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天空記  作者: 緒俐
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第百四十二話:組織名「GOD」

 夕焼けの差し込む部屋で秀は相変わらずパソコンで何やら仕事中。動く体力は充分過ぎるほどあるのだが、安静にしておくようにと龍に言われては逆らうわけにはいかない。

 ならば出来ることをと今後のために情報収集なり資金の調達なり、休憩がてら柳との旅行計画をどう転んでも自分が満足できるようにと考えているわけである。


 そんなことで一日を潰していると、部屋の扉をノックして医者が入って来る。


「失礼するわよ、秀ちゃん」

「紗枝さん」

「あら、柳ちゃんじゃなくって残念って顔ね」

「そうですね、今日一日柳さんの顔見てませんからね」

「あら、一体何をしたのかな、秀ちゃん?」


 悪戯っぽい笑みを秀に向けると、秀は苦笑して答えた。


「というより返り討ちにあったというところですかね、僕が思ってたより柳さんは僕のことを好きでいてくれたみたいで」

「あら、惚気話なら酒の肴に聞きたいところなんだけれど?」

「それは勿体ないのでやめときますよ。それより紗枝さんこそ啓吾さんと……すみません」


 紗枝があんまりにも綺麗な笑みを浮かべるので秀は真顔で謝った。朝、啓吾があそこまでボロボロにされていたのだ、この話題に触れていいわけがない。


 紗枝はテキパキと熱やら血圧やらを測り、背中の傷を確認して問題無しと診断を下すと一つ溜息をついた。


 このあとは啓吾のところに行かなければならないのだが、何となく気が重い。まあ、顔を合わせればいつもの応酬を繰り広げるだけなのだけれど。


「……あいつも何考えてるんだか」

「啓吾さんがですか?」

「そうよ。ああいうタイプって普段は損しない癖に、肝心なところは人に悟られずに傷つくタイプだもの」

「気に入らないんですか?」

「というより気に食わないわね。啓吾のやつ、人のことは守ろうとするのに自分のことは二の次。

 龍ちゃんのことを気に入ってるから力になりたいんだろうけど、私達だってあいつのこと心配してるってのに」


 だけどそれを受け取らずに自分を守ろうとする。


 今朝ももう少し冷静だったなら気付くべきだったのだろう。自分を抱きしめて眠っていたのは、菅原財閥内の内通者が片付くまで自分を守ろうとしていたためだと。

 そうやって全部隠してどこかで傷ついてる啓吾が、紗枝は無性に気に食わないのである。


「そういう人ですからね、あの人は」

「だけど啓吾の癖に水臭いの! 本質はいい男なんて認めるのも気に食わないし」

「確かにそうですねぇ。普段が普段ですからねぇ」


 その場に本人がいれば間違いなくツッコミの一つも入りそうな会話である。


「はあ、とりあえずあのバカの回診に行ってくるわ。天空記でも読み耽ってるだろうから大人しくしてそうだし」

「待ってください、紗枝さん」

「なに?」


 秀は少し戸惑ったような表情を見せた。珍しいこともあるもんだと紗枝は立ち止まる。


「その聞きたいことがありまして……今から十年前、アメリカで起こった世界医療研究所爆発事件のことなんですが……」

「それがどうしたの?」


 穏やかな声の中に深いところまで探るのではないと紗枝から告げられる。

 しかし、彼女の弟分として秀は告げないわけにはいかなかった。


「……言いにくいことなんですが、その研究所に世界一の権力者達、組織名「GOD」が関わっています」


 紗枝は目を見開いた。世界一の権力者達、つまり「GOD」はいま紗枝を狙っている組織であり、十年前に彼女の実母が殺された事件の裏側にも存在していた組織だ。


 それがアメリカで十年前に起こった世界医療実験所の爆発事件、つまり啓吾が幾人も殺めた事件にも存在していたのだという。


「だから教えてください。十年前、なぜ篠塚兄妹はそこにいて、そして啓吾さんがその研究所を爆破させたのか。それに……」


 あまり考えたくもないことだが、秀は辛そうな顔をして尋ねた。


「紗枝さんが狙われ始めた理由は、啓吾さんにも関係があるんじゃないんですか?」


 なんだかんだ言いながらも秀は啓吾のことを信じている。それに自分に篠塚兄妹の過去を話してくれないのも、柳達を傷つけないためであって、何より柳自身が秀に知られたくないと思っているから。

 だが、知らなければ当然疑いも浮かび上がってくる。


 しかし、紗枝はそれについては責めず、簡潔に結論だけを告げた。


「……悪いけど私の口からあいつの過去のことは話さない。多分龍ちゃんも同じ」

「ですが……」

「たとえ啓吾の所為で私が狙われてるとしても、それは相手の都合であって啓吾の所為じゃない。秀ちゃんだって分かってるはずよね?」


 だから知らないままで良いのだと紗枝の表情はそう物語っていた。


「それに私の心配より秀ちゃんはちゃんと柳ちゃんを守ってあげなさい。ちなみに柳ちゃんね、今日何回もどんな顔して会えばいいのかってこの部屋の前であたふたしてたわよ?」


 秀はきょとんとして苦笑し始める。顔を真っ赤にして自分に会わなければならないのだろうが、だけど恥ずかしくて会えずに迷ってる柳の姿がたやすく想像できて……


「いつまで経っても僕達は紗枝さんの弟なんですねぇ」

「姉としては弟がいい男になってくれると嬉しいものよ?」

「じゃあ、少し出歩いてもいいですか?」

「少しだけなら許可したげる」


 そういって紗枝は笑って秀の部屋から退出した。しかし、廊下に出ると少しだけ表情は暗くなる。


「GOD……」


 そう一言だけ呟いて紗枝は次の患者の事を考える。

 秀の口からその名を聞いたときハワード国際ホテルでロバートに聞かされた事が頭を過ぎったのだ。


 啓吾達、篠塚兄妹がかつて捕らえられて研究材料として扱われていた組織名、その名前が「GOD」だということを……




世界一の権力者達の組織名が「GOD」と判明。

しかも篠塚兄妹をかつて捕らえて研究していた組織でもあるみたいですが……

これもまた後に明かされていくお話です。


それにしても啓吾兄さんが気付かないところで自分を守ろうとしてることに紗枝さんは気付いたみたいで……

そりゃ彼女の性格なら「水臭い事ばかりしてんじゃないわよ、このバカ!」とぐらいいいますよね……


うん、啓吾兄さんってどこか掴めないけどいい男です(笑)

普段はシスコンで節操無しでちゃらんぽらんでグータラでもいい男です(笑)


そして次回は、気苦労性で責任感と家長という字が顔に張り付いている堅物の恋愛初心者、龍さんに視点は戻ります(笑)

でも、本当にいい男ですよ(笑)




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