす玉が割れ、花びらが舞い散り、管弦楽団が祝福のメロディーを奏で始める。


「な、何だ!?」

「おめでとうございます! 当ホテル十万組様のお客様に選ばれましたお二人です!」


 ホテルの支配人が声高らかに祝福を述べれば、従業員達が笑顔で拍手を送る。それにどうすればいいのかと二人は困惑した。


「え、えっと……あの……」

「その、俺達はただこのレストランに食事に来ただけで……」


 とりあえずレストランのチケットを渡すと、支配人ははっとした。どうやら菅原会長から話は通っているらしい。支配人は頭を深く下げて挨拶が遅れたことを詫びた。


「これは大変失礼致しました。菅原会長からお話は伺っておりますので、ご案内させていただきます」


 支配人自ら二人を先導し、エントランスホールの赤じゅうたんが敷かれている階段を上ると二人に向き合った。


「沙南様、菅原会長よりドレスが届いております。メイド達が控えておりますのでご案内させていただきます」


 確かにこの高級ホテルのTPOに合わせて着替えた方がいいだろうな、と沙南は思ったので龍に一言告げる。


「じゃあ後からね、龍さん」

「ああ」

「では龍様、別のものが案内致しますので少々お待ち下さい」


 支配人はそう告げて一礼すると、沙南を更衣室へと先導していった。


 そしてすぐに龍は案内する者の気配を感じて後ろを振り返れば、そこにはスーツ姿の女性が立っていた。

 その女性の姿に龍は見覚えがあった。いや、そのような表現をすべき相手ではない。


「……君は」

「お久しぶりです、天空王様」


 忘れるはずがなかった。高原の傍らにいつもいた和装美女、そして龍がずっと気にかけていた女、桜姫がそこにいたのだから。


 彼女は深く一礼し優美な笑みを浮かべた。


「沙南姫様のお支度が整うまでの間、お相手を務めさせていただきます。どうぞこちらへ……」


 ふわりと花の香をさせて、桜姫は龍をテラスへと導いていった。



 夜風が通り過ぎる。まるで夜景全てが自分のものだと主張する事が出来そうなほど、この場所から見える光の世界は美しかった。


 そんな世界を見下ろしながら、桜姫は龍に向き合うと心から彼女が思っていた言葉を述べる。


「ようやく見えることが叶ったこと、心より嬉しく思います」

「こちらも会いたかったよ。高見の見物を決め込んでいた君と直接話をしたいと思っていたからな」


 警戒を解くわけにはいかない相手だと、龍は固い表情のままそう返す。そして少し皮肉めいた言葉を選んだが、やはり相手の表情は優美なままだ。


 それならばと龍はすぐに切り替えた。


「単刀直入に聞く。君は一体何者なんだ?」

「おっしゃっている意味がよく分かりませんが……」

「ごまかすな。君の力は人間技と言えるものじゃない」


 龍から発する空気に、僅かに桜姫は反応を示す。優美な表情が少しだけ崩れたがそれは柔らかな笑みへと変化していった。


「……その空気、二百代前に大分近づいて来ているようですね」

「質問の答えだけを返してくれないか? 俺は敵に対してそこまで寛大でいられる性質じゃないんだ」


 さらに龍は相手を威圧すると桜姫は目を伏せて答えた。


「人間技ではない……確かに天空王様のおっしゃるとおりです。ですが、私にこの力を与えたのは紛れも無くあなたです」

「何だって……!?」


 一体どういう事なのだとその目が尋ねると、桜姫は少し悲しそうな表情を浮かべる。


「残念な事です、まだ全てを思い出されてはいないのですね……」

「ならば答えろ。何故俺が敵である君に力を与えるような真似をした?」


 その問いに対して桜姫は首を横に振る。


「申し訳ございませんが、私にもその理由はわかりません。ただ、二百代前に私を桜姫と名付け、力を与えたのは間違いなく天空王様なのです」

「……俺は敵に力を与えたのか?」

「それが二百代前の事実でございます。そして沙南姫様があなたの前で貫かれて命を落としたあの戦、あの時に天空王様は自分の記憶を封じると共に私の記憶も封じた。

 だからこそ、私は主達とは別に最後の天の覚醒を願っております」


 桜姫の瞳が僅かに揺れる。どこかで見たことのある表情だが思い出すことは叶わない。


「天空王様、三つの天が覚醒しあなたの目覚めは近づいている。おそらく我が主達はこれまでになく天空王様を覚醒させようと力を奮われることでしょう。

 天空記終章と同じ結末を辿らないことを祈っております」

「また俺が全てを滅ぼすと?」

「それが二百代前の事実です……」


 桜姫の髪がふわりと夜風に弄ばれる。それとともに花びらが舞始める。


「ならば俺は覚醒を選ばない。そう君の主に伝えておけ」

「……かしこまりました。では、次にお会いするときは……」


 桜姫はふわりと笑みを零して消えていった。テラスには数枚の花びらが残されていたが、それがまた夜風に乗って消えていった……



さて、久しぶりに桜姫が登場。

龍に告げるだけ告げて去っていきましたが……


それにしても相変わらず彼女は謎だらけです。

彼女の名も力も与えたのは二百代前の龍だということらしいのですが……

でも桜姫は敵なんだけどなぁと……

うん、きっと何かあるんでしょう。


とりあえず今回はこの桜姫が参戦してきます。

多分今まで以上に龍も苦戦するかと思われますので、今後をお楽しみに♪


さて、次回はドレスアップした沙南ちゃんと対面ですが、ヘタレになるんじゃないぞ、龍。

プロポーズするにはすっごくいい環境を用意してくれてるんだからね(笑)




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